第18話
森の奥へと向けて走り出したウサギを追いかける紫乃歩。その上空をサクルが飛んでいる。
ウサギの速度は凄まじかった。それこそ弓で放った矢のように。
「はぁ…はぁ…早すぎない!?」
どうにか当てようと走りながら弓を構え、矢を放つ。
当然のように当たらない。
「あぁぁ!もう!!」
サクルが紫乃歩の横へと降りてきた。
「大丈夫?紫乃歩ちゃん。ちょっと作戦考えなおそ?」
「え、えぇその方が良さそうね。」
2人は立ったまま作戦を考え直す。
「あのウサギってどう考えてもあれよね?」
「うん、あれはカウス=プタハで間違いないと思う。そう考えれば黄金で出来てるのも納得できるしね」
「問題はあの距離で認知されて避けられちゃうって事よね…あれ以上離れたら私は当てられないし…」
「それなら、私が補助魔法をかけて少し伸ばすぐらいはできると思う。」
「本当?ならお願いしてもいい?」
ニスルは頷き、紫乃歩に弓を地面に置くように言う。
そしてニスルは翼の先に火をともす。その火を使って紫乃歩の弓の持ち手、矢が当たる部分に陣を書いていく。
「これでOK。飛距離が大体25メートルから30メートルぐらい伸びてるはず。あと、認識阻害の魔術もかけたからそう簡単には避けられなくなったはず!」
「わかったわ、それじゃぁもう一度やってみましょう。」
そうして再びサクルが上空へと飛び上がる。そしてウサギことカウス=プタハを探し始める。
20分ほど森をうろうろと徘徊し、カウス=プタハを見つけた。
『紫乃歩ちゃん居たよ!紫乃歩ちゃんの左後ろ80メートルぐらいの所!』
紫乃歩は出来る限りで気配を押し殺す。
そして自分の当たる距離より20メートルほど離れたところで矢を番える。
精神を集中させ、限界まで弦を引き絞る。そして…矢を放つ。
弓から放たれた矢は消える。否、見えなくなった。
カウスは完全に気が付いていない。
ガギャン!!
鈍い音が森に響き渡る。
紫乃歩が放った矢はカウスに当たったのだ。当たったが…射止めてはいない。
再び頭の中に声が響く。
≪痛いじゃない…私の美肌に傷をつけてくれたわね?ただじゃ済まさないわ!!≫
カウス=プタハは周囲を見渡す。しかし紫乃歩の姿は見えなかった。
紫乃歩はカウスの声に少し気圧された。これまで聞こえていた穏やかな声とは様子が変わっていたのだった。
もう1本と矢を番えた。そして狙いを定める。
狙いはウサギの目の部分。刺さらなくても視界を奪えればそれでいい。
そして放つ。その矢は真っ直ぐに狙った場所に向かっていく。
サクッ
刺さった。ウサギは動かなくなる。
「私の勝ちで問題ないわよね?」
紫乃歩は立ち上がり、カウスへ近寄りながらそう言った。
≪仕方ないわね、認めてあげるわ貴方が私の主人よ。≫
カウスはウサギの姿から変わり、とても綺麗な細工のされた黄金に輝く弓の姿になる。
その弓を拾い上げる紫乃歩。その横へとサクルが降りてきた。
「紫乃歩ちゃんやったね!」
片方の翼を上げてきた。紫乃歩はサクルとハイタッチする。
「でも、このまま弓のままだと持ち運びが大変ね…どうしようかしら…」
≪問題ないわ。私を構えなさい。≫
カウスに言われた通り弓を構える。すると、弓の状態から手を伝い手首へと黄金が移動していく。
ある程度すると、黄金に輝くブレスレットになっていた。
その輝くブレスレットに見とれる紫乃歩とサクル。
≪私を使いたくなったら今みたいに構えなさい。この状態に戻すなら、そうね…武装解除とでも言いなさい。≫
「軽く練習してもいいかしら?」
≪好きにしなさい。私はもう貴方の物なのだから。≫
紫乃歩は少し出し入れを練習する。そしてある程度練習すると辺りが暗くなってきている事に気が付く。
「そろそろ時間よね?サクル冥界へ帰りましょう?」
「そうだね~、じゃぁ紫乃歩ちゃん乗って乗って」
そうして1日もかけずにカウス=プタハを手に入れた2人は冥界へと帰っていくのだった。
カウス=プタハ
4本の神器の中で唯一女性の人格が宿った神器。
本来は魔道弓のため、矢が必要なく、持ち主の魔力、魔術的素質によって矢の種類が変わってくる。
なお、現状の紫乃歩ではカウス=プタハで魔矢を放つことはできない。