3:騒動
アビス・・・体内の魔力を魔法へと変換する魔具である。形は腕輪であったり指輪であったり、または剣などの武器であったりと様々な形がある。新暦1078年、体内の魔力をアビスを使って魔法へと変換する方法を発見したのがヴェゼル=アビスである。ヴェゼルは当時、古物商より安値で購入し研究の末、魔法を発見したとしたと言われている。その後、ヴェゼル国際魔法委員会の前進となる魔法協会を設立し、生涯をかけて魔法研究、アビスの収集に務めた。その功績称え、魔具の事を「アビス」と呼ぶようになった。「アビス」は平原や洞窟など様々な場所で発見された。昔は発見されたアビスを使用するしか魔法を使用することができなかった為に今現在と比べると魔法士の数も少なかった。しかし、現在ではアビス自体の研究も進み、人工的にアビスを作り出すことに成功し、発見されるアビスと同等以上の性能を持つまでになっている。
「わかったか?今、話したのが魔法士の要となるアビスの歴史だ。魔法士はアビスがなければただの一般人に毛が生えたようなもんだ・・・つまり、自分の命と同様に大事に扱え。よしっそれでは午前中の講義は終わりだ。昼は13時からは、訓練場で実際にアビスを使う・・・・解散!」
2日目は朝9時から講義は始まり、軍の歴史、アビスについての講義が行わた。
ナギサとテツは午前中の授業が終わると食堂で昼食を食べながら話しをする。
「テツ、午前中の講義、ほとんど寝てたろ?」
「・・・そんな事をないぞ!アビスは自分の命と同様に大事に扱えって言ってたろ」
「・・・分かったよ」
「おぉ分かってくれたか。さすがは友達だ!」
「君が話を聞いてないってことがね」
「なぜバレたー!!」
「バレたって言ってる時点で最後しか聞いてないないのがバレバレじゃないか。そーいえば、テツは家から登校してるのかい?」
「俺は寮から来てるぜ」
「赤岩家の別邸が東京にあるんじゃないの?」
「あるにはあるけど兄貴夫婦がいるから居辛いんだよ・・・毎日、ラブラブっぷりを見せらるのは・・・辛い。お前は家から来てるのか?」
「俺も寮から来てるよ」
「えっそうなのか?寮でお前の姿見なかったから家から来てんのかと思ってたよ」
「まぁイノシカの手伝いさせられて、寮の部屋に帰ったら疲れてそのまま寝たからね」
「だから、見なかったのか」
「ちょっとあなた達、男同士で昼食なんて気持ち悪いわね!」
「・・・」
「・・・」
2人が振り返ると黒髪をひとつにまとめて団子のようにした、身長165センチほどのモデル体型の美少女が膳を持って立っていた。ナギサとテツの2人はしばし顔を見合せ同じ言葉を口に出す。
「「誰?」」
「ちょー!!天川雫よ!!同じクラスじゃない!!!同じEクラスじゃない!!」
「・・・」
「・・・」
「えっちょっと待って!!・・・もしかして・・・お二人のクラスは?」
「「Eクラス」」
「なんだ、Eクラスなのね・・・ちょー!!やっぱりクラスメイトじゃないよ!!」
「残念だね」
「あぁ残念だ」
「何が残念なのよ!全くクラスメイトの顔ぐらい覚えてなさいよ!なんのための自己紹介だったのよ!」
プンプンと震えるしずくに対してテツはなだめるように声をかける。
「まぁ落ち着けって落ち着いて席にでもつけ、見たところ一人だろうから一緒にご飯でも食べようぜ」
「うるさいわね!ほっといてよね!何であんた達と一緒に食べないと行けないのよ!大きなお世話よ!」
そう言いながらシズクはナギサの横の席につく。
「座ってんじゃないか!!!」
テツが大きくツッコミを入れる。
「だから、うるさいわね!今日だけよ!それよりあんた達、入学2日目にしてすごく仲が良さそうだけど・・・テツとナギサって昔からの知り合いなの?」
「・・・」
「・・・」
「なんで黙るのよ?」
「「なんで名前を知っているんだ?」」
「だからなんのための自己紹介だったのよ!!!」
