第6話
知恵の神トトの元を目指してアヌビスの神殿を後にした4人は、冥界の空でこれからの困難を乗り越えるため、お互いを知るために
改めて自己紹介をするのだった。
「改めて、俺は天沼飛朗斗、17歳、高校で剣道部の主将をやってる。好きな刀は童子切安綱。よろしくな」
「次は私ね。私は道下紫乃歩。17歳。日本でアイドルをやってるわ。そこそこ有名なんだけど知らない?」
飛朗斗は首を傾げたが、飛朗斗を乗せているニスルが反応した。
「えっ!?紫乃歩ちゃんってアイドルなの!?」
その反応に少し困惑しながらも答える紫乃歩。
「え、えぇ。そうよ。グループ名はEZP10だけど知ってる?」
「EZP10!?もしかしてしののん!?」
「そうだけど、よく知ってるわね?」
サクルが紫乃歩の疑問に答えた。
「お姉ちゃんは人間界大好きだから…人間界で流行ってる曲とか漫画とか結構知ってるよ。下手したらその辺の人間より知ってるかも」
「ニスル、お前オタク女子って奴だったのか」
飛朗斗が少し残念そうにニスルにそういうと、
「何?文句でもあるの?落とすわよ?」
「文句はないけど、落とすのは勘弁してくれ。」
「じゃぁ次、私の自己紹介ね。私はサクル・シロエ。第8代目アヌビスと、第8代目ホルスの次女でーす。よろしくー。じゃぁ最後お姉ちゃんね」
「ハイハイ。ニスルです。えっと、人間界大好きで、正直人間になりたいと思ってます。」
「お姉ちゃん、まだそんな事言ってるの?神は人間になれないって決まってるのに…」
「分かってるけど、こればっかりは諦められないのよ…ずーっとそう思ってきたことだから…」
「まぁ、いっか、そろそろゲートに入るね~紫乃歩ちゃん、バッグの中に3人分のサングラス入れておいたから私以外に配って~」
サクルにそう言われ、紫乃歩はサクルの翼の付け根、自分の足元に付いているバッグの中からサングラスを見つけ、飛朗斗にニスルの分と合わせて2つ手渡した。
そのサングラスをニスルに掛けながらサクルに尋ねる。
「ニスルはかけなくて平気なのか?」
「私は慣れてるから大丈夫だよ~心配してくれてありがとっ。お姉ちゃんしっかり付いて来てね?」
「わ、分かってるわよ。」
姉妹のそのやり取りに、紫乃歩だけは少し不思議な顔をしていた。
ゲートを抜けると、眼下には広大な森が広がっていた。
周囲を見渡す飛朗斗。一か所だけ木が生えてない場所を見つける。
「なぁ、あそこだけ木が生えてないのはなんでだ?」
その場所を指指しながらサクルとニスルに尋ねる。
その質問にニスルが答える。
「飛朗斗君よく気づいたね~あそこがトトさんの神殿だよ~。あぁそうそう、紫乃歩ちゃんには見せたけど、トトさんは私の魔法の師匠なんだよ。」
「えっ、じゃぁもしかして私も教えてもらえたりできるかな?」
紫乃歩が少しウキウキしながらニスルに聞く。
「どうだろうね~、もしかしたら教えてくれるかもね~」
すると、飛朗斗の目に、下で何かがキラリと光ったのが見えた。
「なんだ?」
サクルが飛朗斗に尋ねる。
「どうしたの飛朗斗?」
「いや、今下で何か光ったような…ッ!?サクル!ニスル!避けろ!!」
「えっ?」
呆けてるサクルを飛朗斗が大勢を崩すことで直撃コースから外させる。
先ほどまで飛行していた場所を鋭い矢が通り抜ける。
「紫乃歩!援護射撃頼む!」
サクルの体勢を立て直しながら、紫乃歩に援護射撃を頼む飛朗斗。
「サクル、急降下!」
そう言い、飛朗斗は腰から日本刀を抜刀する。
「振り落とされないでよ!!」
そう言うとサクルが急降下を始める。
一方、ニスルは片方の翼を大きく下げ、上空で旋回を始める。その上で紫乃歩が戸惑いながらも弓をつがえる。
急降下してくる飛朗斗とサクルを狙って地上から迎撃射撃が飛んでくる。
幸いにも襲撃犯は単独の様で飛んでくる矢は1本づつだった。
サクルは自分に直撃するコースは確実に避ける。飛朗斗は自分に当たりそうな矢を次々に刀で弾いてさばく。
「飛朗斗くっついて!」
サクルが飛朗斗に自分の体にくっつく様に指示する。
そして木々の枝の間を縫って地面へと近づく。
「飛んで!!」
サクルのその指示で飛朗斗がサクルの背から飛び降り、襲撃犯へと一気に近づく。
そして、
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
綺麗な真一文字で横に薙ぎ払う。
その刀は確実に相手の弓を使い物にならなくした。
襲撃犯は尻餅をつく。その隙を見逃さず、飛朗斗はすぐに襲撃犯の首元にに刀を向ける。
「ここまでだ!俺達を狙った理由はなんだ!」
飛朗斗が襲撃犯に迫る。
ニスルと紫乃歩が上空から降りてきて飛朗斗の右後方、襲撃者を狙える場所に着陸する。
襲撃犯は一言、
「われらの神に栄光を!!」
そう叫び、ナイフを一本腰から抜き飛朗斗に向けて投げつけ、舌を噛み切って自害する。
飛朗斗は半歩体を開き、ナイフを避ける。
ドサッ
飛朗斗、ニスル、紫乃歩の後ろで何かが落ちた音がした。
3人が振り返ると、ニスルが地面に倒れていた。
「ニスル!」
「お姉ちゃん!?」
3人が駆け寄り、状況を確認する。
ニスルの翼の付け根に、襲撃犯が投げたナイフが深々と刺さっている。
落下の衝撃のせいだろうか?気絶していた。
「2人とも、お姉ちゃんを担いで私に付いて来て!」
普段のほほんとしているサクルが切羽詰まった声で二人に指示し、森の中を進んでいく。
2人は言われたとおりに、ニスルを2人で持ち上げサクルに付いて行くのであった。
アヌビス
冥界の神で、神々の議会である審議会に所属する力ある神の1人。
死者の魂の管理を行い、転生させたり、生前の罪を贖わさせたりといった仕事を請け負っている。
冥界の管理も彼の仕事である。
なお、走るのが非常に早く、現世で死んだ人の魂の回収もアヌビス一人で行っている。