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願い石  作者: まゆぽよ
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 次の日の放課後、清音と瑠璃子は、学校の図書室にあるパソコンで、2人でインターネットのページを覗きこんでいた。そこにはパワーストーンの写真が一覧で並んでいた。

「あ!これ、かなり近い」瑠璃子が写真の一つを指差した。それは、深い青色の金がちりばめられているかのような石だった。

 清音が瑠璃子の指差した写真をクリックすると、石の写真が大きくなり、説明文が画面に出た。

「うん。似てる」瑠璃子は自分の左手のひらと画面を見比べて、しっかりとうなずいた。

 清音が画面の説明文を目で追いながら口にした。「ラピスラズリ……願いが叶う石……」

「うぉ」清音の隣で画面を覗きこんでいる瑠璃子がうなった。

「ふーん。きれいな石なんだ」

「ん?まぁきれいだけど」瑠璃子はそんな事どうでも良いと言う風だ。

「あ、和名、『瑠璃』だってよ。るぅの名前と同じ字」清音はそう言いながら瑠璃子の顔を見た。

「はぁ?あたしの名前が悪かったのか?…ま、この石だとしてさ、それがなんか役に立つのか?」

「まず、敵を知らないと。ね」清音は石の名前、説明等、ノートに書き留めた。

「うわ、すごい」ノートを覗き込んだ瑠璃子が驚きの声をあげた。ノートには、瑠璃子が今までに願った事と、その代償、叶うまでの時間等が表形式にまとめて書き上げられ、願いを聞いて貰えなかった事もリストアップされていた。「その表、昨日メモってたやつ、まとめたのか?」瑠璃子は目をまるくしている。

「そう、こうやってまとめれば、何か見えて来ないかなぁと思ったんだけど…無茶な事は願っても無駄って事はすぐにわかった。それと、願いが叶うの、結構即効性があるって事も。願ってから叶うまでの時間、本当にすぐにってのもあるし、一番遅い学校閉鎖でもせいぜい半日。正人まさとのをどう捉えるかってのはあるけど、テスト中に願いが叶ってると考えるべきよね…クッ」清音はノートの文字を目で追いながら話しつつ、突然笑いだした。「ウハハッ、やっぱり正人の事書いてる時、笑えてきちゃって…アハハッーダメだ、今日もおかしい」清音はすぐに笑いが止まらなくなった。

 瑠璃子も清音につられて笑いが込み上げてきて、ウヒャヒャと妙な笑い声をたてた。

 昨日、瑠璃子から願った事を聞き出している時も、この話で二人とも笑いが止まらなくなったのだ。清音の母親は、瑠璃子が帰る時、なんだか二人ともすごく楽しそうだったわね。と嬉しそうに言っていたくらいだ。

 正人は、二人の幼馴染で、今は同じクラス、瑠璃子の隣の席だった。家も近く、小学校の中学年くらいまでは結構仲良くしていた。小学校の高学年になると男子と女子、なんとなく自然と別れていく流れで疎遠にはなっていたが、まぁ普通に知り合いといった感じだった。

