勇者さんは、地味なのが嫌いだそうです。
「いい奴、だったな...」
「はい、私もそう思います。」
「秋葉、あいつのこと知ってた?」
「はい。オリヴァのことならよく知っています。同期で、同じパーティーに入ってたこともあったので。彼は私なんかにとても優しくしてくれました。」
どうして秋葉は自分のことをここまで卑下するのだろうか。
「なあ、あいつに通り名ってあったか?」
そう。
ランクが高い勇者には、通り名というものがあり、それで呼ばれることが多い、という話を耳にしたことがあった。
「はい。聖騎士・オリヴァというのが表の通り名でした。」
「表?じゃあ、裏もあるってこと?」
「裏、というわけでもないんですけど、総長とか、貴公子とかよく言われてました。」
「へぇ。」
「あ、けど、それは嫌味じゃないんです。彼は本物の騎士のように礼儀正しく、約束したことは守り、仲間思いというところからなんです。中にはすごく酷い通り名をつけられる人もいるので...」
「じゃあ、秋葉はどんな通り名だったの?」
「...あの、私には二つの通り名があるんですけど、あんまり言いたくありません...それでも、言わなきゃいけないなら言いますけど...」
秋葉の声は震えていて、今にも泣きだしそうだった。
やはり、彼女には辛い過去があったのだろう。
「いや、言わなくて大丈夫。ごめん。」
「いえ、こちらこそごめんなさい。こんなみっともない姿をお見せして...」
「もう遅いし、帰ろうか。」
「はい、そうしましょう。」
俺たちは家の方向に向かって歩き始めた。
「そういえば、言って無かったけど、俺、学生だから、明日家にいないから。」
「と、友也くん、学校に行ってるんですか!?」
「いや、当然だろ。このご時世、高校いってない人なんてたぶんいないと思うよ。」
「今はそんな時代なんですか...」
秋葉の目は輝いていた。
もうこの場合は次に彼女が言う言葉は想像できる。
というか、時代も何も、同い年だった気がするんだけど...
「あ、あの、なら私も...」
「たぶん無理だぞ。」
「ど、どうして...!」
「高校行かない人がいないっつても入試はあるんだから。」
「そん、な...」
「まあ、無理なものは無理なんだ。おとなしくして待っといてくれ。」
「せめて、どのあたりの高校なのか...!」
「ん?向こうに見える大きい奴だよ。」
「大きいですねー。有名高校だったりするんですか?」
「いや、簡単なところだよ。」
そんな他愛もない話をしていたら、ぐぅーという音が聞こえた。
「あの、これはその...ち、違うんです!!」
「いや、何も言ってないんだけど...」
秋葉ははっと何かを思いついた顔でこちらを見た。
「じゃ、じゃあ、ご飯作ってきます!」
「秋葉、料理作れるの?」
「たぶんできます!」
なら頼んでしまおう。
「じゃあ、頼もうかな。」
「はい、少々お待ちください!」
「ご飯できましたよ!」
という声が聞こえるまで、三十分くらいかかった。
「ら、ラーメンです...」
見た目は完全にそのままだ。
いや、むしろすごくうまそうに見える。
「じゃあ、いただきます。」
「い、いただきます。」
俺は、それを口に運んだ。
そして、俺は息を呑んだ。
「秋葉...これって...」
「はい...ラーメンを作ったつもりでした...」
何とも言えない味だった。
そして、スープが、しょっぱいというより、どちらかというと...すっぱい...?
「この中に、何入れたんだよ...」
「さ、最初は普通にラーメンだったのですが...何だかすごく地味で。だから...」
「だから...?」
「ラーメンってお酢を入れたらおいしいじゃないですか...だからたくさん入れてみたんですが...それが失敗でした。」
「うん、じゃあ、次からは、地味でも普通すぎてもいいから、味にこだわろうね...」
「...はい。」
俺達はそのあと、無言で酢ープラーメンを平らげた。
「こっちの学校って、何か変わったことはするんですか?」
「うーん、勇者の学校はよく分からないけど、方針は違うんじゃないかな。」
「そう、ですか...魔法の訓練とかは?」
「それならよくするよ。で、俺はそれが一番得意。」
「そうなんですか。ちなみに、友也くんの蓄積量ってどれくらいなんですか?この前の戦いを見る限り、かなりありそうですが...」
「値は常人の平均の三十倍はあるよ。」
「...え?」
「いや、だから、三十倍は普通にあるよ。」
「す、すごいです!というか、悪魔、何体倒したんですか?」
「この前のワームが初めてだよ。」
そう、よく分からないのだ。
蓄積量は、悪魔を殺せば手に入る。
悪魔の種類によってもそれは変わり、その悪魔が、どれだけ世界や生き物に被害を与えるのかによって変わると言われている。
しかし、俺の場合はいつの間にかなのだ。
目を覚ましたら、エグいくらい増えていた。
「不思議なこともあるんですね...」
「うん、本当にね...」
時計を見たら、もう十一時を回っていた。
「じゃあ、俺、明日学校だから、もう寝るね。」
「あ、はい、おやすみなさい。」
俺はソファーに寝転がると、すぐに眠ってしまった。