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願い石  作者: まゆぽよ
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 白い光……あの世?ん?るぅに正人にお母さん?

 目の前に清音を覗き込む3人の顔があった。

「清音!」

「さーや!」

「私、死んでない?」清音はベットに横になったまま、周りに目をやった。

 ここ、どこ?病室?病院だ。

「死ぬもんですか!お母さん、お医者さん呼んでくるわね」そう言って、母親は部屋を出て行った。

「死んでない。助かった」瑠璃子は笑顔だった。

「なんで?石は?」清音はわけがわからなかった。

「消えた」瑠璃子は左手を広げて見せた。「って、どっちにしても見えないか」そう言って小さく笑った。

「へ?どうやって?」清音は驚いて目を見開いた。

「んー」瑠璃子は首をかしげた。「諦めなかったからだよ。きっと」瑠璃子はニッと笑った。

「え?」清音は問いかけるように正人に目を向けた。

「僕は知らない。上に居た人に救急車呼んでもらって戻ったら、るぅが石が消えた。さーや助かるかもしれないって言って…でも、ホント良かった。おまえ死ななくて」正人は少し涙ぐんだ。

 母親が医師を連れて戻ってきた。

「2人とも、ちょっと出ててくれるかな」医師は瑠璃子と正人を部屋の外へ促した。

「とにかく、ホントにもう安心して良いからさ。今度、詳しく話す」瑠璃子はそう言い残し、笑顔で手を振りながら正人と部屋を出て行った。



「コブ作っただけで、何ともなくって、ほんとに良かったよなー」瑠璃子が明るい声で言った。

 清音、瑠璃子、正人の3人は、横に並んで土手の道を学校へ向かっていた。今の3人の心を表したような、すっきりと晴れた気持ちの良い朝だった。清音は、検査のために一日入院しただけで、すぐに退院できたのだ。

「まだ、触ると痛いけどね。で?石、なんで消えたの?」清音はこの事を聞きたくてうずうずしていた。

「だから、諦めなかったからだって」瑠璃子はいたずらっぽい顔つきをしている。

「もう、わかったから。で?」清音はじれったそうに催促した。

「んーと…あの時さ、さーやを助けてって石に願ったんだよ」

「そんなことしたら、るぅ、…代償…」

「わかってた。わかってたけど」瑠璃子は口を尖らせた。「だって、助けたかったんだよ。さーやだってあたしのこと、助けようとしただろ」瑠璃子は少し照れた様子で付け加えた。

「えっ……したけど、レベルが違う」手と命じゃ…。「るぅ」

 瑠璃子は清音の方を横目で見た。

「ありがと」清音ははにかむような顔つきで、前を向いたまま言った。

「え、いや、別に……」瑠璃子は頭をポリポリとかいた。

 正人は2人の様子を横目でチラッと見た。

「で?」清音が続きを促した。

「ああ…そしたら、石がいつもみたいにブーンって光って…と思ったら、ぅわっって白い光が大きく広がってさ、周り中もう光しか見えなくて、なんていうか、光の中にいる感じ。で、声がした。頭に直接響くような声」

