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元素魔女-エレメントウィッチ-  作者: 柊
ヒロイン嫌いの主人公
1/1

最強最弱の憂鬱

 西村 帝は、非常に憂鬱だった。

 

 毒舌で容赦がなく、時には汚い手も使う、プライドもクソもない主人公(と呼べるのか若干怪しいが)。

 

 ある事情により「西森家」から敬遠されていた帝は、厄介払いとして、全寮制の学校に入れられた。

 

『国立元素魔女教育専門学校』。通称EES。

 

 国家がひた隠ししている、元素魔女___エレメントウィッチが秘密に通う学校だ。

 

 

___さて、『魔法』とは。

 

 

 

 本でもアニメでも、よく描かれる『魔法』は、ファンタジーなイメージが大半を占める。

 

 しかしながら、事実そんな『私は闇の魔法使い』だとか『時間を操る魔術師』だとかは、あり得る訳もない。

 

 魔法とはつまり、元素や細胞の融合技術。立派な科学的根拠を元に実証されているのだ。魔術師は、血筋により、元素を操るための細胞を持つ者なのである。

 

 しかし、そのいわゆる『科学的魔法』は種類があり、まず四大元素を操る通称『紅の魔法』。『紅の一族』と呼ばれる魔術師一族の使う魔法。

 

 そして、四大元素以外の元素をすべて操る通称『翠の魔法』。『翠の一族』が使う魔法だ。

 

 最後に、人間の細胞へ直接魔力による干渉をし、成長させたり、元に戻したりする『蒼の魔法』。『蒼の一族』が使っていたと言われる魔法だ。

 

 魔術師の一族はこの3つしか存在していないが、勢力が衰えないのは『紅の一族』と『翠の一族』。

 

 『蒼の一族』は魔力___元素を操る細胞の数___が高いだけでほぼ何もできないため、衰退の一途をたどり、ついには魔力を全く持たない、形だけの一族となったらしい。

 

 全国にあるこの学校だが、東京校は別格。

 

 先ほど説明した、3つしかない魔術師一族の本家や、

分家ながら強力な力を持つ元素魔女が集う___最も、『蒼の一族』はほとんど魔力のもつ者がいないので、学校にいることはないだろうが___とりあえず、超のつくエリート校なのであった。

 

 しかし、帝としては「西森家から離れられる」と「翠の一族の割に魔力が高かったので」という理由で入った。


  後に『超エリート校武勇伝』を知った所で、あまりピンとくることはなかった。

 

 そして帝は、あまり魔法が好きではなかった。むしろ嫌いだ。大嫌いだ。自分からすべてを奪った魔法を、どう好きになれというのか。

 

 これも『願い』を叶えるための、『時間稼ぎ』なのだから。

 

 それでも彼は___最強最弱、最高最低の西森 帝は、清々しいくらいに今日も憂鬱。

 

 

 

___ああ、嫌だ。


 「……の一族は……なんだ……」

 

___時折、部分的に聞こえる耳障りな声。絶望の色に染まった瞳は、もう何かを写すことを拒絶していた。

 

「……ず……成功さ……る…んだ」

 

 聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない!俺はもう___

 


 

 「よぅ少年」

 

 

 

 絶望の中に、光が差した。

 

「俺はお前に強くなる方法を教えてやれる」

 

 

 意識の中を駆け巡るエコー。

 

 

 俺は___俺の目的は___願いは___

 

 

 

 「授業中居眠りとは、随分と余裕だね。西森君」

 

 寝起き10分は使い物にならない、と自負する俺は、今の状況に頭が動作していなかった。

 

 クラスメートがこちらを注目し、美人と評判の先生が近くに立ち、怒り、というより呆れ、という要素の多い表情で見下ろしている。

 

 この状況から導きだした俺の選択は___

 


「………………」

 

 

「寝るの!?今の雰囲気に、寝るっていう選択肢があったってことより、むしろあなたのずぶとさにびっくりだよ!?」

 

「………俺は眠いんです。怒るとシワが増えますよ。生徒の様子をよく見るくらいなら、鏡で肌を細部まで見た方がいいんじゃないですか、先生」

 

 寝ぼけていても、『できますよ』じゃなく『増えますよ』という表現を選ぶのは、俺の性格の悪さを色濃く映している。

 

 憂鬱だ………

 

 先生は、もうなれているらしく、怒ることはない。そのかわり、大きなため息をつかれてしまった。

 

「もう………あなたは魔力量が学年トップなんだし、魔法の使い方を学べば、立派な魔術師になれるよ?」

 

___聞きあきた。必ずしも立派な魔術師になることが幸せと考える大人は大嫌いだ。

 

 仕切り直し、と言わんばかりに手を叩き、先生は皆を誘導し始めた。

 

「はい、とりあえず今から紅の一族と翠の一族に分かれて授業するから、別室に移動。わかった?」

 

___ああ、嫌だ。

 

「コラ。シリアス展開で誤魔化すの禁止」

 

 また寝ようとしていたのがバレたようで、出席簿でスパァァン!と叩かれた。やっと頭の細胞が動き出した俺は、後頭部を擦りながら立ち上がって移動を始めた。

 

 俺は『西森家』の人間なので『翠の一族』側。

 