「だって、あの成績優秀な正人が、るぅの点数になってるんでしょ?フッ、そりゃもう、あの優等生の正人君がどんなにへこんだ事か、アハハッ、想像するだけでおかしい」

 正人は見た目はいたって普通だが、みんなから『正しい人と書いて正人君』と茶化されるような真面目な優等生。テストも準備万端で臨むタイプだ。

「けど、点数交換を願うなんて、るぅ、よく思いついたよね。アハハッ」

「だってさ、正人さ、あいつ、テスト始まった途端に隣でカリカリカリカリし始めるもんだから、つい」瑠璃子はそう言うと、ヒヒッと笑った。

「あれ、多分相当悪かったと思う。テスト返された時の正人の様子……顔、血の気引いてたし」瑠璃子は、その時の正人の顔を思い出したのかのようにウクククと笑った。

「静かにしなさいっ」二人は反射的に声のした方を向いた。声をあげて笑いあっている二人の傍に、いつの間にか司書の年輩の女の先生が立っていた。

「ハハッ、す、すみません。ククッ」清音が、笑いつつもなんとか謝った。

「大きな声は出さないように」

「はい」清音はにやけた顔を隠すように下を向いて返事した。瑠璃子は下を向いて必死に笑いをこらえている。

 先生は、注意はしたからねと言わんばかりの様子でカウンターの方へ戻って行った。

「あぁ、笑いすぎでお腹痛い。ウヒッ」瑠璃子がつとめて小さな声で、お腹を押さえながら言った。

 清音もお腹を押さえて、笑いを止めようとしながらうなずいた。

「まぁ、でも、正人、可哀相っちゃ可哀相よね」清音はやっと笑いを抑え、まともに話せるようになった。

「けど、クッ…あたしだってカンニング疑われて先生に呼び出しくらったし」瑠璃子も笑いを止めようとしつつ言った。

「へ?そうなんだ。してないんでしょ?」

「当たり前だろ!そんなせこい事するかよ」瑠璃子は一気に笑いがとまったようだ。

 ん…そうだろうな。るぅは嘘とか嫌いだったし、いつもそのまんまでせこさなんて全くなかったもんな。るぅのそういう所は結構好きだった。変わってないんだ。

「けど、まぁ、疑われるのもわからないでもないな。いつも下から数えた方が早い点数だしなー」瑠璃子は肩をすくめつつ舌をチラッと出した。

「点数、良すぎた?」

「どんな頑張ったってとれっこない点数だったな」瑠璃子はニヤッとした。

「で、石の話、したの?」

「いや。信じて貰えないだろうし。逆にややこしい事になるかなーって思って、ちょっと勉強したって言った」

「ちょっと?」清音は含み笑いをした。「それ、信じて貰えた?」

「ぜーんぜん。ちょっと勉強してあの点取れたら良いだろなー。ま、珍しく勉強したのと運が良かったのが重なったんだろうって事になった」

「ふーん。運ねぇ…あの理科のテスト、選択式だったし、有り得なくもないか」

「ま、しっかり代償も払わされたし。正人も体育でAとれたんだし良いじゃないか」瑠璃子は少し口を尖らせた。瑠璃子は体育の床マットの実技テストで、A、B、C判定のBだったのだ。スポーツ万能の瑠璃子は余裕でAが取れるはずだった。運動はまぁ平均並みな正人はAだったらしい。

「多分、正人は『今日はなんだか知らないけど良くできた。ラッキー』くらいにしか思ってないと思うけどなぁ」清音がさらりと言った。

「なんでだよ、あたしがBだったって事は、本当ならあいつがBだったって事だろ」瑠璃子の声が少し大きくなった。

「そうだけど、正人は石の事なんて知らないんだから」

「けど、有り得ないし。途中から手の筋違ったみたいになるなんて…」瑠璃子は悔しそうだった。声も自然と小さくなっていた。

「だから、それ、石が絡んでるからなんでしょ?元々はるぅが願ったからじゃない」

「そうなんだけど…さ」瑠璃子は不満を拭い去れないようだった。

「AとBが入れ替わったのと、トップクラスの成績と下から数えた方が早い成績が入れ替わったのとを比べたら、客観的に見て、絶対るぅの方が得してると思うけど」

 そう聞いても瑠璃子は苦い顔つきのままだ。

「体育Cだったらたまんないでしょ?」

「ん?……まぁ、そうか」瑠璃子は体育Cを想像してみて、なんとなく納得したようだ。

「だから、その石、うまく使えばそんな悪く無いって言ってるのに」

「上手く使えない!さーやにやるよ!」瑠璃子の声がまた大きくなった。かと思うと、「って、やれないんだけど……」と、力なくボソリと呟いた。

「……いや、でもやっぱり体育Bは納得できない。理科なんてどうだって良いんだよ。体育だけはずっと良かったに。汚点だ!」瑠璃子は体育にはよほどこだわりがあるらしく、また話をぶり返した。声のトーンもかなり上がっている。

「だから、自分が願ったんでしょ」清音は呆れていた。

「だってさ…体育悪くなるなんて思ってなかったし…」瑠璃子は言い訳するようにボソボソ言っている。

「もう今更でしょ。とにかく、出よ。用は済んだし」清音は、さっきから瑠璃子の声が大きくなる度に、司書の先生がこちらに厳しい視線を送っているのが気になっていた。

 清音が先に図書室を出た。瑠璃子が続いて部屋を出、扉を閉める時、隙間からさっきまで二人が使っていたパソコンに誰かが向かうのが見えた。

「ん?正人?」瑠璃子は独り言のように言った。

 清音はチラッと瑠璃子を見たが、何も言わなかった。

「あいつコソコソと何やってんだ?っていうかどこに居たんだろ?まさかさっきの話聞いてなかっただろうな……」瑠璃子は清音に目をやった。

「さぁね」清音はどうでも良さそうだった。

「ま、いっか。例え話した所で、頭固い正人が見えない石の話なんて信じる訳ないだろうしさ」そう言って、瑠璃子も大して気にもとめなかった。



 週も半ばを過ぎていた。石の件があり、清音と瑠璃子は学校の行き帰りや、教室でも一緒に居る事が多くなっていた。が、具体的な進展は何もなかった。

「何かさぁ、最近、正人がちょろちょろしてるってか、良く見る気がするんだけど、気のせいかな?」瑠璃子は月曜日に図書室で姿を見たのを発端に、今週ずっと、教室外で正人を見かける率が高いと感じていた。最初は気にもしなかったが、あまりに良く見るので、やっぱり図書室で例の点数交換の話を聞かれてたんじゃ?と少しだけ気になりだしていた。

