クエスト開始
伝説級クエスト
ワイトスレイヤーを創り出せ。
報酬
滞納した税金と向こう三年の税金免除
トロイは満足そうに報酬を見る。
「最高ですなぁ。」
デービッドは苦虫を噛み潰したような顔だ。
「…いくら税金を納められなかったとはいえ、この扱い…!」
「アンタねぇ…自営業やるなら売上の管理くらいしときなさいよ。」
「えらくこまめに帳簿つけてる割には困窮してるな。」
オーウェンとミッシェルがトロイの出したよろず屋の帳簿を見る。
こないだの蒸気車でデービッドは全財産の3/5を注ぎ込んだのだが…
その大赤字で経営が破綻してしまい税金を納められない事態に陥っていたのだ。
トロイは経理について非常に聡い。
今回の依頼が無ければ妖精王から借金をするかそれとも妖精王からのクエストを受けようかと考えていた。
国家の為に尽くす勇者は当然税金とは無縁の存在。
聖女については教会がバックについている。
勇者と聖女の依頼のクエストであり、バックに王国があるというならば、引き受ける代わりに税制で優遇措置を受けたい所であった。
相手が伝説級の怪物、そして依頼の品は伝説級の武器。
だがこちらには勇者と聖女がいる。となれば後は自分達とデービッドがワイトスレイヤー級の武器を作ればいい。
条件としては厳しくはあるが、創造の力を使わなくとも作れる可能性が全く無いわけではない。
トロイとしてはこの報酬の半分の条件でも良しとする所である。
「この世で最強の存在は税務署でやすからねぇ。」
差し押さえから強制労働では敵わない。
落ち込むデービッドを見ながらトロイはクスリと笑った。
ーー
「ワイトスレイヤーかぁ…」
店の裏の工房でデービッドは対魔スキルに特化した剣を考えた。
「素材は…ミスリルになるだろうな。ミスリルに神の加護をつけたものというなら、確かに不死者に良く効く剣になる。」
だが依頼の品はワイトスレイヤー。
単なるミスリルソードではない。
「えーと伝承のワイトスレイヤーは…」
『この世界の始まりとされる王、サターンが腰にしていたとされる聖なる剣。
サターンの力と愛を受けた剣は白く輝き不死者に死を、生けるものに生を与えたとされる。』
「これ魔力で回復の術式組んで刀身に見せていただけなんじゃねぇの?」
もし仮にそうだとしても、そうなると帯刀出来ない。
魔力を注ぐ器があってもそれが器だけであれば鞘を誂える必要がないからだ。
そしてワイトスレイヤーの本体自体もドワーフが作ったという事項がある。
本来は機密事項であるが、ソルが以前そう言っていたので間違いは無い。
「…そうだと仮定して創造してみるか。素材はミスリル、回復の術式を纏う剣…」
デービッドは目を閉じる。
デービッドのイメージにあるのは白く輝く剣であったが、実際に目の前にあるのはミスリル銀の青味がかった白の剣である。
「だーめだこりゃ。素材自体が違うわ。」
さらりと目の前の剣が風化していく。
破壊の力の影響下にある以上創造のスキルは相当に制限されるが、イメージを形にする分だけは影響を受けない。
が。よく持って10秒程度だ。
ミッシェルが横にいて状態固定をすればそれは使えるものとなるが、デービッドの目指すものは再生産可能のものだ。
如何に強い武器であろうが必ず後発に遅れを取る。
自分一人で考え付く事には限度があるが皆で考えていく事に限りはない。
いくつかのテストの結果ーー
「ダメだったみたいですねぇ…」
工房で真っ白になっていたデービッドが、トロイに発見されたのであった。
ーー
ミッシェルの回復魔法を受け、デービッドは目を覚ました。
「工房で魔力使い果たして倒れていたんだって?ド馬鹿。」
魔力切れは体力切れを引き起こす。体力が回復すれば魔力も少し回復するが気休め程度だ。
「あー回復してくれたのか。ありがとう。」
