最強の力は使わないからこそ最強と呼ばれる
初投稿です。
皆様の暇潰しにでもなれば。
破壊、創造、再生という三神一体の力。
破壊の力を手にした勇者は世界を破壊しようとした暗黒の破壊神を破壊した。
再生の力を手にした聖女は今も各地を転々とし、人々に尽くしている。
そして創造の力はーー
「よし、出来た!飲めばたちどころに絶頂に達する薬だ!」
…完全に無為に使われていた。
ーよろず屋ー
そう看板に掲げられている、とある王国の城下町の片隅の小さな店。
商品は珍妙なものから日用品まで様々である。
依頼によってはトレジャーハンティングの真似事までするし、要人の警護まで行うが…そんな依頼なんて滅多に無いし商品自体が珍妙なものが多い為に万年貧乏という吹けば飛ぶような零細商店である。
「まぁた無意味なもん作ったんですかい?デービッドの旦那ぁ。」
背後からの声にデービッドと呼ばれた男が振り返る。
年の頃は20位であろうか。あどけなさの残る顔立ちと体格の華奢さが彼を幼く見せている。
「無意味なんかじゃねぇよ。これがあれば少子化問題も一気に解決だ。」
「それってタチの悪い媚薬じゃありゃしやせんかい?作ったもんが犯罪に使われて牢屋にぶち込まれるのは御免被りやすぜ。」
「そんな固い事言うなよ、トロイ。」
デービッドは肩を竦めると煙草に火を付けた。
トロイと呼ばれた背後の者はキセルを燻らすと、ポン、と灰皿に火種を落とした。
「ところで旦那、それ妖精王様に献上するんですかい?」
「冗談言うなよ、女王に殺される。」
剣と魔法のこの世界において人間のみならず妖精や魔物と呼ばれる者も存在する。
トロイもまた猫の妖精…
種族はケットシーである。
普通ケットシーは西洋風の軍服を着用しマスケットを持っているのだが、トロイは真逆と言っていい。
異世界を冒険した時に肺を病んだ剣士に貰ったという刀を腰に下げ、着流しを着用し、懐にはデリンジャー、足元はご丁寧に足袋と草鞋だ。
旅の際には股旅姿を好み、冒険や戦いに赴く時は背中に誠と書かれた水色の陣羽織を着用している。
浮世離れにも程のある格好だが、本人はいたく気に入っているのでデービッドも気にしないようにしている。
「また憲兵に逮捕されなけりゃいいんですがねぇ。嫌ですよ?あっしがいちいち出向くのは。」
デービッドはこの王国ではかなりの有名人だ。
有名といってもかなりネガティブな方面にだが。
よろず屋として暮らしているデービッドだが発明家としての側面もある。その発明品の珍妙さには定評があり、この時代としては考えられないようなオーパーツを作る事もあれば、あり得ないような発明をして大騒動を引き起こす事がある。
憲兵まで出動し、デービッドが牢屋にぶち込まれた騒動を掻い摘んで言うと。
蒸気で動く自動車を発明し起動実験をしたらボイラーの設定ミスで大爆発し草原一面が焼け野原。
爆心地で治療を受けていたデービッドが重要参考人として逮捕されたのだ。
「あの時はよく死ななかったもんだよなー。」
「妖精王様がいなかったら絶対に死んでやしたけどね。
妖精女王様まで出動した大騒動でやしたなぁ。」
妖精王・オベロン。
この悪戯好きの王様はデービッドと兎に角気が合う。
オベロンに限らず妖精は悪戯好きが多く、珍妙な騒動を巻き起こすデービッドは妖精王国でも有名だ。
風変わりな人間だが、彼を取り巻く妖精はかなりアクが強い。
今この場にいないが、地の妖精のノーム。
ノームのくせにドワーフの真似事にハマり、デービッドと意気投合。ノームに名前がないと知ったデービッドはノームに「ソル」と名付けた。