「……気のせいじゃないと思う」清音はちょっと不機嫌そうに言った。

 瑠璃子は不思議そうに清音を見た。

「今に始まった事じゃないから、気にしなくて良いよ」清音は口を尖らせた。

「は?」瑠璃子には何の話か見当がつかなかった。

「なんかね、多分、私の事ライバル視してるっぽい。塾も同じ所来たし、私が塾の時間増やしたら同じように増やすし。テスト何点だった?とかも聞いてくる」清音はうんざりした様子で小さく溜め息をついた。

「確かに成績は似たり寄ったりだから、ライバル視されるのもわからないでも無いけどさ…」清音はうっとうしそうな顔をした。

「へ?」あ、点数交換は関係なかったって事か。だったら良いやー。

「あ、そう言えば、あの時は点数聞いてこなかったな」清音はプッとふきだした。『あの時』が点数入れ替えた時の事なのは、瑠璃子にもすぐにピンときた。瑠璃子もニヤッとした。

「ああいうの、正直、ちょっと、うっとうしい」清音はまたうんざりした様子になった。

「へー」

「あ、私は別になんとも思ってないんだからね。成績なんて上でも下でもどうでも良い。ライバル視なんてくだらない。」清音はあわてた風に念押しした。

「ふーん」瑠璃子は適当な相槌を続けた。瑠璃子には、誰が誰をライバル視していよいうがどうでも良い話だった。正人がちょろちょろしてるのが、点数交換の話を聞いたわけじゃないとわかれば、それでもうどうでも良かった。


 テストの返却があった授業の後、正人が清音の席までやってきた。「清音、何点だった?」

「92」清音は正人を一瞥して、またかと思いつつぶっきらぼうに答えた。

「ぉ。94点だった」正人は嬉しそうに言った。

 あ、そ。そんなのどうでも良い。

 と清音は心の中で呟いた。

 いつもなら、ここで会話はプッツリと終わって正人は戻っていくのだが……

「正人、こないだの理科のテスト、何点だった?」清音は急に思いついて尋ねた。

 途端に、嬉しそうだった正人の顔が明らかにこわばった。

「あ、あれは……途中から解答欄がずれてたんだ」正人は点数を言わずに言い訳した。確かに解答欄がずれていたせいで点が悪かったのは事実だった。

「へー、じゃあ、すっごい悪かったんだ?」清音はちょっと意地悪く聞いた。

「……まぁ」正人は力なくそう呟くと、とぼとぼと自分の席へ戻って行った。

 清音は戻っていく正人をひややかな目で見送った。



「るぅ、ちょっと待て」

 土曜の帰りのホームルームの後、瑠璃子を呼び止めたのは、教師2年目の若い男性教員、熱血体育教師の本間(ほんま)先生だった。体育の授業では大抵ランニング姿で、なんだか体操選手のようで、実際、筋肉質でもあったので、誰が言い出したのか生徒の間では、『本マッチョ』と呼ばれていた。

 みんなが席を立ちバラバラと帰っていく中、カバンを持って清音の席に向かっていた瑠璃子は、立ち止まって先生の方を振り返った。清音も自分の席から先生に目をやった。

 先生はすぐに瑠璃子の所までやってきた。

「るぅ、おまえ、最近どうした?部活は?いつ戻って来るんだ?戻って来るんだろ?」先生は心配そうな様子で瑠璃子に声をかけた。本間先生は、このクラスの副担任であり、バレー部の顧問でもあった。

「戻りたいよ!けど…戻れないんだっての」最後はボソボソとつぶやいた。

「あ?何言ってんだ?」先生は少し怪訝な顔つきをした。

 瑠璃子は暗い顔でうつむき加減になっていた。

「おい、どうした?らしくないなぁ?悩みがあるなら聞くぞ?」先生は瑠璃子の肩をポンッと叩き、熱い眼差しを向け、熱い口調で語りかけた。

 瑠璃子は、チラッと先生を見て、清音に目をやった。

 清音は瑠璃子と目があって、口を開いた。「言ってみれば?」

「えっ」瑠璃子は清音のその言葉にことの他驚いた様子だ。

「この一週間、考えてはいるけど、良い方法、思いつかない。聞くって言ってくれてるんだし、ダメ元で言ってみても良いかもしれない」確かに清音はちゃんと瑠璃子の石の件を考えていたし、何もしていない訳ではなかった。先に進めないなら、と、最初から考え直してもいた。