 それって、もしかして、ボールが当たって倒れた時に感じた白い光?あの時聞いた声?「男の人か女の人かわかんないような、きれいな声?」清音が確認するように尋ねた。

「そう!清音も聞いてた?」瑠璃子は清音の方へ顔を突き出した。

「ん…多分。なんか声がしてた。何言ってるかはわからなかったけど」清音は首をかしげた。「なんて言ったの?その声」

「『これを待っていた』って。あと…『ただ相手のことだけを思っての願い。むしょうの願い。これを忘れないで』って。で、光が消えた。石も」

「おまえ、良く覚えてんな」ずっと黙って聞いていた正人が驚いた風に口をはさみ、その後、何かゴニョゴニョと言った。「その記憶力があればもうちょっと良い点……」

「え?ああ、そうだな。自分でも不思議だけど、なんかずっと頭ん中に残ってる。…むしょうって何だ?」瑠璃子は2人に目をやった。

「無償?…見返りを求めない…とか?」正人が答えつつ、確認を求めるように清音を見た。

「うん、多分、そんな感じ。るぅが、自分がどうなっても良いから私の事助けてって…それが無償の願い…だったんだ」

 あ、『助ける事を願ったら・・・助かる』だったんだ。なんだ、私、あの時、答えにたどり着いてたんだ。

「自分の欲しいものとかを願ってるうちはダメだったってことか」正人は何か考えているようだった。「ああ、無償じゃないから代償払わされたってことかな…」正人は、誰に言うでもなく言った。

「あ、なるほど」清音は感心したように正人を見た。

「?」瑠璃子は首をかしげていた。

「だから最初に言ったじゃないか。世界平和でも願えって」正人は瑠璃子に向かって言った。

「あ、そうか。じゃあ、あの時、あの子を助けてって願ってればよかったのか?」瑠璃子はふと思い出した様子で言った。

「あの子?救急搬送の?」清音は少し考えて続けた。「あっ、じゃ、私が止めなきゃ、あの時に解決してたんだ」そう言って、瑠璃子と少し目を合わせた。

「大体、あれで石うつってきたんだった…私が石が求めてる事をするのを邪魔したから?私から正人にうつったのも…そうか。正人からるぅにうつったのも、あの車の人助けようとして…か。そういうことだったんだ」清音は一つずつ確認しながらうなずいた。

「あ、僕からうつったの…それちょっと違うんだけど…」正人がぼそりとつぶやいた。

「え、じゃあ、なんでるぅにうつったの?」

「別のこと思ってて…多分、それが効いた」正人は一人で確認したようにうなずいた。

「別って、何?」清音が問い詰めた。

「あ…助けようとしたのは別の人…っていうか」正人は不自然に頭をかきながらそっぽを向いた。それは、頭をかくフリをして顔を隠そうとしているようにも見えた。

 清音は正人の様子に怪訝な顔をして、瑠璃子に目をやった。瑠璃子は何か思い当たることがあるらしくニヤけた顔をしている。「何?るぅ?」

「へ?ああ、さーやってあったま良いって思ってたけど、こういうの疎いんだーって思ってさ。これに関してはあたしの方が頭良いや」瑠璃子はいたずらっぽくそう言うとニッと笑った。

「は?」清音は意味がわからず、益々怪訝な顔つきになった。

「やっぱり、ライバル視じゃなかったんじゃないかなーって思うけどな」そう言いつつ瑠璃子の顔は更にニヤけていた。

「え?」清音は正人に目をやった。

「ライバル視ってなんだよ?」正人は瑠璃子をにらみつけた。

「ま、まぁ良いじゃん!とにかく今度こそ本当にまるくおさまったってことで」瑠璃子は誤魔化すようにそう言った。

「るぅもこれで、UFOとか信じた?よね?」

「へっ?」

「私の雑誌、貸してあげよっか?」清音が目を輝かせて言った。

「いやー、それはいいや。興味無いし」瑠璃子は苦笑いした。「さーやさ、そういうのより、ほら、たまには恋愛小説とか読んでみれば?」

「は?なんで恋愛小説?興味無いけど。」

「だよね」瑠璃子は苦笑いした。

「だったら、正人、貸してあげよっか?正人も信じる気になったよね?」

「えっ、いや…まぁ…見えない石があったのは確かだけど…」正人は歯切れの悪い返事をした。

「私たちは見えない物の存在を身を持って体験したんだから、それなのに、他の同じような事象を否定するなんて、もう有り得ないでしょ?貸してあげるから、読んでみなよ。絶対面白いって!」清音は例の癖で熱く語った。