デービッドはすぐに立ち上がると魔力回復の薬を飲む。
「こうしちゃいられん。次を試さんとな。」
フラフラと工房に向かうデービッド。
「あっ、ちょ…待ちなさいよ!まだ体力フルに回復してないわよ!」
オーウェンはトロイと梅昆布茶を啜りながらポツリと言った。
「仕事になると手を抜けない職人だな、あれは。」
「ひどい時は一週間くらい飲まず食わずでやりますからねぇ。」
「創造すりゃ楽なのに。」
「それを酷く嫌うんでやすよウチの旦那は。作るからには再生産可能なものかどうかという事と、その素材まで突き詰めて考えないと気が済まない。
長生き出来ないタイプでやすねぇ。」
目を細めながらトロイは梅昆布茶を味わう。
トロイに言わせると、戦いの時のオーウェン、救いを求める者を目にした時のミッシェルも全く同じであるが。
「もう、あの馬鹿また倒れるんじゃない?」
ミッシェルは椅子に座る。
「倒れる前に壊れて暴れまわりやすよ。そうなりゃ完成間近でやす。ところで御二方、お仕事はどうされたんでやすか?」
「「休暇。」」
二人の声がバッチリハモる。
「それは重畳。」
ならば、とトロイは緑茶のお代わりとみたらし団子を用意するのであった。
ーー
「おーい、デービッドいるかー?」
声が響く。
「?トロイ、お客様?」
「なんだ?どこからの声だ?」
オーウェンとミッシェルが周りを見る。
そこには一匹の黄金に輝く蝶がいた。
トロイは刀を地面に置き片膝をついて頭を下げた。
「妖精王様。我が主は工房にこもっておいでです。」
「そっかぁー…城抜け出して来たから遊びにいこうと思っていたんだけどなぁー…」
蝶は頭を掻く。
ミッシェルとオーウェンの目がこれ以上ない程開かれ…
二人は叫んだ。
「「よ、妖精王オベロン!?」」
「なんだぁ?俺を知ってるのか?」
威厳も何もない口調でオベロンは応えたのであった。
「妖精王がどうしてこんな所に…」
ミッシェルが唖然とした顔でオベロンを見る。
「あーお前見覚えあるわ。人間の聖女か。」
オベロンはミッシェルの周りを飛ぶ。
「お前も見覚えあるわ。勇者だろ。」
オーウェンは畏まり、はい、と答える。
「あー固い固い!固い挨拶いらねぇ!」
オベロンは手を振る。
「同族からは仕方ねぇが、公の場でない所で会う俺は妖精王じゃなくて一介の妖精だぜ?そんな奴に敬語いらねぇよ。」
かなりくだけた人柄のオベロン…。
妖精王国の城で会ったオベロンは侵し難い威厳を備えていたが、この場のオベロンは…
「(デービッドみたい…)」
二人はそう思った。
「工房覗いてくるか。あいつも根詰めてはロクな発想出ないだろ。」
ふわり、と飛ぶオベロン。その姿はあくまで優雅だ。
「なんであいつあんな大物と知り合いなわけ?!」
ミッシェルがトロイに問う。
「妖精王様に限らず妖精は皆騒ぎ好きでやすから…。」
頭をガクガク揺らされたトロイが首を振る。
「旦那といたら退屈とは無縁になりやすからねぇ。馬鹿騒ぎしたい時は旦那の所に行っとけみたいな感じでやすか。」
「しかし…信じられん…」
オーウェンが首を振る。妖精はエルフですら滅多に会えない。トロイのように人に仕える者ならばともかくとして。
それが色々すっ飛ばして妖精王などとは最早ギャグのレベルだ。
「また邪魔しに来やがったか、クソバエーっ!」
「誰がハエだ無礼者がぁーっ!」
工房から叫び声が響く…。
「よ…妖精王をハエ呼ばわり…!」
「怖いもの知らずにも程があるぞ…!」
「いつもの事でやす。」
トロイは帯刀すると羽織を着る。
「旦那が根負けして遊びに行く事になるでやしょうから、あっしらも用意しやすか。」
水色の羽織。背中に「誠」と一文字ある。
「変わった羽織ね。」
「昔世話になった一団が着ていたのを拝借しやしてね。」
トロイはそう言うと財布を懐に入れたのであった。