因みにデービッドはソルについてはドワーフであると思っている。無礼な話ではあるがソルは一切気にしておらず、豪快に笑い飛ばして終わりにした。
「しかし旦那もまぁ…創造の力を使えば何でも自在でやしょうに。」
「クソの役にも立たねぇよ、こんなん。」
デービッドのユニークスキルである『創造』。このスキルは万能ではあるが…欠点も数多く存在する。
まず。
『破壊』の力が強い場合、『創造』は何の役にも立たない。精々手品レベルにまで落ちる。
現在『破壊』のユニークスキル持ちの勇者は戦いの真っ最中。当然破壊の力が行使されているので、デービッドに出来る事は手から花を出す位。
全力でやれば話は別だろうがその際の消耗も激しい。創造するものによっては命懸けになる事もあるのだ。
無から有を作り上げる事自体が人の理から外れているが、それ故に相当の制限がある。
次に。
『創造』で作られたものには時間制限があり、時間制限を過ぎてしまえば無に帰る。無に帰る前に『再生』のスキルで状態を固定出来ればその限りではないが、そのスキル持ちの聖女とデービッドは犬と猿と呼ばれる位に仲が悪い。
ちなみに聖女と勇者は仲はそこまで悪くはなく、勇者とデービッドは同性という事もあり仲は悪くないが良くもない。
尤も状態が固定するまで創造の力を込め続けていたら状態を維持する事は可能だが、それは次の最大の欠点に繋がる。
最大の欠点。
それは…力を使い過ぎると暴走状態となり世界改変を起こしかねない。願望実現能力のようなもの故に世界を好きに変えてしまう事すらやろうと思えば出来てしまうのだ。
『破壊』は無に帰す事、『再生』は壊れたものを治す事、『創造』は無から有を作り上げるもの。錬金術の最高峰のようなものだ。しかもノーリスクで無限大の力を引き出せる。
『創造』の力が高まり暴走してしまうという事があくまで前提としてあるが、これらの危険性を考えると
使いたくても使いたくないし、使わないなら使わないに越した事はない
スキルなのだ。
意識的にこんな力を持つというならば狂ってもおかしくないが、デービッドはスキルは便利な手品程度のものと考えているし、錬金術師のほうが余程有用であると彼は思っている。
並外れた力だけに悪用しようとする輩も多いのだが、彼を悪用するという事はイコールで妖精全てを敵に回す事と同義となる。
悪戯好きの妖精達は場を引っ掻き回すのが大好きであり、デービッドのようなイレギュラーな存在が兎に角好きだ。
各王国で話し合った結果…
「勇者と聖女は勝手に世界を回るし、危ないポンコツは好きにさせておこう。」
という結論に至った。
因みに勇者の武装全てデービッドが創造したが、その全てを嫌がらせのような禍々しいデザインにした為、勇者は各地で魔族と間違われているが、これも業腹だ。
聖女の持つ杖もまたしかり。
髑髏のついた杖で魔力を込めると目が光る機能と使用者の気分次第で形状を変える機能を無駄に搭載した為、聖女の杖の犠牲者の第一号はデービッドとなった。
その時の杖の形はひどく禍々しいモーニングスターであったという…。
「さーて今日も一日頑張りますかね。」
「あっしは店番しときやすわ。」
トロイが店に暖簾をかける。
西洋風の街並みの中でこの暖簾というものは異様に目立つ上に周りから浮いている事この上ないが、目立つ事は良い事とデービッドは放置している。
布を藍で染めたこの仕事はトロイの仕事だ。
デービッドには理解出来ないがトロイは藍は洗うと色のあわいが出て良い風合いになると言っており、事実いい感じに藍が落ちた暖簾は落ち着いた趣きを見せている。
