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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ルポ『アクアツアーの巨大生物を追う!』

作者: 水金鉄観

ズンズンズン、ズンズンズン、ズンズンズン...

遠くから、原始的なリズムの太鼓の音が近づいてくる。


「はぁはぁはぁ...」

じ、冗談じゃねぇ話が違う...

持っていた懐中電灯は既に何処かへいってしまった。

そして漆黒の闇の中、走り続ける。

既に心臓が張り裂けそうな勢いで打ち続けている。

こんなに走ったのは30年前の高校の頃以来だ...

男は、後ろを振り返る。

暗闇から男を追うように近づいてくる光る目の群...

まだ、付いてくる...

どうしてこんなことになったんだ...

男は、この状況に陥るまでの経緯を走馬灯のように振り返った...


数日前...

深夜、チェーン店のラーメン屋で遅めの夕食を摂る吉田のスマホに着信音が鳴る。

相手は雑誌の編集者からである。

「はぁ...今度は、何処の廃墟だよ...ハイハイ、今出ますよ~っと。」

「はい、吉田です。」

『吉田チャ~ン。お疲れ~!田辺だけど、今大丈夫?また例の潜入ルポ、お願いしたいんだけど...行ってくれる?』

田辺は、有無を言わさず話を進めてくる。

はぁ...田辺さんのところは金払いもいいし、懐も寂しくなってきたところだしなぁ受けるか...

(この安易な選択でこんなことになるなんて吉田は予想だにしなかった...)

「今度は、何処ですか?」

『吉田チャン知ってるかな~?I県の裏野ドリームランドだよ。』

I県の裏野ドリームランドと言えば、廃墟としても心霊スポットとしてもネットやそっち系の雑誌で有名な場所である。

「ドリームランドですか...」

『そうそう!そのドリームランド、吉田チャンのルポ、好評でさぁ、編集長からも是非って言われててさぁ行ってくれる?』

ホントかよ、また誰かが記事落としてそれの穴埋めなんじゃないか...

「いいですよ。夏ですからね...ヤッパリこの時期はコレですよね...」

と、答えて帰りに虫除けスプレーと電池を買って後は水...っと、これから準備する道具について思いを巡らせる。

『やってくれる?ありがと~!いやぁ~!助かるよ~!でさ、アクアツアーって所に人食いの巨大生物が居るらしいの、それを面白可笑しく書いてもらいたいの。』

餌となる生物が居ないあんな辺鄙な所に巨大生物とは...

噂を作った奴は自分が飯を食うのに巨大生物はダイエットに勤しんでると思っているらしい。

「アクアツアーの巨大生物ですね。」

『そうそう!アクアツアー。簡単な資料はメールで送っとくから、それじゃ吉田チャンヨロシク!』

そう言って田辺からの電話は切れる。

「フゥ...仕方ねぇ...」

食べかけの伸びたラーメンをすすり、スープをチャーシュー丼に入れてかきこむ。

腹が出てきたがコレは辞められない...

そして吉田はコンビニに向かうため、ラーメン屋を後にする。


翌日の深夜...

満月の夜にI県の某所、裏野ドリームランドの寂れた駐車場に1台の車が到着する。

駐車場は手入れがされておらず所々に雑草が生い茂っている。

車から降り立った吉田は、夏なのに厚手のダーク系の服を着た出立ちである。

「フゥ...迷っちまったがなんとか着いたか...まぁ誰も居ないようだし結果オーライかな...」

撮影機材や懐中電灯などを手に持ち、その他の必要な機材を小ぶりなバックパックに準備してドリームランドの入口に向かう。

そして、錆び付いた柵から侵入できそうな場所を発見し中に入り込む...


ドリームランドの中に侵入した吉田は懐中電灯の光を辺りに巡らせる。

駐車場同様に所々に雑草が生い茂り、夢の国の面影は古びたアトラクションの案内図や左右に並ぶメルヘンチックな建物で微かに感じられるような状態となっている。

先ずは雑草や倒壊した建物を避けつつ中央に位置するドリームキャッスルを目指して進んで行く...


眼前にほぼ原型を留めた城が聳え立つ場所に到着した。

ドリームキャッスルである。

吉田は、頭に叩き込んだ地図を思い浮かべ、左側のアクアツアー向かう前にドリームランドのシンボルとなるドリームキャッスルの写真を撮ろうとカメラを向けた...

その時、ふと右手の方から微かに太鼓を叩くような物音と明かりが灯っているのを見つけ、持っている懐中電灯の明かりを限界まで絞った。

確か、右側はメリーゴーランドがあった筈である。

「もしや、別の奴らが肝試しで騒いでるのか...」

と微かに呟いた。

そして、吉田は他の探索者に見つかる危険を避け、ドリームキャッスルの左手にあるミラーハウスへと向かった。


パシャッ。

ミラーハウスの前まで来た吉田は、やっと初めてのルポ用写真を撮影した。

「やれやれ...」

やっと1枚撮れたと、安堵したのも束の間、ミラーハウスの入口よりゴトゴトと物音がする...