その後、シズクの大声が食堂中に響き、皆の注目を浴びシズクが顔を真っ赤にしながら昼食を急いで食べる。ナギサとテツはその様子を見ながら微笑み、残念な級友ができたことを喜ぶ。
そして、午後の実技の時間となる。
「では、実際にアビスを使って魔法を発現するぞ。初めて使う者もいるだろうから、はじめに俺が実践をしてみるので注視しろ」
そう言うとイノシカは刀の形をしたアビスを鞘から抜き、魔力をアビスへと注ぎ込む。すると刀身の周りが黄色く光り始める。イノシカは光ったのを確認すると20メートルは離れた訓練用の人形に向かい刀を振り下ろす。すると、黄色い光の刃が発現し一瞬のうちに的に当たると訓練用の人形は真っ二つになり、激しい音をたて爆発する。イノシカは振り返りながら刀を鞘におさめる。
「まぁこんな感じだ」
「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」
誰もが何も言えず静まり返る中、テツが口を開く。
「・・・どんな感じだよ!!!」
「まぁ上官に逆らえばあぁなるって事だ」
「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」
再び訓練場が静寂と化す。
「習うより慣れろだ。実際に各自、自分のアビスに魔力を込めてみろ。自分の中の力をアビスへと移すような感覚でやってみるんだ。難しくはない、体内魔力が少ない者でも出来ることだ。アビスから何色でも光が出れば発現は成功だ。ただ、発現は出来ても放出は危険だからするなよ!発現が出来たら今度は逆にアビスから魔力を体内に吸収と発現はなくなる。発現と吸収ができた者から今日の実技は終了だ!そのまま帰ってもらって構わん、できない者は出来たら帰らせてやる。よし、話しはここまでにしてやってみろ」
イノシカの話を聞き終わると各自、自分のアビスを取り出し魔力を注いでいく。貴族出身であったり名家出身でアビスを事前にアビスを使用する機会があった者は1回で発現をしていき、イノシカのチェックを済ませて帰っていく。そして、他の生徒達も順々に発現に成功して帰っていく。テツはもちろんのこと、シズクも家柄が良いのか1回で発現をすることが出来ていた。残ったのはナギサ一人だった。
「テツ、あなた帰らないの?」
「あぁまだ頑張ってるやつがいるんだ。待ってやるのが友達ってもんだろ」
「確かにそうよね・・・」
「お前は帰っても良いよ」
「なんでよ!?」
「だって、友達じゃないじゃん」
「・・・・・・えぇぇぇぇーーーー!!!えっ!ウソウソ!さっき、一緒にご飯食べたじゃん!ママが一緒にご飯を食べたら皆、友達だって言ってたし・・・・」
「冗談だよ。ったく、つくづくお前は残念なやつだな。一緒にご飯食べたら友達ってどんな理屈だよ」
「それはご飯を食べる時って大体の人が気持ちを抜いているから・・・」
「うん、君等が残念だって事がよく分かったよ」
そう言いながら、ナギサが二人に話しかける。
「ナギサ出来たのか?」
「まぁ一番最後になってしまったけどな」
とナギサは笑顔を見せる。
「まぁ出来たなら、良かったじゃない」
「まぁそうだな」
「アビスを使ったことがないだろうナギサが時間が掛かるのは仕方がないだろうけど・・・シズク、お前も1回で発現が出来ていたけど、使ったことがあったのか?」
「私の家は青海家につかえてるから、一応騎士爵を持ってる貴族に入るからね。昔から青海家の為にって鍛えられたから・・・」
「なるほどな・・・じゃぁ行くか」
「ちょっと待ってよ!青海家よ!?赤岩家とは犬猿の仲の青海家よ!」
「俺はそんな事気にしてないぜ」
「なんで!?もしかしたら赤倉家の弱みを握る為にあんたに近づいたかもしれないじゃない!!!」
「・・・俺は結構、人を見る目には自信を持ってるんだ・・・お前はそんなやつじゃないってのはすぐ分かる・・・それに俺がで言うのも何だけど赤岩家の末っ子の弱みを握ったくらいで赤岩家には全くダメージはないしな・・・まぁ『偶然同じクラスになって友達のいない残念なお前と友達になった』それで良いんじゃねーか?なぁナギサ」