「依頼も無ければ商品が売れずに金も無し。無い無い尽くしだなこりゃ。」
前述の蒸気車の大失敗のおかげでデービッドは全財産の3/5を失った。
命あるだけ儲けだった、と無駄に前向きに考えて再度儲け話を考える。
この世界にある魔石…魔道具というものに関してデービッドの考えは否定的だ。
魔道具は庶民には高過ぎる上に運用にも魔導師を雇わなければならないなどコストがかかる。
コストを考えるとボイラーを使ったほうが絶対にいいが…技術として確立されていないものをイチから理論体系を作っていくのはなかなかに手間がかかる上に材料費もタダではない。
ミニチュアの蒸気車を組み立て走らせる。
理論体系として間違ってはいない、と確信に至るデービッドだが問題は山積みだ。
蒸気車の欠点は環境の破壊と熱暴走。そして鉄を精製する際の廃棄物の問題。
人の利便性のみを考えて妖精達の生活環境を脅かす考えはデービッドにはない。
蒸気車よりも進めた考えをしなくてはならないな、とデービッドはノートにプランを書き込んだ。
庶民に恩恵がなければ開発の意味無し、というのが彼の考えであり、一部の王族や貴族のみが肥え太る事については完全否定している。が、日々の生活を過ごすにはお金がいる。
それ故に彼にとって否定的な魔道具や武器も開発しているが…
性能のみに重きを置いたそれは莫大な魔力を必要とする上に運用コストは最悪という悪夢のようなシロモノになっていたのであった。
「はぁーあ。つまらん。」
春の日差しに誘われてつらつらと朝寝をしようとしていたデービッドにトロイが声を掛けてきた。
「旦那、お客さんでやす。」
涎を拭いて店に出たデービッドが見たのは…美しい金髪の女性と禍々しい鎧と剣を持つ勇者だった。
「なんだ、お前らか。」
ちっ、と舌打ちするデービッド。
「聖女と勇者が訪ねて来たんだから光栄に思いなさいよ、ド貧民。」
ぺっ、と唾を吐く聖女…。とてもそうは見えないが、これでも再生の力を持つ聖女だ。
「ミッシェル、落ち着け。」
こんっ、と剣の柄でミッシェルを勇者が叩く。
「痛いわねぇ、何するのよオーウェン。」
破壊の力を持つ勇者オーウェン。禍々しい兜の下にある目は優しいものだ。
「ちと厄介な依頼があってな。お前に剣を依頼しに来たんだよ。」
兜を脱ぐオーウェン。美男子とは決して言えない顔立ちではあるが、凛とした目と顔立ちはまさに勇者のそれだ。
「お前らが?ロクな事じゃねぇだろ。」
第一お前の腰にある聖剣で解決出来ないような厄介事ってなんだよ、しかもそこのビッチまで連れやがって、と悪態で応えるデービッド。
「ビッチ…!」
バチバチッとミッシェルから魔力が漏れる。
ミッシェルの名誉の為に言えば、ミッシェルは当然そのような経験は無い。
敬虔な神教徒であり神に全てを捧げる聖女だ。
「倒すだけなら聖剣でも事は足りるんだが、封印には向かん。」
「ほう、倒すのでなく封印か。となれば聖剣ではダメだな。」
デービッドが創造した聖剣は、全てを破壊する剣だ。
斬れ味は申し分無いが全てを破壊する故に封印には全く向いていない。
「剣を媒体に封印しなけりゃならん相手か。だからそこの女が一緒にいるわけだな?」
「そうよ、凡骨。」
「凡骨…!」
煽り合いにオーウェンが頭を抱える。
「皆さん、お茶が入りやしたぜ。」
絶妙のタイミングでトロイが三人にお茶を配る。梅昆布茶にお茶受けはお饅頭。
二人には全く馴染みのないものだが、トロイは気にした風でもない。
「…変わったお茶ね。この白いのはそのまま食べられるの?」
「ああ。トロイの趣味だ。」
ミッシェルはトロイを膝に乗せる。
