どうやら勇者さんは悪運に好かれているようです。
「この服かわいいです!」
「この服、どうでしょうか!」
と、さっきから秋葉ははしゃぎまくっている。
無理もないだろう。
ずっと山奥で修行していたんだ。
こんなに服を見るのは初めてなのかもしれない。
「服屋に来るのは初めて?」
「いえ、昔はよく来てました。」
はたして、昔とはどのくらい前なのだろうか。
「気に入った服があったら試着してきな。」
「はい!じゃあ行ってきます!」
と言って試着室に入っていった。
五分後、秋葉は試着室から出てきた。
なんか、泣きそうだった。
「ど、どうした?」
「む、胸がきつくて着れませんでした...」
これは斬新だ。
「じゃあ、もう少し大きい服を試着すれば...」
「はい...そうします...」
と、秋葉は試着室を出て行った。
俺は秋葉の後ろについて行った。
その時に気が付いた。
「秋葉、女物の服、まだ奥にあるっぽいけど、行ってみる?」
そう言った途端、秋葉の目が輝いたのが分かった。
「わー!この服大人っぽい!!」
「これなら着れそう!!」
と、一人で盛り上がっていた。
けれど、さっきの経験から、すぐに興味を持った服に手を伸ばすのはやめたらしい。
確かに、着れなかったらテンション落ちるからなぁ。
と一人でそんなこと思ってると、一着、目に入ってきた服があった。
「秋葉、あの服なんかどう?」
「えっと、どれですか?え、あれ...ですか!?ごめんなさい、無理です!露出大きすぎます!?」
と、顔を真っ赤にしていた。
あれってそんなに露出あるかな...
確かに、胸のあたりまでは布はないけど...
あ、確かに露出多いな、あの服。
「あ、あの!試着してきます!」
「あ、うん、いってらっしゃい。」
と、秋葉は再び試着室に入っていった。
秋葉は結局、ワンピースとTシャツ、寝間着を二着、スカート、ズボン、パンツやシャツ、パーカーなどを買うことにした。
「秋葉さん、ぶ、ブラジャーは...」
「そ、その、さ、サイズが、分からないんです...」
「じゃあ、店員さんに聞いてみようか。」
と、店員さんを呼んだ。
「すごく、大きいですね...当店にはこのサイズまでしか...」
とのことだった。
秋葉はブラジャーを受け取り、服を買い、店を出た。
「もう昼だし、ご飯でも食べてく?」
「あ、はい、では...」
俺たちは、ファストフードの店に入った。
「あの、本当にすいません...服のお金も半分以上払ってもらったのに、ご飯まで頂いて...」
「別にいいよ。困ったときはお互い様だよ。」
「本当にすいません...」
「はぁ、だからいいって。早くハンバーガー食べな。」
「...はい。」
と、秋葉はハンバーガーに口をつけた。
「!!!!!!!!!!!!!」
「ど、どうした?」
「こ、これ、すごくおいしいです!」
「そうか。それはよかった。」
俺たちは昼食を楽しんでいた。
それは突然起きた。
ドガン!
と、店の外から大きな音。
次に大きな地震、そして、店の窓ガラスがすべて割れた。
「秋葉、これって...!」
「はい...!悪魔...この威力は魔竜!」
魔竜とは、竜の姿をした悪魔だ。
こいつらは、冒険者に仕事が回ってこない、つまり、勇者レベルの実力がないとまず戦うことができない。
「い、行きましょう!」
「ちょ、秋葉!」
音がした方に走っていった秋葉を、俺は追いかけた。
その方向を見ると、とてつもなく大きい化け物がそこにはいた。
「秋葉、勝算なんてないぞ。お前は魔装を使えないんだ。」
「でも、勇者達が来るまでの時間稼ぎくらいはできるはずです!」
「ていうか、どうして勇者はまだ来ないんだ!?」
「大規模な召喚魔法には、五分はかかるんです。相手が魔竜だってわかっていたら、大人数で来るはずなので...」
「でもお前、戦えないだろ!」
「じゃあ、この町の人々を見捨てるんですか!」
「それは...」
そんなことをしてはいけない。
それくらいは俺にも分かっていた。
しかし、今の俺達にはどうすることもできない。
それに...