「え、じゃ、じゃあ…借りる」僕も興味無いけど…清音が(・・・)貸してくれるんだし…いいかな。

「そう?じゃあ、明日もってくるね」清音は嬉しそうだった。

 2人の様子に苦笑いしながら、瑠璃子はいつも行く下の河原の道へそれて行った。

「るぅ、上の道にしない?」清音は立ち止まって瑠璃子に声をかけた。

「え?」瑠璃子は振り返った。

「ちょっと…さすがに、しばらくはそっち通る気しない。大丈夫だとは思うけど、気持ちの問題」清音は少し肩をすくめた。

「そっか、じゃ…あっ」瑠璃子は何かを思いついた様子で続けた。「あたしは平気だし。近道したいしさ。2人はそっち行きなよ」そう言うと、瑠璃子は小走りに戻って、正人の肩を持って自分の方へグイッと引き寄せた。

「邪魔者は消えてやるからさ。理科のテストのお詫びってことで」瑠璃子は、顔を寄せて小声でそう言うと、正人にニッと笑って見せた。

「えっ」正人はチラッと清音を見た。

 清音は2人のコソコソ話に不審そうな目を向けていた。

「あの時、車の人じゃなくて、さーやを助けようとしたんだろ?」瑠璃子はにやけた顔でそう言った。

 正人は驚いて瑠璃子を見た。

「ライバル視じゃなくて、好きなんだよな」瑠璃子は更ににやけた顔で、そう付け足した。

 正人の顔が一瞬にして真っ赤になった。「だ、だから、ライバル視ってなんなんだよ?」正人はテレを隠すかのように怒った風に返した。

 瑠璃子はニヤッとしただけだった。

「んじゃ、また学校で!」瑠璃子は2人に向かって大きく手を振りながら、河原の方へ走って行った。

「あいつ、バカじゃなかったんだな……理科の点数はほんとに酷かったけどさ…」正人は瑠璃子の後ろ姿を見送りながら、小さな声でつぶやいた。

「るぅ、何言ったの?」正人と並んで土手の道を歩きながら、清音が尋ねた。

「ん…テストのお詫びだってさ」正人はボソボソと答えた。

「は?」清音は首をかしげた。

「けど、なんだったんだろな。あの石」正人は話を逸らすかのように、急に石の話をした。

「さあね」

 2人はしばらく無言で歩いていた。

「でも」清音がポツリと言った。

 正人は、チラッと清音に目をやった。

 清音はすがすがしい表情で言った。

「色々あって大変だったけど、なんか、結局終わってみたら、良かった」

「かもな。一時は死んだ方がマシだとまで思ったけど」正人は何やら含み笑いした。

「けど、きれいな石だったね。あれ」

 清音がそう言うと、正人は突然立ち止まって、カバンから何かを取り出し、無言で清音に差し出した。それは手のひらに納まるくらいの小さな紙袋だった。清音は不審な顔つきで正人を見た。

「退院祝い」正人はぶっきらぼうに言った。「手…左手出せよ」

 清音は少し驚いたが、言われるまま左手をさし出した。正人は紙袋を清音の手の上でひっくり返した。

 清音の手のひらに、青い石がキラリと光って転がり落ちた。

 清音が石を見て、正人に目をやって聞いた。「ラピスラズリ?」

 正人は神妙な顔つきで目をそらしてうなずいた。

 清音は少し首をかしげて正人の様子をうかがった。「…いやがらせ?」

「違っ!なんで…おまえあの石きれいだって言ってたから…」そう言いつつ、正人の頬は少し赤くなっていた。

「え、あ…そう…」清音は石に目をやった。「ありがと」清音は石を陽の光にかざしてみた。青い石にちりばめられた金色の部分がキラキラと輝いた。

「うん。きれい」清音は微笑んだ。「これ、願いが叶う石なんだよね。何願おっかなー?」

「んー、無償のにしとけば?」正人が冗談っぽく言った。

「え?」フッと笑って、清音も冗談っぽく言った。

「まずは試しに、招福堂のプリン…だよね?」


                -完-

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