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白銀の竜と竜の医者  作者: 九里 睦
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17話:いざ西の洞窟へ

「さて、そろそろ出るか」


 私は残っていたお茶を飲み干して、皆に聞こえる声でそう言った。


「そうですね」

「行きましょう!」

「うむ」

「そうだね!」


 私の前にお茶を飲み干した四人も、各々の返事を返してくれた。

 ちなみに、ピコは前回と同じように、グラーシア宅で留守番らしい。


「……よし」


 私が先導して扉を開くと、青い空が運ぶ、草の香りが吹き込んできた。

 雨季前のこの時期に晴れたことを、感謝せねば。


 私が空を見上げている間に、後から出てきたグラーシアとエレンは、私を抜き去り、少し離れたところで竜となった。


「よし、我の背中に乗れ」


 グラーシアが後ろを振り返き、私たちに背中を向けた。尻尾がまるで階段のように差し出されており、高いグラーシアの背中でも、楽に登れる配慮がなされている。ありがたい。


 そう、今日はグラーシアが西の洞窟まで、私たちを運んでくれるという素晴らしい日なのだ。


 子供の頃は、竜の背中に乗れるなど、『蒼天のドラゴンライダー』という御伽噺でしかないと思っていた私にとって、このグラーシアの提案はまさに、夢が叶ったかのようだった。

 ……物凄く血が昂る!