 そもそも石の話が全部るぅの嘘、もしくは思い込みってことは?アタックの話はバレー部員に、プリンの話はるぅのお母さんとバレー部員に確認して裏をとった。正人の点数が悪かったのもこないだの返事からして明らかだ。プリンは、本当にたまたま偶然が重なったって可能性も少ないけどある。アタックももしかしてるぅの無意識が働いて決まったって可能性もゼロでは無いのかもしれない。ただ、正人の件だけは、るぅの願が叶ったとしか思えない。るぅの方はるぅの無意識が…って考えにくいけど、百歩譲ってそうだとしても、正人にまで影響させるなんて無理。たまたま正人が解答欄ずれるなんて凡ミスした?きっちり見直すに違いない正人がそんなミスするなんて、ものすごくまれな事に違いない。代償の体育のこともあるし…。それに、何もかも全部偶然だとしても、ここまで偶然が重なるなんてそんな確率ほぼゼロとしか思えない。石が本当にあるかどうかは別として、るぅの願いが叶って、その代償を払ってるのは妄想でも思い込みでもなく事実と考える方が自然。なら、どうすれば良い?どうしたらるぅは石から解放される?

 そこで行き詰ってしまい、やっぱり誰か大人の助けが要るのかな…と思い始めたところだった。でも、見えない石の話なんて一体誰が信じてくれるだろう?とも思っていた。

 先生は瑠璃子と清音を交互に見て怪訝な顔をしている。丁度、瑠璃子と清音以外のこのクラスの最後の生徒、何やらもたもたと帰るしたくをしていた正人が教室を出るところだった。

「よし、るぅ、そこ座れ」先生は清音の隣の席を指差して、自分は教室の扉を閉めにいった。瑠璃子は言われたとおり清音の隣の席に座った。

 先生は戻ると、二人の前の席の椅子に逆向きに座り、二人に向き合った。

「で?るぅ、悩みは何だ?」本間先生らしく、瑠璃子の目を真っ直ぐに見て、単刀直入に質問した。

「……これ」瑠璃子は左手を広げて先生に向かって差し出した。

 先生は差し出された手を見て、瑠璃子に目をやった。「手、どうかしたのか?痛いとかか?」

「違う。痛くなんてない」瑠璃子は力なく左手を引っ込めて、左手を見ながら小さく溜め息をついた。

「なら、なんだ?おまえ、ばんばんアタック決めだしたと思ったら、しばらく部活休みますって、どういう事なんだ?」

 瑠璃子は、一番気にしているアタックの事を言われて一気に気持ちが滅入ってしまったのだろう、げんなりとした顔つきになった。

「みんな、お前に期待してるんだぞ?あのアタック決定率はすごいって」本間先生は、普段にも増して熱い口調になっている。

「全然すごくねぇーっての!」瑠璃子はイライラした様子で突然声を荒げた。

 先生は少なからず驚いた表情をした。さすがの瑠璃子も先生に向かってここまで声を荒げたことはなかった。

「るぅ、怪我でないなら、何なんだ?」先生は、親身な様子でやさしく尋ねた。

「だから……」瑠璃子は自分の左手を見て黙ってしまった。

 黙りこんでしまった瑠璃子に困った先生は清音を見た。「清音も何か関係あるのか?何か知ってるのか?」

「知ってますけど、関係はないです。相談にのってるだけです」清音はいつものように冷静に端的に答えた。清音は誰と話す時にもそういう感じはあったが、先生と話す時は特にその傾向が強かった。

「一体、何なんだ?」先生は、少し眉間に皺を寄せ、二人を交互に見た。

 清音は、不機嫌そうに自分の手をみつめたまま固まっている瑠璃子を横目で見て、石の事を話し始めた。

 清音の話を聞き終えた先生は困惑した顔つきで首を傾げて腕組みをした。こんな突拍子もない話が出てくるとは想像もしていなかったのだろう。「願いが叶う石なぁ……るぅにしか見えないんだな?」先生は瑠璃子を見て、念押しした。

 瑠璃子は不機嫌そうに真顔のままうなずいた。

「清音は、この話信じてるんだな?」今度は清音を見て確認した。

「はい。無条件に信じたわけじゃありません。……色々考え合わせると、石があるかどうかは別として、実際るぅの願いが叶ってるとしか考えられないから…だから、信じました」清音は一瞬ためらったが、ノートを出した。「るぅの話をまとめました。見てください」