「トロイって本当に変わってるわよね。腰に差してる刀も業物だし、この辺りじゃ見ない格好してるし。」
頭を撫で喉をこしょぐるミッシェルにトロイはゴロゴロと喉を鳴らす。
「東方を旅していたと聞いているが、風変わりだな。」
オーウェンはトロイの刀を見た。見るだけに留め決して手にしないのはトロイが許可をしないからであり、またオーウェンも剣を持ち主の許可なく手に取る程礼儀知らずではなかった。
「キヨミツブレードはあっしの魂でさぁ。」
視線を察したトロイはミッシェルの膝から降りるとキヨミツブレードをオーウェンに渡す。
オーウェンは恭しく剣に一礼し抜刀する。
「…激戦を戦い抜き一度死んでしまった剣だな。切っ先と全体の修復で見事に甦っている。数打ちの剣ではないが決して高価なものではない。名より実を取る実直な剣だ。だからこそ使用者はこの剣に命を預ける事が出来る。」
使用者の魂を感じる良い剣だ、とオーウェンはトロイに刀を返す。
「良い剣を見せてくれてありがとう。」
トロイは恭しく礼をし
「『破壊神を破壊した勇者』に褒められ、キヨミツブレードも喜んでまさぁ。」
と、腰に納刀した。
トロイの辿った旅路はデービッドも知らない。
ただトロイがデービッドに仕えるようになったのは、使用不能な程ボロボロになったこのキヨミツブレードをデービッドが修復してからだ。
『この刀を甦らせる事が出来たならば、あっしは貴方様に永遠の忠誠を誓いやす。』
刀を抱いて寝ていた猫の妖精の言葉。
その全てに偽りは一切無く、トロイはデービッドの従者として今を生きている。
「こんなド貧民よりも私に仕えてくれたらいいのに。毎日マタタビあげるわよ。」
ミッシェルの言葉にトロイは苦笑しながら
「魅力的な提案ではございやすが、二君に仕えるわけにはいきません。あっしはデービッド様の従者、ケットシーのトロイでさぁ。」
と返すのであった。
「で、封印すべき敵というのはなんなんだ?」
お茶を飲み終わりデービッドが口を開く。
デービッドに答えたのは意外にもミッシェルだった。
「不死者の王。リッチよ。」
「成る程。納得した。」
ミッシェルの言葉にデービッドは頷く。
不死者の王、リッチ。
死霊の頂点に立つアンデットの王。
アンデット故に破壊しても復活する為、倒しても倒しても堂々巡りとなるのであろう。
「となれば必要となるのは…不死者に特効のあるワイトスレイヤーか。」
ワイトスレイヤー。死霊に絶対的な力を持つ剣だ。
伝承の武器であり、現在では最早どこにもない武器である。
「ワイトスレイヤーを『創造』するとなると…今の破壊の力では俺が死にかねないな。」
『創造』の力を使えばワイトスレイヤーは出来る。だが、代わりにデービッドは死ぬ。
現在の破壊と創造のエネルギーは破壊にかなり比重を置いているのだ。
「死んだらリッチに頼んで不死者として甦らせてもらったら?」
「お前が不死者になれよクソビッチ。」
「なんですってぇ?!」
顔を寄せて口論する二人をオーウェンが掴み、乱雑に額をぶつけた。
「いい加減にしろ!」
ごんっ!と小気味良い音と共にテーブルに突っ伏す二人を見てトロイは煙管を燻らせ…
「(王国を代表する聖女の本性がこれだと知ったら皆どう思うんですかねぇ…)」
目頭を押さえながら首を振った。
そしてここよろず屋の事実上の最高経営責任者はすぐに気持ちを切り替え…ぷかぁ、と紫煙を吐く。
「して、オーウェン様、ミッシェル様。
お代はいかほどで…?」
ーー
更新は亀になるでしょうが、暢気にやっていきます。
拙い文ですし読み直しながら直していこうかと。