「どうなってやがる!ここにも肝試しか!」

慌てて明かりを消した吉田が近くに放置された屋台の残骸に隠れた。

息を殺して待つとミラーハウスの入口より、やや前屈みになった人影が出てきた。

ちょうど出てきた雲で月が隠れてしまい、暗くてよく見えないが、身長は150cm程度で一見、子供か?とも思ったが、こんな時間に子供が出歩く筈も無く、連れて来る大人も乗る車やバイクが無いことも確認済であり、自転車すら停まって居ない。

思えば郊外にある施設で、車やバイク以外で来ようと思うと2時間は、かかってしまう。

人影は、見つかることを怖れ懐中電灯を消していることでよく見えないが口が異様に延びている...

その時、雲の切れ間からちょうど月の光が射し、人影の姿が露になった。

全体的に毛深いと一言で片付けるには無理のある脛が見えないほどの剛毛と歪な足。

腰布のみで半裸であるが、手も太い剛毛で被われて猿のような上半身。

一番、異彩を放つのはハイエナのような醜い頭部で、一見マスクかと思ったが薄く黄緑に瞬く眼と『グルル』と唸りをあげ、涎を垂れ流す様は到底作り物のマスクとは思えない...

「あっ...」

その姿を見た瞬間、吉田の声が漏れる...

異界の住人の耳がヒクッと動き、怪物が辺りを見回す...

その瞬間、目が合ってしまった!

ヤバい!見つかった...

怪物は、野太い声で吠えると吉田の隠れている方向にゆっくりと近寄って来る。

ヤバい!ヤバい!

心ではそう思うが体が恐怖で動かない...

そして怪物の湿った体臭や何を食べたらそうなるのか分からない生臭い腐臭を放つ息が届く距離まで近付いてきた...

じょ、冗談じゃねぇ...

嗅いだことの無い腐臭に現実に引き戻された吉田は、手に持った懐中電灯を相手に向かって振り下ろす。

金属製で照明以外にも鈍器として有名な懐中電灯である。

鈍い音と共に懐中電灯がクリーンヒット!

「ギャン...」

見事に怪物の頭部に当たり、犬のような悲鳴をあげて倒れ込む。

呆気なく昏倒する怪物に吉田は安堵の溜め息を漏らす。

「フゥ...」

一息着いた所でミラーハウスの入口より、複数の足音が外に向かって近づいてくる事に気が付く。

潜入ルポでよく絡まれるヤンキーと一緒で1人なら対処可能だが、仲間を呼び複数で来られたら厄介だ...

いくら弱くても大量に来られては対処のしようが無い...

慌てた吉田は、ドリームランド正面の出口に向かって逃げようとドリームキャッスルの辺りに懐中電灯の明かりを向ける。

明かりに浮かび上がったのは、無数のハイエナのような怪物の姿...

今思えばメリーゴーランドに居た連中も怪物だったようだ...

ヤバい!ヤバいよ!どうするオレ...

唯一の退路は後ろしかない...

吉田は、職員用の出入口を探す為に奥へ向かって走り出す...


そして、走っている吉田の背後から原始的なリズムの太鼓の音が近づいてくる...

ズンズンズン、ズンズンズン、ズンズンズン...

さっき嗅いだ生臭い腐臭が周囲から漂う...

「はぁはぁはぁ...」

ヤバい!ヤバい!囲まれてる...

既に懐中電灯もなく月明りだけが唯一の光である。

取り合えず裏口までと夢中で走る。


ドン!壁のような物にぶつかる。

尻餅をついた状態の吉田が恐る恐るぶつかった物に視線を向けるとそこにはプロレスラー体形の男が立っている。

視線を上にずらすと身長は、2m近いと思う。

プロレスラーの体形に腰布、人の顔が乗っている所には、代わりに豚の頭部が乗っている。

に、人間じゃねぇ...

慌てて立ち上り、踵を返そうとした所で意識を失う吉田...


ハッ!

鈍い頭の痛みで意識を取り戻した吉田は、辺りを見回した。

鈍く痛む頭でうまく思考が定まらないが、どうやら川のど真ん中、アクアツアーの孤島に居るらしい事が分かる。

周囲にはハイエナや豚の怪物の姿は見えない...

時計を見ると、あれからそんなに時間は経っていないようだ...

一先ずは安心だが、向こう岸へ渡る船も無く、背負っていたバックパックさえも見当たらず...

さて、どうしようと考えていると...

ザバッ!

背後から水のはぜる音がする...

恐る恐る背後を伺う吉田が最後に見た物は、大きく口を開けたアクアツアーの巨大生物の姿であった...

そして吉田が最後に思ったのは『餌は自分だった...』と云うことである...

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