勇者さんはことの成り行きを語ってくれました。
「私が、召喚されるはめになったのにはいくつかの理由があるのですが...まあ、そのすべての原因となるものは、私は大魔王に挑んで敗れたということです。」
「へー、魔王か、それはすご...大魔王っ!!」
そう、秋葉は間違えなくそう言った。
魔王に挑むとは、かなりの強者だ。
それに、大魔王とまでなると...
大魔王というのはこの世界にも4体しかいない、魔王共のリーダー格だ。
けれど、どうして敗れたからってここに召喚されたのだろう。
「えっと、それで、勝算はある戦いだったの?」
「はい、一応勝算はありました。」
あ、この子今すごいこと言った。
もし、本当に魔王を倒すことができたならば、英雄とかじゃすまない。
「じゃあ、どうして敗れたのか聞いてもいい?」
「あ、はい。それはですね、仲間の死を目の当たりにして、恐怖のあまり、捨て身で突撃しちゃった、といいますか...」
秋葉が言っていたことをまとめると、秋葉の率いる隊は、無事魔王の部屋まで到達した。
そして、魔王と戦っている途中に、味方が死んだ。
それだけなら別に勇者としての運命だから仕方がないと思う。
だが、その死んだ勇者は秋葉のすぐ隣にいて、守ろうと思えば守ることができた。
それにその勇者は、秋葉と何年も組んでいたパートナーだった。
目の前でパートナーの死を目撃し、秋葉は我を忘れ、独断で魔王に攻撃を仕掛けた。
そして死んでしまった。
ということらしい。
ん?まてよ、
「秋葉、死んだって言ってなかった?」
そうなのだ。
死んだと確かに秋葉は言った。
なら、ここで今俺と会話しているこの子は誰なんだ?
「あ、そのことまだ言ってませんでしたっけ?このお札、マジックアイテムなんですけど、死んだら自分と一番親しかった人の家に召喚されるんです」
それはすごいマジックアイテムだ。
そんなものがあれば、いくらでも無謀な挑戦ができるではないか。
「じゃあ、もう戦場に戻るの?」
「いえ、このお札には副作用のような効果があるので、まだ戻れないんです。」
「ちなみに、その効果は?」
「はい、魔力の蓄積量がその、初期状態に戻ってしまうんです。」
それは痛手だ。
この世界の魔法は、自分の魔力を使い、魔法を生成、そして発射。
という流れなのだ。
つまり、魔力蓄積量が初期状態に戻るということは、大規模な魔法が使えなくなるということだ。
「じゃあどうする?自然に治るまで待つ?」
「いえ、それだと何十年かかるか分からないので、」
あ、何十年単位の時間が必要なのか。
「じゃあ、どうやって回復するつもり?」
「はい、蓄積量を増やすには、悪魔を倒せばいいので、少し悪魔を倒してきます。 」
「へー。一人で大丈夫なの?」
秋葉はなぜか顔を赤らめてから言った。
「その...よろしければついて来ていただきたいのですが...私の魔力じゃワーム一匹倒せるかどうかなので、集団で襲われると...」
不覚にも、ワームの群れに秋葉が秋葉が襲われているところを想像してしまった。
「あ、うん、そうだね。じゃあ、明日あたり行ってみようか。」
「あ、あと、も、もう一つお願いしたいことがあるのですがっ」
今度はさっきよりも真っ赤になっている。
どうしたんだろう。
具合でも悪いのかな?
「あ、あのっ、本当によろしければでいいのですが、この家に居候させていただけないでしょうか?」
「なんだ、そんなこと?全然大丈夫だけど...」
と、ここまで言って気が付いた。
今、家には自分と秋葉しかいないということに。
「で、でもいいの?家には俺しかいないけど...」
秋葉は五秒硬直して顔を真っ赤にし、あ、うあ、と、謎の声(?)を出していた。
「あ、でも何日かすれば妹も帰ってくるしそれまで我慢してくれたら...今は俺一人だけど...。」
「あ、いえ、泊めていただけるだけでありがたいので、お言葉に甘えさせていただきます。」
「そうか、じゃあこれからよろしくな。」
「はい、よろしくお願いします。」
こうして、俺と勇者さんの同棲生活が始まった。