第5話
砂漠の神殿でニスルの伯父を埋葬し、冥界へと帰ってきた飛朗斗達はアヌビスの神殿へと向かっていた。
2人の間には気まずい空気が流れていた。
どうにかしようと飛朗斗が声を掛ける。
「えっと、その、なんだ…ニスル、大丈夫か?」
「飛朗斗、無理に声かけなくていいよ。」
その返答に飛朗斗は黙ってしまった。
しばらく無言のままの時間が続き、アヌビスの神殿へと到着する。
中へと入り、アヌビスの元へと進む。
広間に着くと、すでに紫乃歩とサクルがアヌビスと話していた。
「むぅ…そんな事が…」
「今戻ったよ、お父さん。」
「おぉ、よく戻った。ニスル。それと飛朗…斗君?その血はどうしたのだ?」
アヌビスが飛朗斗の体に着いた血液に気が付き、問いかける。
「これは…」
飛朗斗は砂漠の神殿での出来事を事細かに話し、預かっていた石板をアヌビスに渡す。
渡し終えた飛朗斗は紫乃歩に何があったかと尋ねる。
尋ねられた紫乃歩は自分が行った先で起きた事を飛朗斗に伝えた。
アヌビスはしばらく無言で石板に描かれた文字を読んでいた。
読み終えたアヌビスは上を向き、目頭を指で押さえる。
「セト兄上…感謝します…仇は必ず…」
そう小声でつぶやくと、一滴の涙をぬぐい、飛朗斗、ニスル、紫乃歩、サクルを順に見つめる。そして…
「お前達、試験は変更だ。今回の騒動を解決する。それを今回の試験とする。まずは4人で知恵の神トト殿に会いに行ってもらう。
私の予測が正しければ、次に殺される可能性があるのはトト殿だ。4人でトト殿を守り、ここまで連れて来てほしい。頼んだぞ。」
そう言うとアヌビスは衛兵を一人呼び出し、4人の武具を用意するようにと言いつける。
「そうそう、飛朗斗君、紫乃歩さん、私の近くへ。一時的だが、魂がその形を保てるようにする。」
アヌビスはそう言うと飛朗斗と紫乃歩に対し、呪文を唱える。
すると、半透明だった二人の体がしっかりと、実体を持つ。
「これで武器や防具を満足に使えるはずだ。武器庫に古今東西の武具を用意してある。各々好きな物を持って行くと良い。
さぁ、あの者へ付いて行きなさい。」
衛兵がこちらへと手招きする。
4人は衛兵に案内され、武器庫へと移動する。
武器庫に着くと、本当にいろいろな武器が管理されていた。
メジャーな武器から、見たことも無いようなものまで至るものがあった。ただ、現代兵器などと呼ばれる類は一つも存在しなかった。
飛朗斗はすぐに自分の武器を探し始める。すると、使い慣れた物によく似た武器があった。
「飛朗斗君それなに?」
ニスルが飛朗斗に尋ねる。
「あんた、知らないの?それ日本刀よ。日本の伝統的な武器よ。」
サクルがニスルの質問に答えた。
「でも、それ使えるの?飛朗斗?」
サクルが飛朗斗に聞く。
「俺の家が剣道の道場やってるんだよ。その道場で親によく鍛えられたから、普通につかると思うけどッ」
そう言いながら素振りを始める飛朗斗。様になっていた。誰が見ても、戦えそうな感じではあった。
「私は…これかな」
紫乃歩は迷いながらも弓を選ぶ。もちろん、矢筒もセットである。
そして、ニスルとサクルは非常に軽く、しかしとても堅いよく分からない素材でできた鎧と、飛朗斗と紫乃歩が安定して乗るための
鞍を衛兵に手伝ってもらい、装着する。
そして、衛兵は飛朗斗と紫乃歩に鞍の付け方と、外し方を教えて万全だなと4人に微笑み、出入口へと案内する。
到着すると、衛兵は頑張れよと4人にエールを送り、自分の持ち場へと戻るのだった。
そして、4人はトトの神殿へと向けて飛び立つのであった…
サクル・シロエ
先代ホルスとアヌビスの次女。ニスルの妹。
おっちょこちょいな姉を見て育った影響か、かなりのしっかり者。
母が神になってからずっと家事全般はサクルがこなしていた。
また、神としての母の姿に憧れ、ずっと色々な事に挑戦し、それを克服してきた努力家でもある。
能力は姉と同じ能力を有しており、魔術の心得もある。