第8話
トトの塔でニスルの治療を終え、改めて自己紹介をする。
「改めて、儂がトトじゃ。よろしくな。して、今日は何の用じゃ」
トトの問いにサクルがここまでの経緯を説明する。
「ふむふむ。セトが殺され、次に狙われるとしたらこの儂と…分かったお主らに付いて行こう。」
トトがそう言い終えた瞬間だった扉が勢いよく開け放たれる。
「よぉ、いるかぁトトの爺さんよぉ」
かなりしっかりした体格の男が一人そこに立っていた。
「お?なんだ先客がいたか。まぁ問題ねぇ。全員殺しゃぁいいんだからなぁ」
男はそう言うと背中から槍を取り出す。
「ニスル、トトさんを奥の部屋へ!!」
飛朗斗がニスルに指示を飛ばす。
それと同時に腰の鞘から抜刀する。
「お、威勢がいいねぇ。そういう奴は嫌いじゃねぇ。かかってきな!!」
飛朗斗がジリジリと距離を詰めていく。
紫乃歩が最初の一矢を放つ。それと同時に飛朗斗が切りかかる。
男は紫乃歩の矢を首の動きだけで避け、飛朗斗の刀を槍で受け止める。
「横槍?横弓?まぁどっちでもいい。入れんじゃねぇよ」
男は片手で扉を無理やり外し、紫乃歩に投げつける。
紫乃歩は予想外の出来事に反応が遅れる。
避けれないと確信する。
紫乃歩の死角から火炎球が飛んでくる。紫乃歩へと向かっていた扉は火炎球に当たり、吹き飛ぶ。
「紫乃歩!大丈夫!?」
サクルが魔術で火炎球を放ったようだ。
「え、えぇ。助かったわありがとう。」
飛朗斗は刀で槍を弾き、がら空きになった胴へと返しの刃を向ける。
確実に当たった思った。しかし、当たる直前に飛朗斗は腹に鈍い痛みを覚える。
蹴りである。男はただ突っ立ったままの姿勢からあまりにも強力な蹴りを放つ。
次の瞬間、飛朗斗の体は宙を舞っていた。
「かはっ」
本棚へと衝突する綺麗に整頓されていた本が衝撃で飛朗斗の上へと降り注ぐ。
飛朗斗の体は完全に本の山に埋もれ、見えなくなる。
紫乃歩が駆け寄り、本をどかす。
「ふん。少しやりすぎたか…まぁいい。」
男はニスルとトトが向かった奥の部屋へと歩を進めようとする。
「待ちなさい!!」
紫乃歩が制止を掛ける。
「それ以上進んだらあなたを殺す」
紫乃歩は恐怖に手が震える。
「雑魚に用はない命が惜しくばそこで何もするな。」
手が離れ、矢が射出される。
男は槍を少し動かして弾き、奥へと進んでいく。
サクルは紫乃歩に近寄り、大丈夫?と聞く。
「え、えぇ。私は大丈夫。でも、このままじゃトトさんが!」
話していると、飛朗斗が埋まっている本の山が少し動く。
「紫乃歩!あそこ今本が動いた。」
サクルの指示で紫乃歩が本をどかしていく。
ある程度どかした途端、本が飛び散る。
「はぁ、死ぬかと思った」
飛朗斗が中から勢い良く出て来る。
「あれ?あいつは?」
「奥へ向かったわ。ごめん私じゃ足止めも出来なかった。」
飛朗斗は紫乃歩の頭をポンポンと撫でる。
「大丈夫だ。あとは俺がやる!」
そう言って飛朗斗は男の後を追う。
奥の部屋へと入ると男がトトの首を掴み持ち上げていた。
「ほう?追ってきたか。俺の蹴りを受けてまだ意識を保ってるとはなかなか見どころがあるな。」
「お前に褒められても嬉しくない!トトさんを離せ!」
「いいのか?こいつを離したら、次は確実にお前を殺す。それでもいいなら手を離すが?」
気圧される。
とてつもない圧が飛んでくる。
どれ程の力量の差があるのか全く分からない。この男の底が見えない。そう感じる。
「俺の任務はこいつを殺す事だ。お前たちの排除は含まれていない。邪魔さえしなければ殺しはせぬが?」
飛朗斗が刀を構える。すると、トトが掠れた声をあげる。
「逃げるのじゃ…今の主では叶わん。」
トトは笑っていた。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ」
トトの忠告を無視して突っ込む飛朗斗。
男は刀を弾き飛ばす。
飛朗斗の手から刀が抜け宙を舞う。
そして再び飛朗斗は男の蹴りで吹き飛ばされる。
床へと激突する飛朗斗。その飛朗斗の顔の真横へ飛朗斗の刀が刺さる。
「今は殺さないでおいてやる。次はない。家へ帰るがいい。」
そう言って男は握力でトトの首を圧し折り殺し、どこかへと去っていった。
飛朗斗達は男の後を追うことなく、ただ悔しさに涙を流す
謎の男
突如トトの塔に押し入ってきた謎の男。
槍のただ一本を用い、圧倒的なまでの強さを誇る。
今現在の飛朗斗達では手も足も出なかった…