勇者さんは、学校に行ってみたかったらしいです。
「やあ、友也!心配したよ!土曜はどうして休んだんだい?」
今俺に話しかけてきたのは幼馴染の一人の久井秀一。
「本当だよ。心配したんだからね!」
と、話しかけてきたのは、もう一人の幼馴染、錦戸姫奈。
二人とも幼稚園以前からの繋がりで、切っても切れない腐れ縁だ。
「先生は、家に女連れ込んだから休みだって言ってたけど...ともちゃん、本当なの...?」
あの教師、本当にそんなこと言いやがったのか...
けれど、否定はできないんだよなぁ...
「はぁ、そんな訳ないだろ...」
「違いないね!友也はそんな度胸無いからね!」
「秀はいつも一言多いんだよ...」
と、そんな話をしていると、チャイムが鳴り、同時に教室に教師が入ってきた。
「おーい、席に座れー。」
この人は、担任の浅倉万利。
こんな喋り方だが、女性だ。
顔立ちは普通に美しいが、未婚だと聞いている。
まあ、あんな性格だからだろう。
「あー、今日からこの教室に転校生が来ることになった。おーい、入ってこい。」
「は、はいっ!」
俺はその声を知っていた...
ていうか、朝その声を聞いたばかりだ。
いや、そんな、まさか...
そうだ、違うに決まってる。
そもそも、小さい頃からずっと勇者になるための訓練を受けてきたんだ。
いくら簡単な学校とはいえ、入れるはずがない。
「おー!スゲーかわいい!」
「髪の毛、すごいきれい...」
「目も青いし、外国の子かな?」
クラスメイトが言っている特徴を照らし合わせると...
同一人物だ...
紛れもなく同一人物だ...
いや、だが、しかし...
「あ!友也くん!」
俺の願いは絶たれた。
と同時に、クラスメイトの視線が自分の方に向いた。
休み時間、秋葉は男女から質問攻めを食らっていた。
まあ、
「どこから来たのー?」とか、「お父さんお母さんは外国人?」とかだろう。
「どこに住んでるのー?」
とか聞かれない限り...
ちょっと待て、今...
「電車で通ってるのー?」
「それとも歩き?」
ここで、「友也くんの家です!」なんて答えたら...
あ、これはまずい。
クラスのやつらになんて言われるか...
「えっと...その...今は、居候させていただいています。」
「へー!誰の家?」
「その...友也くんの...」
この瞬間、教室内が凍りついた。
と同時に、俺は腕を掴まれた。
「ちょっと、赤城!どういうこと!?」
「ごめんなさい、友也くん...言い訳思いつきませんでした...」
まあ、嘘ついて、「今度遊びに行っていい?」なんて言われたらと言われても困るし、第一、帰り道でどうせばれるのだから、別によかったのかもしれない。
けれど、今か!
「えっと...秋葉の父親と俺の父さんが古くからの友人で、秋葉の家族が少し家を空けるから、その間、預かっていて欲しいって言われて...」
「へー、いろいろ大変なんだねー」
と、この場は回避することができたが...
ていうか、それでいいのか...
問題はあの幼馴染二名だ。
秀は向かいの家に住んでいて、姫奈なんか、隣の家だ。
「おーい、友也!おいていくよ?」
と、秀の声がした。
隣には姫奈もいる。
うん、これは早いうちに言っておかないとダメな奴だ。
誤解を招くやつだ。
いや、早く言おうが言わまいが誤解はされるだろう。
しかし、早く言えば、隠す気は無いと分かってくれるだろう。
「あのさ、秀、姫奈、言わないといけないことが...」
「そうだ!秋葉ちゃん、一緒に帰ろ!」
秋葉は後ろからついて来ていたらしい。
「へー、ここまで帰り道一緒の人ってあんまりいないんだよ。よかったらこれからも一緒に帰ろ!」
「は、はい!」
「そういえば、志熊さんの家ってどこ?」
「え、えっと...」
「ここだよ...」
と、俺はぼそっとつぶやいた。
「そうなんだー。じゃあ、また明日...えっ!?」
二人とも同じような反応をしている。
「ともちゃん...そんな...」
「いや、そんな反応されても困るんだけど...」
「いや、そんな反応できない方がすごいよ。志熊さん、どうしてここに?」
「は、はい、その、私のお父さんの事情で...」
「なるほど、居候ってことだね。いや、別に、悪いことじゃないと思うよ。けど、今、凛ちゃんいないんだよね...」
「ふ、ふ、二人っきり!!!!!!」
姫奈は俺の方をキッと睨んでから秋葉に言った。。
「あ、秋葉ちゃん、ともちゃんに何かされそうになったらうちに来るんだよ!うち、隣だから!」
「は、はい!」
「あと、ともちゃん!そんな度胸無いだろうけど、秋葉ちゃんに手、出しちゃだめだからね!」
「はあ、そんなことしないって...」
「じゃあ、僕はこの辺で。また明日!」
「そうだね。またね、秀、ともちゃん、秋葉ちゃん!」
二人は家に帰っていった。