 一般に、南という字が名字に入るのは『紅の一族』。

 総領のいる本家は『華南家』。

 

 また、西という字が名字に入るのは『翠の一族』。

 総領のいる本家は『西条家』。

 

 昔は北神家という魔術師の家もあったが、一族をもつ前に滅びてしまった。

 

 最後に、東という字が名字に入るのは『蒼の一族』。

 総領のいる本家は『東ノ宮家』。

 

 だがほとんど形だけで、もう魔術師と関わりを持ちたくない蒼は、魔力を持つ子がほとんど生まれていなく、この学校にはいないと聞く。

 

 だからこの学校には『蒼の一族』用の授業はない。

 

 すると、ヒソヒソと話し声が耳にするりとすべりこんできた。

 

「あの人さぁ、ただ魔力が高かったから受かったんでしょ?」

 

___まぁた始まった。

 

「戦闘とか、成績悪かったらしいぞ。まあできなさそうだもんな、あいつ」

 

 囁いたつもりが、全くみえないボリュームで話す奴らに、俺は小さな声で毒つく。

 

 

「………うざ」

 

 

 その瞬間、ゲスな噂をしていた奴らは顔をしかめた。が、聞こえたか聞こえてないかは、もはや興味はない。

 

 言葉の正当防衛だろう?

 

 まあとりあえず俺は、主人公として、かなりあるまじき言動と性格であることは間違いなかった。

 

 翠の一族の教室につき、いつもの癖、と言ってしまえば終いだが、皆とは離れた席にすわった。

 

 すると、一人の女の子が俺のぼっち席に近づいてきた。

 

(せっかく避けてたんだけど)

 

 俺の機嫌はさらに急降下していく。

 

 あろうことに、そいつは俺のとなりに座りやがった。

 

「はじめまして。西条翡翠です」

 

 普通なら、いや男ならば、一発ノックアウトな笑顔を携えて来た女。

 

(本家、か)

 

 ある事情によりはっきり言って、俺は本家が嫌いだ。俺は眉を潜めた。

 

西条 翡翠。『翠の一族』本家、『西条家』の一人娘だ。強さは、『紅の一族』十二神に匹敵するらしい。

 

 俺の憂鬱は、さらに増していく。

 

「………俺は本家のお嬢様と話せるほど、身分が高い家じゃないですよ」

 

 いかにも不機嫌だと、自分でもわかる声音であった。西条さんも、少し困ったように眉を寄せた。

 

「そんなこと関係ないよ。本家も分家も、結局は魔術師としての力量で立場が決まるもの……西森君は魔力量がすごいでしょ?」

 

 多分、素直に褒められたのだろう。しかしひねくれた俺としては、お世辞にもならないし、馬鹿にしてるようにしか取れない。

 

「………どうも。本家からすれば、『すごい』にはならないでしょうけど」

 

俺なりの、『関わるなアピール』だったが、ただの冗談と受け取った西条さんは、にっこり微笑んだ。

 

「西森君って、おもしろいね!」

 

(………手に負えない)

 

 俺の機嫌が墜落した瞬間だった。

 

 ここまで逃げたい、と思った状況は久しぶりであった。

 

「ところで西森君、あのさ__」

 

「嫌です」

 

「まだ何も言ってないよ………」

 

「予想できるからですよ。嫌です」

 

「き、聞かないとわからないじゃない!」

 

「………ど●でもドア、欲しいな」

 

「に、逃げたいってことを、こんなに変化球でぶつけてきた人、はじめて見たよ!?」

 

 変化球でもなんでもない。そのままの意味だが………

 

「ゴホン。西森君、私と模擬戦してもらえませんか?」

 

 なんだろう、仕切り直しに咳払いをして誤魔化された。

 

 しかし俺の答えは1択オンリー。

 

「嫌です。ナイトオブペリドットが俺に何の用があってそんな………」

 

 ナイトオブペリドットとは、西条さんの異名であり、僻みの象徴としてよく裏でも表でも呼ばれている汚名だ。

 

 嫌みで言ったのだが、そんなことは全く気にされず。

 

「私は!西森君と仲良くなりたいの!私が勝ったら『翡翠』って呼んで!」

 

 俺の腕をつかみ、涙目ですがる西条さん。

 

 しかし、考えようによっては。

 

(正当な理由で、憎みに憎んできた本家を叩き潰せる………)

 

 必死に懇願する西条さんに、俺は真意を悟られぬよう、優しく爽やかに答えた。

 

「仕方ないですね。いいですよ」

 

 よくゲスな口から、こんな爽やかなセリフが出たのか。むしろ俺はびっくりだった。 

 

 西条さんはというと、比喩的に花が咲いたような笑顔で俺を見上げていた。

 

「本当に!?ありがとう!」

 

「そのかわり、俺が勝ったら、二度と俺には近付かないでくださいね」

 

 さらっと本音を入れ込み、会話は終了した。

 

 彼女がなぜ俺に模擬戦を挑むのかの理由はよくわからない。が、

 

 俺としては、お礼に骨を折るくらいはしてやらないともったいない。

 

((放課後、楽しみだな))

 

 二人の心の声は、意味は違えど一致していたのは、なんとも言えぬ悲しい事実であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

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