「それに秋葉、お前、あんまり近接向きじゃないはずだ!」
「何を言って...」
「お前、ワームの時、倒すのに四、五回殴っていただろ!いくら物理に耐性があるからって、あんな下級悪魔一匹倒すのに苦労してたら、あんなの時間稼ぎもできない!」
魔竜はもう一キロも離れていないところにいる。
迫力と魔力で押しつぶされそうになる。
「じゃあ誰が戦うんですか!」
秋葉がそう叫んだ。
とたん、魔竜がこっちを向いた。
「「!!」」
その瞬間、魔竜はしっぽをこちらに振り回した。
これは横にも後ろにも回避できない。
「跳べ!秋葉!」
俺はそう叫んで跳んだ。
俺は回避できた。
しかし、秋葉はそうはいかなかった。
今まで、魔力で壁などを張って防いできていたのだ。
回避するという判断が瞬時にできなかったのだろう。
秋葉はそれをもろにくらってしまった。
「秋葉っ!!」
秋葉は横にすっ飛ばされた。
もとはビルだったものの瓦礫に衝突し、静止する。
「無事か!秋葉っ」
「かはっ、はい、だ、大丈夫です。」
どうやら喋るくらいはできるそうだ。
ほっとした。
「そんなこと、より、あいつ、を...」
「まだ言ってるのか!そんなこと!」
どうしてだ。
どうしてそこまでするんだ。
自分では勝てないということが分かっているはずなのに...
「お前は...どうして...」
秋葉は下を向きながら答えた。
「笑わないでくださいね...私はもう、目の前で人が、仲間が、死んでいくのはもう見たくない。友達が、家族が、いなくなるのはもう嫌だから...」
秋葉は泣いていた。
もしかしたら、それを言う前から泣いていたのかもしれない。
彼女には何かつらい過去があるのだろう。
だが、俺は彼女を慰めることはできない。
俺が彼女にやってあげれる唯一のこと。
「はは、お前、それ本気で言ってるの?そんなこと、本気で言ってるなら、俺、大爆笑してやるよ。」
「友也くん...」
秋葉の顔は絶望しているように見えた。
いや、そうなのだろう。
自分の気持ちを笑って踏みにじられたのだ。
だが、それは俺だって同じだ。
お前は、どうして...
「どうしてお前は自分のことまで考えられないんだよ!お前は死んでもいいのか?冗談じゃねぇ!お前が死んだら悲しむ奴だって何人もいるはずだぞ!」
「いないよ...私が死んだって、悲しんでくれる人なんて...」
秋葉は泣くのを堪えていた。
泣かないように必死で耐えていた。
秋葉は勇者だった時に何かあったのかもしれない。
彼女は下を向いてしまった
じゃあ、
「じゃあ、俺はどうなんだ!」
「!!」
「俺は、お前が死んだら悲しいぞ!!」
「なんで...どうして...私のこと...何も...」
秋葉は、涙を流してしまっていた。
なぜかは分からない。
秋葉といれば、心が落ち着く。
秋葉といるとき、懐かしい気分になる。
俺は、前に秋葉にあったことがある、気がする。
もしかしたら、人違いかもしれない。
いや、きっとそうだろう。
だが、俺は、秋葉を一目見た時から、この子を泣かせてはいけないと思った。
「なあ、秋葉。お前はもう誰にも死んでほしくないんだろ?」
「...うん。」
魔竜は一歩ずつ、一歩ずつこちらに迫っていた。
「じゃあ、それを叶えるには...」
「友也...くん...?」
一瞬、自分が自分じゃないような感覚が体に走った。
「あいつを、殺せばいいのか?」
「...え...?」
魔竜は一歩引いた。
まるで、白旗を振っているかのように、大きく一歩後ずさりをした。
「心臓は首より下に六個...証拠隠滅は必要なし...なら、首を切り落とす。」
と、癖で独り言をつぶやきながら、俺は二本の剣を生成した。
同時に、魔竜めがけて投げた。
一本は魔竜の鱗に刺さらず跳ね飛ばされたが、もう一本が魔竜の首に刺さった。
「首に命中。チェックメイト。」
そうつぶやいたと同時に、刀は輝き始め、魔竜の首で大きな斬撃となった。
そして、魔竜の首は落ちた。
「と、友也くん...今のって...」
「ん?今の技は、切り口から一定距離の範囲のすべてのものに大きな振動をあたえて、真っ二つにするという、今考えたとっておきの秘策だけど...それが?」
「え、あんな大技、今考えたんですか?...じゃなくって、今のは魔装ですか...?それに...」
「え、俺、魔装なんて使えないけど...」
「じゃ、じゃあさっきのは?」
「さっきの?ごめん、我を忘れてたっていうか、あれなんだけど...よく覚えてないんだ...。ごめん。」
「い、いえ、別に...」
そんな会話をしている時、
「おい、貴様ら。これはいったいどういう状況だ!」
と、怒気にあふれた声で、後ろから話られたのは突然だった。