どうやら火花が俺に飛び火してきたらしい。
「貴様ら、これがどういう状況なのか説明してもらおうか。」
六人メンバーのうちの一番若そうなやつがこっちに近づいてきた。
「...秋葉、こいつらは?」
「たぶん勇者のグループの一つです。顔見知りがいないので何とも言えないのですが...このプライドの高さは勇者で間違えないと思います。」
「なにこっち無視して仲良く話してんだ!これがどういう状況なのか説明しやがれ。」
正直、俺は今、こいつにかなりの敵意を持っている。
はあ、面倒くさいが正直にすべて話すとしよう。
「いや、本当にすいません。君たちがのろますぎてこの街が危険に晒されたので、倒させてもらいました。いやぁ本当にすいません。」
そういった途端、明らかに場の空気が凍りついた。
「んだと、てめぇ...」
「待て、おい貴様、この魔竜はそこの女と共に倒したのか?このレベルの魔竜、決して一人で倒せるものではないぞ。」
「一人で倒しましたよ?まさか、一般市民である俺が一人で倒せて、あんたたちが六人かかって倒せないから援軍を呼んだ...なんてことはないだろうな?」
「友也くん、それってどういう...」
「さっき見えたんだよ。お前がすっ飛ばされたときにちらっと。そして、もう一回俺が見た時にはいなくて、今出てきた。つまり、一時撤退して、戻ったらもう終わってた...ってところだろ。」
「ふ、お前たちは戦略的撤退という言葉を知らないのか?俺たちが死んでは意味がない、ということが分からんのか?」
「は、お前らはどうしてここに召喚されたか知ってるか?そう、一般市民を守るためだよ。なのに市民を見捨てて、それが戦略的?笑わせるなよ!」
「貴様...」
「悪いね、魔竜倒しちゃって。せっかく君たちが昇格するチャンスだったのに...ああ、でも、援軍呼んだんだから、意味ないか!だってそれ、自分の力じゃないしね。」
「隊長、わりぃ、もう抑えられねぇ。」
「ああ、俺もまったくもって同感だ。」
秋葉は青ざめていた。
「友也くん、逃げて!!」
「全員、攻撃用意...撃て!」
六人の勇者の魔法がまっすぐと向かってきた。
「友也くん!!」
「ステップディレイ・オーバーワールド」
ステップディレイは、範囲が極端に狭いが時間の進行を一時間を一秒分にできるのに対し、同じ魔法量で、半径一キロの時間の進行を一秒を五秒にすることが可能。
あいつらの魔術は、俺に届くまでに最短でも二秒半はかかる。
なら、回避をすることは可能だ。
俺はその六発の魔法を横に回避した。
「んだよ今の、人間の速さじゃねえぞ。」
「あなたはいったい...」
敵(勇者だけど)の三人目の女の仲間が声を発した。
「今のは、魔法ではありませんね...」
「さあ、どうかな?」
「少なくても、私はこの魔法を知りませんし、これが魔法だとは思えません。」
「へえ、それはどうして?」
「今ここでばらしたら、私の首は無くなるでしょう?」
ほう、俺はそういうように見えてるのか...
「んなことよりてめえ。勇者バカにしたらどうなるか見せてやんよ。」
相手の腕が輝き始めた。
「あれは、魔装展開っ!友也くん、これは...逃げて!」
「は、もう手遅れだ!勇者は魔装に力を封印しておく。そして、魔装を使うと、身体能力が著しく上昇する。つまり、さっきの俺とは比べ物にならねえぞ!」
もうだめだ...
と、秋葉は思った。
その時だった。
「おい、なぜ一般市民に向かい魔装を展開している!」
という怒鳴り声が瓦礫となったビルの上から聞こえてきた。
「「そ、総長殿!」」
と、勇者たちは口を合わせてそう言った。
「総長殿、これには訳が...」
「言い訳をする前に、とっとと魔装を解け!」
「は、はい」
勇者は魔装を解いた。
「それで、これはどういう状況だ?」
「は、はい。実は、援軍の申請後、戻ってきたら、魔竜がこいつらによって討伐されていて...図に乗っていたので少し教育を施そうかと。しかし、異様にしぶとかったので、魔装を展開した次第でございます。」
「そうか...」
まずい。
俺は今気が付いた。
勇者は基本的には自分のことしか考えていないのだ。
つまり、総長と呼ばれているこいつが、ならば続けろ。などと言ったら、俺たちはもうおしまいだ。
こいつは見ただけでもえげつなく強い。
少なくても、さっきの魔竜は一撃で葬れるレベルだ。
時が長く感じられた。
男の口が開いた。
「貴様らは馬鹿か!」
「な、」
「お前たちが倒すことのできなかった魔竜を倒し、お前らの尻拭いをしてもらったのだぞ。お前たちはそんなことも分からないのか!」
よかった。
こいつはまともな奴だったみたいだ。
男はこちらに近づいてきた。
「私の名は、オリヴァだ。私の部下の無礼を許してやってくれ。それと、名を聞かせてほしい。」
「友也。赤城友也だ。」
「友也か。友也、この街を救ってくれてありがとう。」
オリヴァは頭を下げた。
「な、頭を上げてくれ。俺は当然のことをしたまでだよ。」
「本当にありがとう。この恩はいずれ返す。」
そして、オリヴァは俺に尋ねた。
「それにしても、どうやって魔竜を仕留めたのか聞いてもよいだろうか。」
「え、ああ、俺が魔竜の方を向いたら魔竜が一歩引いたから、その隙に奥の手食らわせただけだよ。」
「振り向いたら、引いた...か...あなたはどちらかというと、人よりも悪魔に近いのかもしれない。悪魔は人間相手には絶対に引かない。」
「へぇ、じゃあ、俺を仕留めるか?」
「いや、とんでもない。創造された悪魔には必ずどこかに刻印があるんだ。服を着ていても分かるくらいの魔力を漏らしている刻印が。だが、君にはそれがない。」
オリヴァは一歩下がって礼をし、もう一言言った。
「あなたも気をつけてください。」
そうしてオリヴァ、勇者たちは帰っていった。