第20話
今回もキャラ紹介はありません。
そして飛朗斗達が帰って来ます。
お楽しみいただければ幸いです。
紫乃歩の魔術修業が始まってから冥界で3日が経過していた。
紫乃歩のセンスは凄まじく、3日でほぼ全ての属性付与まで体得していた。
その日の授業も無事に終わり部屋から退室した時の事だった。神殿の中がやたらと騒がしくなっていたのだ。
通路の奥、アヌビスの部屋の方から兵士が一人大急ぎで駆け寄ってくる。アヌビスのお付きの兵士だった。
「トト様!急いでアヌビス様の所へお願いします。飛朗斗さんが大怪我を負って帰って来たのですが、神殿につく前に気を失い、ニスル様の背から落ちてまさに今生死を彷徨っているのです。」
トトは頷くとその兵士と共にアヌビスの部屋へ走って行く。紫乃歩も急いで追いかけたのだが、身体強化魔術で走行速度を加速させているのか追いつけなかった。
紫乃歩は一人アヌビスの部屋へ急ぐ。一方トトはすぐに到着し、飛朗斗の治療に取り掛かった。
飛朗斗はすでに治療用魔法陣の中心に仰向けで寝かされていた。
「これは…酷いな…」
「トト殿、治せますか?」
「トトさん、お願い飛朗斗を治して!」
一人見知らぬ少女が居るがそれ所ではなかった。すでに死に向い突き進んでいる。
「アヌビス、魔力を貸せ。そうでもしなければ助けられん。」
そう言われたアヌビスはトトの背中へ手を当てる。
そこへ紫乃歩も到着する。
「紫乃歩くん、サクル、手伝え。3重詠唱で治癒力を高める。3人を結んだ線が正三角形になるように位置につけ。主らは我の呪文を復唱しなさい。」
そう言われサクルと紫乃歩が位置につき呪文の詠唱が始まる。
そして謎の美少女こと、ニスルはサクルの背中へと手を当てる。アヌビスの見様見真似でサクルへ魔力を流すのであった。もちろん体を操作しているのはニスルではなくロムフ=プタハなのだが…
5人の神クラスの魔力が飛朗斗へ流れ込む。その効果は絶大であった。しかし、如何せんダメージが深い上に、ただの人間である飛朗斗に長時間神格級の魔力を流し込み続けるのは、あまりよろしく無い。
そのため治療は休み休みで12時間続けられた。そのおかげで飛朗斗の負っていた怪我は完全回復に至った。
飛朗斗が目覚めたのは治療が終わってから2日経った日のお昼前だった。
その日は朝から神殿の外に稲光や炎、氷の柱など様々な物が出来たり砕けたり、たまに爆発もしたりと騒がしい日であった。
飛朗斗が目覚めたのはそんな中でも一際大きい音を立てた爆発だった。(この時アヌビスの神殿は震度3を観測したらしい…)
「な、なんだ!?」
飛朗斗はベッドから転がり落ちる。床に激突し痛ってぇと言いながら転がりまわった。
しかし、気を失う前に感じていた痛みは何処かへ消えていた。
「あれ?俺相当な怪我をしていたはずじゃ…」
「飛朗斗!!」
女の子が床に座っていた飛朗斗に抱き着いた。ニスルだ。
「もう心配したんだから!!良かった生きてて…」
ニスルの目には涙が浮かんでいた。
「あ、あぁ、悪かった…えっとそのとりあえず落ち着こう。一旦離れよう。な?」
飛朗斗の顔は今にも噴火しそうなほどに真っ赤になっていた。
一度ニスルを引きはがし、事情を聴いた。
自分が死にかけ、紫乃歩含め5人が飛朗斗を治療したこと。その後今まで意識を失っていたこと。
「良かったぁ…良かったよぉ…飛朗斗が死んでたら、私、私…」
その目からは大粒の涙がこぼれていた。
そんな二人の感動タイムを邪魔するかのように再び神殿が揺れる。
「なぁ、この揺れはなんだ?」
「あ~…これはね…見てもらった方が早いかも。」
そう言って飛朗斗を連れ出すニスル。(この事により少しの間神殿内部が大騒ぎになるのだが…)
裏口から外に出ると紫乃歩とサクルが居た。紫乃歩の手には見慣れない黄金の弓が握られていた。
その弓に矢を構えることなく弦を引く紫乃歩。するとその場所に矢が出現する。その矢は赤く光っていた。
そして神殿の外、奥にある砂場に向けて放つ。凄まじい速度で矢が飛んでいく。そして砂場に当たると同時に火柱が巻き上がる。
「す、すげぇ…なんだあれ…」
「ね、すごいでしょ紫乃歩ちゃんロムフと同じ神器のカウス=プタハに選ばれたんだって。それでトトさんに魔法を教わってあんな事まで出来るようになったんだって。」
ニスルと飛朗斗が話していると紫乃歩がこちらに気が付いて近寄ってくる。
「あら、目が覚めたのね。良かったわ。」
「あぁ、治療ありがとうな。おかげで命拾いしたよ。」
「いいわよ。お礼なんて。ニスルが今にも泣きだしそうだったし。それに体を取り戻すまで戦力に減ってもらっても困るしね。」
「ちょ、ちょっとやめてよ、紫乃歩ちゃん!!」
ニスルの頬が少し紅くなっていた。
そんな会話をしていると神殿内部から声が聞こえる。
「飛朗斗さんが居なくなったぞ!!探せ!!」
兵士の慌てる声が聞こえた。
「あなた達誰にも言わないでここに来たわね?」
紫乃歩の問いにハッとした表情になるニスル。
「早く戻りなさい。そんでトトさんとアヌビスに顔でも見せて安心させてあげなさいよ。」
そう言われた飛朗斗とニスルは大急ぎで神殿の中へと戻って行くのであった。
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