第1話
はい、第1話です。
ここからが本編になります。
「おーい…こ…な……ろで……ると…な…よ」
何処からか声が聞こえる。
その声はまるで太陽の日差しのように暖かい声だった。
「おーい君、こんな所で寝てると危ないよ。ほら起きて!」
はっきりと聞こえた。
危ない?何故だ?そう不思議に思い重い目蓋を開ける。
黄色い羽毛に包まれた大きな鳥がこちらを覗き込んでいる。
驚きのあまりに飛び起きる。サクッ
「いってぇ!!」[いったぁい!!」
一人と1羽は同時に発音し、同じように痛がる。
最初に文句を言ったのは鳥の方だった。
「ちょっと私の口ばしになんてことしてくれるんですか!!」
それに対して反論する高校生くらいの少年。
「ふっざけんな!こっちはその口ばしが頭に刺さったんだよ!!」
「そんな事知りませんよ!こっちは噛み合わせズレたら大変なんですから!!」
「こっちだってそんな事は知らねーよ!!」
と反論し、額の血液を拭いながら周りを見渡す。確実に現実世界ではない。薄暗く、土と埃しかないような場所だった。
そして、目の前の鳥に再度視線を合わせる。
「お前…なんで喋れるんだ…?ってかここは何処なんだ?」
などと今更なことを聞く。
「今更ですか!?まぁいいでしょう私は寛大ですからね。教えてあげましょう。」
と、口ばしを翼の先で確認しながら説明を始める。
「ここは冥界です。死者の魂が集まる場所です。そして私はあなた達人間が神と崇める存在(の候補生(小声)です」
「おい、今候補生とかなんとか言わなかったか?」
「き、気のせいですよ!じゃぁ私は行くところがあるのでこの辺で!!」
「おまっ待てっ!」
反対を向き何処かへ飛び去ろうとする巨大な鳥に背中から思いっ切り飛びつく。
そのまま飛び始めるので、振り落とされないように首にしがみ付き胴へと足を回す。
「あなた!何するんですか!すぐ降りてください!」
「無理無理無理無理。この高さ死ぬって!」
「あなた死者でしょ!魂でしょ!?落ちても大丈夫ですから!」
そんな風に言い合っている間に目的地に着いたようで着陸する。
「まったく…仕方ないですから付いて来てください。それにあなたただの魂って感じがしないので…」
どういう事だろうと思いながら付いていく。そこには大きく立派な神殿のような建物があった。
頭は犬体は人間といった姿をした門番が、神殿の奥へと続く門を開ける。
しばらく歩くと大きく開いた場所に出る。奥に玉座のような椅子があり、そこにも頭が犬、体が人間の姿をした者が座っていた。
そして、玉座の下には人間の女の子とオレンジ色の大きな鳥が一緒に居た。
「遅かったな。1時間遅刻だ。」
座っていた者が口を開きながら立ち上がる。
「だって試験官がお父さんなんて知らなかったからサボろうかと…」
少年の横に居た鳥が言い訳をする。
「まったくもう!お姉ちゃん私ちゃんと教えたよ!」
少女の隣に居る鳥が怒る。
それに続くように隣の少女もつぶやく。
「まったく、こんなのが試験の相手なんてね。私たちの勝ちねこれは。」
玉座に座っている者が止める。
「まぁまぁ、そこまでにして自己紹介でもしようじゃないか。私はアヌビス。この神殿の主にして、今回の試験の試験官を務めさせてもらう。」
少女がそれに続く。
「私は道下 紫乃歩この子、サクルのパートナーよ。」
それに続くように紫乃歩の隣の鳥が自己紹介を始める。
「サクルです。今回、9代目ホルス候補に選ばれた神様候補生です。よろしくね。はい、次お姉ちゃんの番。」
「えっ、私?私はニスル。サクルと同じ神様候補生です。」
「おっ前!やっぱり候補生じゃねぇか!!」
少年が突っ込む。
「う、うるさいわよ!早く自己紹介したら!?」
ニスルは焦りながら自己紹介を促す。
「ま、まぁいいか…えっと、じゃぁ…俺は天沼 飛朗斗えっと、なんで俺がここに居るかまだよくわかってないんだけど、
説明とかってしてもらえるのかな?」
その問いにアヌビスが答える。
「うむ。それには私が答えよう。此度の試験では人間である二人の魂をここ冥界より、元の体へと戻し、先に帰って来た者を合格者とする。
君たち二人は神に選ばれた人間というわけだ。なかなか体験できることではないので、楽しむと良い。
ただ、気を付けてもらいたいのは君たちは普段と変わらない状態にあるという事だ。負傷もするし、心臓を刺されれば死ぬこともある。
くれぐれも気を付けてくれ。それでは、今これより、試験開始とする。」
その言葉と同時に紫乃歩とサクルが神殿から駆け出る。
それを追うように飛朗斗とニスルが出て行くのであった。
第1回の人物紹介は主人公、天沼飛朗斗。
日本に住む何処にでも居るような普通の高校生。
家は古来より続く武士の一族なのだとか。その影響で幼いころから家に隣接している道場で、いろいろな武道をみっちり仕込まれいる。
少し鈍感な一面もある。