勇者さんは、着る服がなくなってしまいました...。
私の気分が少し落ち着いたとき、友也くんは後ろを向いてパーカーを脱いでいた。
パーカーを脱いでいた...?
え、ちょっと待って!?
なんでパーカー脱いでるの!?
私、こんな白昼堂々襲われちゃうの!?
確かに、命の恩人だし、さっきはワームからも助けてもらったし...
それに...いや、でもこんなところで!?
まだちょっと心の準備というものが...
そんなことを考えていると、友也くんがこっちに近づいてきた。
え、まって、どうしよう。
言うこと聞かなかったらこのままここに置いていかれたりして...
で、でもっ、さすがに今は...
「あ、秋葉...」
「あの、その、ごめんなさい!」
「なにが!?」
友也くんは私にパーカーを貸してくれた。
うん、完全に誤解してた。
「あの、でも、これ溶けちゃうかも...」
そう。
実際、私の服はこの液によって溶かされたのだ。
「いや、多分それは大丈夫。さっき着てた服より厚いでしょ?」
確かにさっきまでの服よりは分厚いが、それがどうしたのだろう。
「えっと、服は溶けたのに、靴とズボンは溶けてないでしょ?たぶん、溶かせる布の厚さには上限があるんだと思う。」
あーなるほど...
よくそんなことをあの短時間で解析できるなー。
「えっと、じゃあ帰ろうか。」
「うん。できるだけ早くお願いします。」
帰り道で二人が言葉を交わすことはなかった。
ザーーという音が聞こえる。
「と、友也くん、この液体、洗っても洗っても落ちないんだけど、どうしよう...」
と、風呂場から声が聞こえてくる。
いやあの、そんなこと言われても力になれないのですが!?
さすがにお年頃の男女が出会って二日目に一緒にお風呂に入るのもどうかと思うっていうか、アウトだね。
というわけで、
「ごめん。今回ばかりは手助けできない。」
と断っておいた。
かなりの時間が過ぎ、やっとヌメヌメが落ちたのか、ザーーという音が止み、風呂場の扉を開ける音が聞こえた。
「寝間着、風呂場の前に置いといたぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
それから少し経って、秋葉はリビングにやってきた。
「あの、お洋服、使わせてもらってもいいんですか?」
「全然大丈夫だけど...きつかったりしない?」
「そう見えますか?」
「えっと、特に胸のあたりが...」
「!!!!!」
そう、秋葉はかなりでかいのだ。
いや、本当にでかい。
けれど、妹はあまりないので、前がかなり苦しそうなのだ。
今日、役場に行った時も...
「え、っと、ワームの体液で服が溶けた時のことだけど...あの、その、ぶ、ブラジャーって...」
あ、これ、質問しちゃダメな奴だったかも...
と、質問した後に気が付いた。
「あ、うあ、あ、あのブラ、ジャー、わ、私にはち、いさくて...そ、その、」
「分かった。それ以上言うな。」
俺は気まずすぎて秋葉の顔を見ることができなかった。
「そ、そうだ。明日、服でも買いに行くか?」
「お、お洋服ですか!!」
何だろうこの食いつきっぷりは。
「私、ここ数年、自分で選んだ服着てなかったんです!」
あ、なるほど、ずっと山の奥で修行してるんだから無理はないな。
「あ、でも、私、お金が...」
「今日の報酬分があるだろ?」
「でも私、一匹しか倒してないし、それに、一着駄目にしちゃったし...」
「そんなこと気にするなよ。妹には俺が言っておくから。」
「でも...」
はあ、この子は本当に礼儀がいいな。
勇者達は大体礼儀知らずって聞いたことがあったけど...
それは偏見ってことなのかな?
「まあ、とりあえず明日はお前の服を買いに行くから、今日はしっかり休めよ。」
「はい、わかりました!」
秋葉は立ち上がって、一歩踏み出すと、そこで動きを止めた。
「どうした?」
「いえ、そのどこで寝ればいいのかな、と...あ、全然床でも大丈夫です!泊めていただけるだけで本当にありがたいので。」
「そんなことさせるわけないだろ。俺のベッドで寝ていいよ。」
秋葉は顔を赤くした。
え、ちょっと待って!?
いま俺変なこと言った!?
今のは別に変なところなかったと思うけど...!?
「あ、あの、友也くんのベッド、ってことは、つ、つまり、い、一緒に寝る、っということですか?あ、あの、すいません!私、ずっと山奥にいたので、そういうの、あまり知らなかったのですが...」
あ、この子、よく勘違いしちゃうタイプの子だ。
あのさりげない一言でここまで勘違いしちゃっている...
「いや、俺はここで寝るよ。俺の部屋分かるか?」
「え、そ、そんな、悪いですよ!なら、私がここで...」
「じゃあ、一緒に寝るか?」
「は、はい!」
なんという子だ。
出会ってまだ俺は二日目だが、一日目の俺を完全に信頼している。
それとも、俺が、手を出すこともできないへタレ野郎だと見抜いているのか...
え!?
どっち!?
「はあ、分かった、じゃあ、俺はこのソファーで寝るから、秋葉はそのソファーで寝ろ。」
「え、でも、こっちの方が大きいですが...」
「どっちも変わらないよ。横になっといて。掛け布団持ってくるから。 」
「は、はい。では、お言葉に甘えて...」
俺が布団を取って帰ってくると、秋葉はもう寝ていた。
無理もない。
今日一日いろいろあったのだから。
たぶん、勇者の一日よりも大変だったんじゃないかな。
俺は、秋葉に布団を掛けてから眠りについた。






