第7話
敵のナイフによって負傷し、意識を失ったニスルを持ち上げてサクルの後を追う飛朗斗と紫乃歩。
飛朗斗がサクルに尋ねる。
「なぁ、どこへ向かっているんだ?早く手当しないとまずいんじゃないか?」
サクルが答える。
「その手当てができる場所へ向かってるの。口を動かす前に遅れないように付いて来て。」
しばらく走る一行。すると、開けた場所に出る。
そこには空からは見えなかった塔が聳え立つ。
「なん…だ?これ?」
その塔は遥か上空まで続いていた。
扉の横には両サイドに異なる石像が置かれていた。
片方は鳥、これはトキだろうか?そして、もう片方には猿のような生物を象っていた。
サクルはドアノブを口ばしで突っつく。
すると中から声がする。
「名を名乗れ」
サクルが名乗りを上げる。
「私はサクル。アヌビスの娘。トトさん!助けて!!お姉ちゃんが死んじゃうかもしれない!!」
サクルがそう言うと扉が勢いよく開き、老人が出てくる。
「急いで入れ!すぐに治療に取り掛かる。サクル準備を手伝え!」
サクルが慣れた様子で飛朗斗と紫乃歩を内部へと案内する。
中は壁が本棚になっており、全体に隙間なく本が並べられていた。
大きいサイズの長机の上に、傷口を上にしてそっと寝かす。
老人がお湯の入った桶を持って来る。
「おぬしたちも手伝え!机の周りに正確にこれを並べい!」
老人が陣の書かれた紙と蝋燭を渡してくる。
よく見ると、机の下には紙と同じ陣が書かれていた。
紙には赤い点が書かれている。
紫乃歩が最初に気が付く。そして場所を教え飛朗斗に蝋燭を置く様に指示する。
飛朗斗は紫乃歩に指示されるまま蝋燭を置いていく。
一方サクルは、清潔な布をどこからか持ってくる。
それをお湯の中へ落とすと、飛朗斗が置いた蝋燭に魔術で火を付けていく。
「よし、準備完了じゃ。おぬしたちしばし外へ出ておれ。」
老人が飛朗斗と紫乃歩に外に出るように指示した。
留まろうとした2人だが、サクルが飛朗斗と紫乃歩に目配せしたことで素直に出て行く。
外に出た2人は、ただ待って居ても仕方がないと、それぞれ武器の手入れと練習をすることにした。
一方、治療を開始した老人とサクル。
2人で呪文を唱えていた。
呪文が進むにつれて、陣が光出し、蝋燭の火が赤から緑、緑から青へと変わっていく。
そして老人がナイフをニスルの体から引き抜く。
そして傷口に向けて手を伸ばす。
すると蝋燭の火が蝋燭から離れ、老人とニスルの体の間へと飛んでくる。
その火をニスルの傷へと押し込む。
老人が手を放すと傷の上で火が燃える。
すると…
「あ、あっつい!!!」
ニスルが意識を取り戻し、飛び起きる。
そしてバタバタと走り回り、扉へ当たる。
ゴンッ
外に居た2人はその音に驚き、扉を開ける。
中ではニスルが、傷口から青い火を出して走り回っていた。
「これは…」
「一体…」
飛朗斗と紫乃歩の息はぴったりだった。
老人が桶から布を取り出し、飛朗斗に投げ渡す。
「傷口にその布をあてがうのじゃ!」
その指示に飛朗斗はニスル目掛け走り出す。
幸い、追いつけない速さではない。
「ニスル、とまれ!!」
そう言い老人から受け取った布を傷口にあてがう。
すると、火が消え、ニスルが止まる。
「あれ?私ナイフが刺さって…」
どうやら訳が分かってないようだった。
綺麗に片付けられていた部屋には、羽根が無数に散らばっていたのだった。
「やれやれじゃな…」
そう言って老人は近くにあった椅子に腰かける。
「飛朗斗君、紫乃歩ちゃん、紹介するね。このお爺さんが知恵の神トトさん。私の魔法の師匠です」
よろしくなと、2人に手を振るトトだった。
トト
知恵の神トト。すべての事を見通しているとも言われることがあるが、真相は謎。
現在の審議会のメンバーの中では最高齢。
魔術の腕前は一級品で、他の神々の追随を許さない。
基本は弟子を取らないが、才能のある者からの弟子入りは許可している。
サクルはそんなトトに見初められた数少ない弟子の一人。