「あぁ!」


 私は嬉しさのあまり、差し出された尻尾も使わず、一番にグラーシアの背中へと飛び乗った。


 続いて、リーフ、クロエ・ワズナが尻尾を伝って登ってきた。


「わぁ……。ちょっと怖いかも……」


 振り向けば、リーフが下を向いてそんなことを呟いていた。


 ……昂ぶっているからかもしれないが、私は怖いとも危ないとも思わない。

 グラーシアの背中は、ウロコの隆起した部分に、手で掴めたり、足が掛けられたりする部分があり、案外安定しているからだ。


「リーフ。ああいう突起を掴んだりすれば安定するぞ」


 私はリーフにそうアドバイスをした。


「いやいや、掴めても滑ったりしたら終わりですよ!?」


 リーフの肩から顔を出し、奴がそんなことを言った。

 私はそんな奴を適当にあしらう。


「お前は正義のためなら、死の危険をもいとわずに私のところまで来たんだろう? 今回も同じだ。正義のためなら死ぬ覚悟で竜の背中に乗れ。正義のためだ」

「正義のため……?」

「あぁそうだ」

「わかりました! 死ぬ覚悟で頑張ります!」


『正義』という言葉を出せば、どんな屁理屈でも受け入れてくれるクロエ・ワズナを、私は少し気に入り始めている。玩具として。

 ……まぁ、一応死なれては困るので、フォローをエレンに頼んであるのだが。


「えっと、キリシャ君……」


 私が、目の色を変えてウロコを掴んだ奴を見てほくそ笑んでいると、リーフが白衣をちょいちょいと引っ張ってきた。


「どうした?」


 視線を移せば、リーフは縮こまり、私を上目遣いに見上げていた。


「えっと。……怖いので、掴まっててもいいですか?」

「あぁ」

「あ、ありがとうございます」


 仲間にはちゃんと優しい私は、リーフを受けいれる。

 するとリーフは、私の腹部に両腕を回し、がっしりと抱きしめてきた。身体がぴったりと密着し、恐怖で速まった鼓動までもが伝わってくる。


 リーフはこれほど高所が苦手だったのか……。盗賊たちから逃げる時、さぞかし怖かったんだろうな……。

 私の中で、リーフへの仲間意識のようなものが強くなった。


「準備は出来たのか?」


 私たちがそれぞれ、安定する場所を見つけて動かなくなった頃、グラーシアが首を伸ばし、訪ねてきた。


「あぁ。大丈夫だ。出発してくれ!」


 私はリーフが頷いたのを確認すると、グラーシアに合図を出した。


「え? ちょっと! 自分は!?」

「お前は落ちても大丈夫だ。正義の名の下に生きた馬鹿ものと墓を立ててやる」


 グラーシアの下にはエレンが控えるのでそうはならないが。


「正義の名の下に生きた者……。いいですね……」


 クロエ・ワズナは奴の中で今の言葉を何度か反芻し、たっぷりと味わい、『正義』の醸し出す、甘美な響きに浸っているようだ。その間、奴は物凄く大人しくなる。


「グラーシア、本当にいいぞ」

「……わかった」


 グラーシアはその様子を見て、鋭利な牙を控えめに溢した。


 そして、前を向き、翼を広げ、空気を押し出した。

 私はその様子を、興奮しながらも冷静に分析する。


 グラーシアはまず、私たちに負担を掛けないためか、ゆっくりとはためき、地から離れた。


 なるほど。翼を下げるときは空気を押し出すように。翼を上げるときは空気を切るようにすることで、飛び立つわけか。

 停止状態からのそれには、凄まじい膂力りょりょくが必要なのだが、難なくやって見せるグラーシアたちは、さすが竜と言ったところだろうか。

 素晴らしい。私も頑張って真似よう。


 そして、ある程度の高度を得た竜たちは、西に向かって進み始めた。


 速さが出るにつれ、風圧が増したが、ポケットに入れている石の円盤に魔力を流し、【変換】【構築】で生み出した擬似魔法、「【ウインド】」を唱えることによって相殺した。


「え!? きゃぁぁぁぁ――」

「えぇ!? わ、ワズナさんが……」


 魔法陣を石に彫り込むことによって、このように、わざわざポケットから出して広げなくとも魔法が使えるようになったのは、意外なメリットだった。咄嗟に発動可能になったため、とにかく便利だ。


「あ、よかった〜。エレンちゃんがちゃんと受け止めてます……」


 風圧が無くなり、目を開けられるようになった私は、再び翼を観察する。


 ほう……。スピードに乗れば、はためく回数も少なくなるのか。

 私はその様子に、飛んでいるというより、空気に乗っているというイメージを受けた。


「……どうやらさらに速度を増しても問題ないようだな」


 グラーシアは、私が風魔法を発動したのに気づいたのか、私たちに聞こえるようにそういった。


「あぁ。大丈夫だ。どんどん飛ばしてくれ」


 風魔法を使ったしわ寄せにより、私と、私にくっ付いているリーフの後ろには、風の裂け目を埋める猛烈な風圧が起こっていた。

 それに吹き飛ばされた奴がいるようだが、グラーシアの下に控えていたエレンに救われたようなので、気にしていない。



 速度を増したグラーシアたちは、あっという間に西の洞窟前へと到着した。


「……確かに、あの男が言っていた通り、暴れていたようだな」


 洞窟は森の中にあるのだが、洞窟周辺にはあったはずの木々が灰になって、グラーシアとエレンが降り立っても、何の問題もないほどの広場が出来上がっていた。


「温厚なはずのサラマンダーにしては珍しく派手だな」


 これほど広範囲に渡って火を放つなど……。


「うむ」

「何があったんでしょうね……」

「とりあえず、洞窟の中に入ってみようか」


 私はグラーシアの背中から飛び降り、洞窟へと歩を進めた。


「ちょっと待って!」


 するとエレンが私を呼び止めた。


「どうした、エレン」

「この人が起きてからにしようよ」

「……エレンは優しいな」


 私はエレンの優しさに免じて、奴が目覚めてから洞窟に入ることにした。



読んでくださり、ありがとうございます。


空気に乗る、とは、トンボやトリケラトプス、飛行機なんかを想像していただけると、丁度いいのではないかと思います。


それにしても……クロエちゃんのいじられ方が 笑。当初はこんな予定じゃなかった 笑。

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