 本間先生は、清音からノートを受取り、目を通した。読み終えると、ノートを机に置き、腕を組んだまま目を閉じて考えこんだ。しばらくして、目を開き、組んでいた腕をほどいて話しだした。

「おまえら、こんな手の込んだ事するなよ。何が不満なんだ?聞いてやるから…」

「だから、この石が問題なんだって!言ってるだろ!」瑠璃子がたまりかねた風に、先生の言葉をさえぎって叫んだ。

「るぅ、疲れてるんじゃないか?ちゃんと寝てるか?おまえが戻ってきたらバレー部、きっと強くなるぞ、みんな待ってるんだからな」そう、なだめるように言う先生の様子には、腫れ物に触るような雰囲気が見てとれた。

 瑠璃子は不満顔で先生を見た。

 清音は無言でノートをカバンに入れた。「帰ろ、るぅ」清音は瑠璃子を促して席を立った。

 結局、先生は、二人でからかってると、そう判断したんだ。きっと本マッチョだけじゃない、そもそも大人を頼ろうとしたのが間違いだった。やっぱりこんなの信じてくれっこない。

 清音はもう何を言っても時間の無駄だと見切りをつけた。「先生、さようなら」清音はそっけなく挨拶だけして教室を出た。瑠璃子は先生を見る事もせず唇をかみしめたまま清音に続いた。

 本間先生は何も言えずにただ2人の後ろ姿を見送った。



「くそっ、何なんだよ、あの本マッチョ」瑠璃子は怒っていた。学校の校舎をでるまでは無言で怒りをため込んでいるかのような雰囲気だったが、校舎を出て歩き出すと突然怒りを吐き出し始めた。

「んー、まぁ、ダメ元だったし」清音はもともと期待していなかった上、ふざけていると思われる事も十分あり得ると予測していた分、あきらめも早かった。

 が、瑠璃子の方はそうはいかないようで、怒り狂いだした。

「ちょっと良い先生だと思ってたのにさ、最低だ!」

 ああ、良い先生だと思ってたんだ。だったらその分怒りも倍増するかもなぁ……相当怒ってるっぽいし…ちょっと放っておこう。

「あたしが頭おかしいってのかっ!大体あいつが心配してんのは、あたしじゃなくて、バレー部の事じゃないか」

 うん。確かにそうとも言えそう。

 清音は心の中で同意した。

「アタック決まってたのは石のせいだっての!」アタックの件は瑠璃子にとって一番カンにさわる部分であるらしく、自分で言いながら、さっきの話を思い出し、更に怒りが増してしまったようだった。

「クソッ!」瑠璃子は険しい顔つきで足元に転がっていた石を思いっきり蹴とばした。

「クソッ!クソッ!クソッ!本マッチョ、ムカつくっ!あんなヤツ、居なくなっちまえ!」

 そう言った途端、さっきからわめき散らしていた瑠璃子が左手を見たまま時が止まったように固まった。

 清音も立ち止まり、不審そうに瑠璃子を見た。瑠璃子は血の気が引いたような顔を清音に向けた。

「さーや……どうしよう……あたし、今、なんて言った?」

 清音はその言葉で何が起こったかピンと来た。「光ったの?」

 瑠璃子は小さくうなずいた。「居なくなっちまえ……って言ったよな…」そう呟くと瑠璃子はすがるような目で清音を見た。「どうしよう……」

 清音も血の気がひく思いがした。が、『何かあった時はとりあえず冷静に考える』がモットーの清音は努めて冷静に振る舞ったし、実際そう見えた。「それ、キャンセルきかないの?」

「無理、前、学校閉鎖ん時、色々やってはみたけどダメだった」瑠璃子は泣きそうな情けない顔になっている。

「色々って?」清音はそう聞きながら、何か方法は無いか考えていた。

「学校なくなるな!とか、さっきの無し!とか」

 って事は、『本マッチョ、居なくなるな』って願ってもダメって事か。

「願いが叶う前に次の願いをしたら、前のがなくなるとか無い?」清音は思いついた事を口にした。

「ぁ!それやってない。さっすがさーや、頭良い!」瑠璃子は目を閉じて左手を握りしめた。「よしっ」

「願った?」

「うん。プリン。ちゃんと光った。…で、これって、待つしかないのか…他にできる事って…」瑠璃子はまた沈んだ。

「…思いつかない。結果待つしかない」

 もし、これが効かなかったら、本マッチョ、どうなるんだろう…。

 そう思いながら、清音は瑠璃子を見た。

「怖いよ…この石」瑠璃子は左手を見つめながら、本当に泣きだしそうだった。




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