勇者さんはワーム討伐に向かいました。
「じゃあ、今からでも役場に行く?」
「役場ってなんですか?」
即答だった。
魔王討伐も夢じゃなかった勇者の隊長が即答でNOと言った。
「えっと、冒険者システムって知ってる?」
「あの、すいません。私、物心つく前から勇者育成プログラムを受けていたので、世間のことってあんまり分からないんです。」
それは聞いたことがある。
ずっと山の奥で訓練していて、まったく世間のことを知らないというのは本当だったのか。
「えっと、じゃあ、役場から説明しようか。」
「はい、お願いします。」
「役場っていうのは、簡単に言うと、ミッションの受付場所みたいなところで、そこで、悪魔退治や、雑用の依頼を引き受けて報酬としてお金をもらったりすることができる。」
「えっと、つまり、勇者と同じってことですか?」
「いや、悪魔退治は基本的に下級悪魔退治の依頼しか来ないし、依頼も言うほど難しいものでもない。」
「なるほど。あの、それじゃあ、さっき言っていた冒険者システムって...」
「あ、そのこと言い忘れてた。冒険者ってのは、その依頼を受ける人全般のことを指すんだけど、冒険者の中でも、優秀な成績を修めた人は、そのまま勇者になれるんだ。まあ、少し条件もあるけど。」
「へぇ、そんな方法もあるんですね。」
本当に何も知らないんだなこの子。
「あの、そんなことより役場ってどこにあるんですか?」
「ああ、徒歩十分くらいで着くから、そんなに急ぐことないけど...すぐ出発する?」
「はいっ、よろしければ今すぐにでも。」
「そう?じゃあちょっと待っといて。着替えてくるから。」
「はい。じゃあ玄関で待っておきますね。」
俺は、着替えることにした。
って言っても、別にいつも通りの服に、今日は少し肌寒いのでパーカーを着るだけなんだが。
俺は、着替え終ると、玄関まで向かった。
「お待たせ。」
「いえ、さっき来たところですから。」
秋葉さん、それ、使い方違いますよ。
「じゃあ、行こうか。」
「はい!」
俺たちは家を出た。
役場に着くまで暇なので、少し秋葉に聞きたいことがあったので聞くことにした。
「一ついいかな?」
「はい、何ですか?」
「秋葉、今何歳?」
少しド直球だったかもしれない。
秋葉は少し顔が赤くなっていた。
「あ、あの、すいません。それ、す、ストレートに女の子に聞いちゃうことですか?」
俺は少しデリカシーが無いのかもしれない。
秋葉の顔を赤く染めてしまったのは何回目だろう。
今日一日でかなりの回数見た気がする。
「あ、いや、嫌なら別に答えなくても...」
「...八です...」
「え、ごめん、今なんて...」
「十八です!!!!!!!!!」
秋葉は顔を真っ赤にしていた。
十八ってまだ若くない?
世間一般なら、まだJKって呼ばれるお年頃だよね?
全然恥ずかしいことだと思わないけど、っていうか、同い年だし。
「あの、友也くん...」
「なに?」
「声...出てます...」
秋葉は真っ赤だった。
「えっと、ここが役場...ですか...?」
「うん、いつも思うんだけど、ここ、どっからどう見てもクッパ城だよね、これ。」
「はい、私も一瞬悪魔の要塞かと真面目に考えました。」
俺たちは、役場に入り、掲示板を見ることにした。
「どれがいいんでしょうか?」
「うーん、とりあえず蓄積量を増やすことだけを考えるなら、これなんかどうかな?ワームの群れなら量もいっぱいいるだろうし、なんかやたらと報酬金額高いし。」
「ワームの群れの討伐ですか...まあ、これくらいなら余裕だと思います。」
「じゃあ、これでいいか?」
「はい!」
俺はその張り紙を受け付けに持っていき、依頼を受けることにした。
日が昇ると、外は少し蒸し暑く、パーカーを着てきたことを後悔した。
依頼の場所までの移動中、ふと俺は頭に疑問が浮かんだので、聞いてみることにした。
「なあ、ワームの悪魔とかも、昔、人間が創造した悪魔なの?」
「いえ、下級悪魔、つまりワームやゴブリンなどは悪魔が創造したと言われてます。」
「へー、じゃあ今この瞬間も創造され続けてるの?」
「創造されてるかもしれませんが、基本的にワームなどは、子供を産んで増えてる感じです。」
「なるほど、じゃあ、無限に増えちゃうのか...」
「だから勇者や冒険者がいるんですよ。」
「うん、それはそうだけど...さ...」
「はい?」
「あーゆうのを見ちゃうと、本当に減ってるのかな...って思っちゃうよね...」
「はい...私も今まったく同じことを同じタイミングで思いました。」
そこにはワームがいた。
大量にいた。
人の身長の半分くらいある白いワームがうじゃうじゃいた。
「ごめん。こんなの選んじゃって。」
と、謝ることしかできなかった。
「わ、私、行ってきます!」
「ま、マジすか」
正直に言おう。
俺は今すぐにでもこの依頼を辞退しようと思った。
いやだってこれはキモすぎでしょ。
それなのにこの子は。
本当に勇者だ。
いや、むしろただの勇ましい人だ。
まあ、魔法を使えば、遠距離でどうにか...
