焔の星々
夏の日、陽射しが燦々と降りしきる中、大気圏を突破した何かが焔を炸裂させ、のうのうと人が歩く速さで墜ちてきた。熱は増すばかりで、蒼天の空は失われていく。
その何かは、一つではない。
元は一つだったものが、眩い光を発しながら分裂を繰り返し、今――星の数だけある何かが降っている状況になっている。
何かとは世にも珍しく、名ばかりが人類に知られているだけの物体――隕石だ。
この無数の隕石群を見て誰もが思う。
――これは、現実なのか?
これを、信じるなんてできないし、信じようともできない。
だが、これは紛れもない現実なのだ。
空気中の画面の奥で、人類は終わりだと言う。巨大な機関の人間がそう言うし、偉い人間も、またそう言う。
呆然と立ち尽くす人、泣き崩れる人、自殺する人、狂乱する人。
人間は如何して、こんなにも醜い生き物なのだろう。
世界の終焉だ。
人類はこれにて終了。
さようなら。
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「なんだよ、あれ……」
眩く光る頭上のものを見て驚愕する。こんなことが現実で起きていいのか。黒髪の少年は、顎から滴る汗を薄汚れた布で拭い、冷や汗が溢れ出すことを感じる。標高の低い山々が連なる頂上で独り、動けずにいた。どこか安全なところに逃げるのか。まず、あんなものが墜ちて安全と呼べる場所なんてあるのだろうか。
ここから見える景色は何処もかしこも平坦で地平線が見える。何故態々山を歩いていたのかというと、辺り一面湿地帯で沼地あったり、片方は海が広がっていたりと、とても歩けるようなところではないからだ。
この景色が好きだ。所々にある木々は蔦を伸ばし、水面に射す光が反射し、幻想的に魅せている。
あれが墜ちたら、この景色も少年が立つ山々も、無残に消し飛び、幻想的は壊滅的、平坦は凸凹になり、この場所に何があったかなんて想像もできなくなるのだろう。
「どうしたら……いや、もういっそ」
死んでしまおう。
そう悟って何が悪い。あれが墜ちれば、人類も、自然も、景色も、色彩も、明かりも、消滅する。
――生きろ。
誰かが言ったこの言葉は、可能性を秘めていた。誰も、自分も、この惑星が破滅するとは言っていない。
あれが墜ちたら、表面上が破壊される。が、中は如何だろう。
その思考に辿り着いた少年は、既に地を蹴って、隣に停められていたバイクに乗り走り出していた。
「あそこなら!!」
宙に映し出されたメーターは、一瞬で三〇マイルを突破した。ホバリングした機体は、滑らかに斜面を下っていく。前方一体に見えるのは、深い青色の海だ。昔は、車やバイクで水面を走ることが不可能だったらしいが、科学がある日急速に発達し、水面や急な傾斜も楽に走ることができるようになった。だが、それ故に以前のような銃や戦車などの戦争ではなく、その時代空想に描かれていたロボット、電磁砲撃などが使われ、戦場は鉄屑が散乱したそうだ。しかし、戦死者は両国ではなく敗戦国にだけ絶大だったらしい。最近は戦争が起きていない。
そして、今向かっているところは昔使われていた軍基地だ。海に面しており、絶壁が目立つところ。そこに巨大な扉があり、その中が軍基地で戦時期は兵器たちが出入りしていて、絶壁上の街には軍工場が並んでいた。
「もう少しだ。急げっ!」
目には血が迸り、全身から汗が吹き出し続けていた。絶望という文字が頭の中を掻き乱し、その中にある希望というたった二文字を信じて。
信じているから絶望の中も走ることができる。
そんな中、今の少年の状態のようにメーターは退くことを知らず、機体は音を上げようとしていた。
生き延びてどうなるかなんて知らない。
でも、誰かが言った生きろという言葉を信じている。
生きろ。
希望を持て。この後、何があるか分からない。だが、ここで諦めたらその先どうなるか知ることが、見ることが、感じることができない。
絶望の中にある、一パーセントを信じて少年は走り出した。