第10話
今回は人物紹介がありません。
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塔の頂上を目指し上る飛朗斗とニスル。
途中塔の表面に大きな溝があり、隙間に入り休憩することが出来た。
もうすでに森の木々の2倍ほどの高さまで来ている。
「なぁ、これ後どれ位なんだ…?」
「私も知らないわ。でも飛んでくるときは塔自体も見えなかったから…もしかしたら雲の上なんてこともあるかもね」
そんな会話をしてからまた頂上を目指して塔の壁を登る。
そうこうして雲の中に入る。
雲の中に入り再び休憩用と思われる隙間に入る。
すると人形から音が聞こえた。
『もしもーし、聞こえる?』
紫乃歩の声だ。手に持ち応答する。
「もしもし、聞こえるよ。下で何かあったか?」
『何もないけど、雲の中に入っちゃって姿が見えなくなったから、通信してみただけ。何かあったら連絡してね』
そう言うと一方的に通信を切った様だった。
「なんなんだ…?」
「心配してくれたんじゃない?」
「そうだな、もう少ししたらまた昇るかぁ…」
ふと上を見ると登り初めに見た鉄板が溝の上の所に張り付けてある。
よく見てみる。
゛ここまで登ってきた者にまずは賞賛を。そして次にたどり着きし場所が頂上である。"
鉄板にはそう書かれた。
それを見た飛朗斗は気合を入れなおす。
「さて、ラスト登りますか!!」
気合十分。塔を登る。
そしてついに雲を抜けると、あと十数メートルで塔が途切れている。
焦る気持ちを抑えつつ、慎重に進む。
ついに頂上へ手を掛けた。
ずるっ…掛けた手が滑り、体制を崩す。
落ちるッそう思った飛朗斗は死を覚悟する。
しかし、体は止まる。手首を誰かに握られてる感触がある。
「早く自分の手で掴まれよ。落ちたくないだろ?」
逆光で顔は良く見えない。しかし、明らかにトトの声だった。
それでも不思議な点はある。声が若い。だが、今は気にしても仕方がない。
塔のくぼみに再び足をはめ、何者かの手を掴み、塔を登り切る。
「誰だか知らないけど助かったよありがとう。知恵の神トトの伝言に従ってここまで来たんだが、あなたは?」
若い青年の格好をしてはいるが明らかに纏っている雰囲気は神その物だった。
「あぁ、この姿は見ていなかったな。私はトト。知恵の神トトだ。」
こいつは何を言ってやがる…そんな顔になる飛朗斗。
「まぁこっちへ来ると良い。それと君の相棒も元に戻そう。」
人差し指と中指をくっ付け、スッと振る。
すると羽虫程度まで小さくなっていたニスルが元のサイズへと徐々に大きくなっていく。
その魔術を見る限り、素人目ではあるが疑いようがなくなった。
案内されるがまま付いて行く。
塔の頂上は塔より確実に広い。楕円になっているわけでもないようだ。
不思議に思っていると、トトが説明してくれた。
「ここは、魔術によって面積を増やしている。入るに容易く、出るに容易ではない作りになっている。私からはぐれるなよ?」
そう言われ、後ろを振り向こうとしていた飛朗斗はすぐにトトの方へと向き直ったのだった。
しばらく歩くと、ログハウスのような建物に到着した。
「話はこの中でしよう。ここでは聞き取られる可能性もあるやもしれん。」
案内されるがまま中へと入り、備え付けのソファへと座る。
向かいにトトも座る。ニスルはと言うと、入り口付近にあったウッドデッキが気持ちいいと言ってそこで寛いでいた。
「飛朗斗君、何か飲むかね?コーヒーか、紅茶か?」
そう言われ飛朗斗は戸惑いながらも紅茶を頼む。
ティーカップだけが飛朗斗の前に置かれた。
不思議そうな顔をしていると、トトに飲むといいと言われる。しかし、ティーカップの中身は空なのだ。
飛朗斗は試されていると思い、ティーカップを持ち上げる。すると、空だったはずのティーカップの中に紅茶が入っている。
「驚いたかね?それは持つと紅茶が注がれる魔法のティーカップなのだよ。好きなだけ飲めばいい。」
にわかに信じられないが飲んでみる。とても薫り高く、ほんのりと甘い。紅茶の事をよくわからない飛朗斗でも、
これは高級な茶葉を使っているのではないかと思うほどの味だった。
「さて、私に聞きたい事があるのだろう?」
飛朗斗は頷き、不思議に思っていたこと聞く。
「あのトトと名乗っていた老人は一体誰なのですか?」
「あれもまた私なのだ。正確には私の模倣体。魔術により、作り出し、私がここから操作していた。いわば私の分身のような物だ。」
それを聞いた飛朗斗は少し安堵する。
「で、君はここに私を迎えに来たのだな?私を亡き者としようとする者の手から守るため。」
そうですと答える飛朗斗。
「ふむ、して何処へ逃げるのだ?安全な地など、そうそうある物でもない。」
「冥界でアヌビスがあなたの身の安全を保障するとの事です。」
「ふむ、冥界か…よかろう。あそこならばここよりはいくらか安全だろう。」
意外とあっさり決まってしまった。
「では、行こうか。下であの女子が待っておるのだろう?」
そして二人と1匹は塔から飛び降りる。
地面に接触しそうになると、トトが魔法を展開し、落ちる速度を緩め地面の直前にピタッと止まる。
塔の上であったことを紫乃歩にも説明し、一行は一路冥界へと向かうのだった。