「あの、秋葉さん...蓄積量ってのは今どのくらいなのでしょうか...」
明らかに秋葉の体がビクッとなった。
「え、えっと...せ、生後二日の赤ちゃんの蓄積量と同じくらいです。」
つまり、この子は近距離戦でやりあおうというのだ。
こんなキモいやつと。
「秋葉さん...魔装は...」
「そ、そんなもの作るほど魔力残ってませんっ」
魔装というのは、自分の魔力で体を守る防壁を作る、つまり鎧のようなものだ。
「えっと、俺は、援護射撃でいいのか?」
「あ、だ、だ、大丈夫、です。あ、や、やっぱり私が無理そうになるまで手は出さないでもらってもいいですか?悪魔は倒さないと蓄積量増えないし、あまり友也くんに迷惑かけたくないので...」
「わかった、無理そうになったら言えよな。」
「はい、行ってきます」
秋葉は勇敢に立ち向かっていった。
「あ、一つ言い忘れてたけど、ワームって基本的にあんまり打撃攻撃効かないからな。あと、打撃で倒すと、破裂してフェロモンまき散らして仲間呼ぶらしいから気をつけろよ」
これが彼女の耳に届いたかは分からないが、まあ、指示が来るまで待つとしよう。
私はもうワームの目の前まで来ていた。
これは遠くで見るより近くで見た方が断然気持ち悪いと思った。
...ていうか、むしろグロいです...
けれど、ひるんでいても何も始まらない。
ひとまず攻撃してみよう。
「へりゃ!」
殴ったら感じるぶにっとした感触。
せめて手袋でもしてくればよかった。
続けて二、三発殴ってみる。
「嘘!?全然効いてない!?」
私の能力で下がったのは蓄積量だけなので、攻撃力は減ってないはずだ。
ということは、このワームは物理攻撃に耐性を持っているということだろうか。
しかし、たかがワーム。
いくら耐性を持っていても、あと一、二発でとどめがさせるはずだ。
もしとどめを刺すことができなくても、ワームは全然動いてないのでまだ安全なはずだ。
「えいっ!やあっ!」
明らかに今倒した感触があった。
この調子でもっと...っと思った瞬間、
ワームが爆発した。
と同時に白い液体もワームの体からまき散らされた。
その液体に私は反応できなかった。
あ、そういえば、さっき友也くん、フェロモンがどうとか言ってたな...
ということを思い出しながら私はその白い液体をもろに受ける羽目になった。
「きゃぁ!」
そして、その瞬間、今まで微動だにしなかったワームたちが一気に私の周りにたかり始めた。
「ちょ、ちょっと、やめ、やめてーーー! きもちわるいよーー!」
「ちょ、秋葉、大丈夫か!?」
「体力的には全然大丈夫だけど、生理的に無理です!しかもくさい!た、助けてください!」
「お、おっけー、ちょっと待っといて、えっと、どうすれば...」
「お、お願いしま...す、は、はや...く...」
あ、これはまずい。
ワームのぶにぶにとフェロモンの臭いと蒸し暑さで吐きそう、っていうか、もう吐いてるかも。
それよりも先に気絶しそう。
「パルスサンダー!」
ワームは十数秒で全滅した。
ワームを駆除した後、友也くんは急いで私のところまで来てくれた。
「秋葉、大丈夫...か...」
「ちょっと、友也くん!あれ、絶対フェロモンじゃなくて、男の人の...ひとの...」
うん、今、自分でも顔が真っ赤になってることが分かる。
というか、さっきから一向に友也くんがこっちを見てくれないんだけど...
「私の顔に何かついてますか?」
「いや、その、ついてるといいますか、ついてないといいますか...秋葉さん、その...お洋服は...」
「ふぇ!?」
嫌な予感がする。
ワームにおしくらまんじゅうされている時に感じたリアルなぶにぶにかん。
今異常にスースーしてる感じ。
そして、何より異様な解放感。
私は恐る恐る自分の体を見た。
服を着ていなかった。
なぜかズボンは履いているのに、服は着ていなかった。
「あ、うあ、」
と、変な声が聞こえる。
たぶんこれは自分の声だろう。
急に目の前にいる友也くんが歪んで見えた。
そして、
「ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
と、耳には聞こえない叫びとなった。