「そうだね、俺はよくわからないけど一緒に居て楽しかったら友達だろ?だったら俺もテツも君と居て楽しいって思うから、もう友達でしょ。それがたとえ友達がいない残念な人でもね」
「ナギサの言うとおりだぜ」
テツは笑顔を見せながら、手を差し出す。
「・・・・・友達がいないのと残念は余計よ」
シズクはテツの手をとり笑顔を返す。その様子を見ていたナギサもシズクに手を差し出し、シズクとナギサも握手をかわす。そして、三人はお互いの顔を見ながら笑顔となる。
その後、寮から来ている事が分かり三人で寮に戻る。寮は学年別に分けられており、男女は同じ建物の中で中央の食堂を境にわけられている。現在、ナギサ、テツ、シズクの三人は共有スペースである食堂でコーヒーを飲みながら話をしている。
「テツのアビスって指輪型なんだ?」
「あぁ赤岩家は接近戦を得意とする家だからな。指輪に魔力を通して身体強化で相手の懐に入って戦う訓練を小さい頃から叩き込まれたんだよ。まぁ自慢じゃないが遠距離攻撃魔法は全く使えん。使える気配もない」
「ははは、なるほど。じゃあシズクのアビスは?」
「私はこの剣ね。私も近接戦が得意だけど遠距離も使えない事もないから・・・イノシカ先生みたいな感じかな?ナギサは?」
「俺は腕輪型だな。入学が決まって軍から送られてきたやつだよ」
「まぁそうだよな、アビスが一般的に普及してきたと言っても軍や貴族に関係するやつじゃないと手に入れられないだろうしな」
三人が話をしているとナギサの後ろから声を掛けられる。
「おやおや、誰かと思ったら今日の実技で一番最後まで残っていたフールのナギサ君じゃないですか?」
フール・・・魔法士の血脈でない者が突然変異的に魔法適性を持った者の事をさす差別用語である。神のイタズラによって魔力を持ち生まれた者、フールと・・・・。
シズクはフールという言葉を聞き、すぐに席を立ち声を掛けてきた青年の前に立つ。
「ちょっと、何言ってんのよ!?フールは指定禁止用語のはずよそれを堂々と使うなんて!!!」
「これはこれは騎士爵家のお嬢さん、男爵の爵位を持つ僕の家に文句でもあるのかな?」
「はぁー?なんで、あんたの家に文句を言ったことになるのよ!!」
「僕に言った事は僕の家に対して言った事と同じ事。僕は男爵家の第一子だからね。ここまで言えばわかるだろ?お嬢さん。そこに座ってる伯爵家の末っ子のお坊ちゃんとは違うんだよ。いくら伯爵家の人間とはいえ、家をつげなきゃただの一般人だからね。つまり、僕は君たちとは違うんだよ」
「・・・何が貴族だ。ここは軍の学校だ。貴族は関係ないだろ!?軍では階級が全てだ!お前は俺達と同じ二等兵だろ!?偉そうにして何になる!!」
「・・・はははは、赤岩家のお坊ちゃんは面白いことを言う。僕の父上の事を知らないのか?父の軍での階級は日本中将だ。覚えて置くんだな」
「それでもお前が偉いことにはならないだろ!?」
「そうよ!何言ってるのよ」
「確かに・・・そうかもしれないがそうじゃないかもしれない。まぁ数ヶ月後には分かることだ。今から僕の事を上官と呼んでもらってもかまわないよ」
「まぁまぁ落ち着きなよ。そんなに大きな声を出して話をするから皆こっち見てるよ・・・それに彼は俺に用事があるみたいだから」
はじめは少なかった食堂には騒ぎを聞いた生徒たちが集まっていた。
h位w「皆が見ているならちょうど良い、お前にはっきり言っておく。お前は魔法士に向いていない。学校から去れ。お前のようなフー・・・失礼、魔法士の品格をそこなうような奴が同じクラスにいるだけで不愉快だ。他のクラスまで言わないが、ここで聞いているEクラスの中でナギサ君と同じ魔法士として呼べない奴が居ればナギサ君と一緒に今すぐ学校から去りたまえ!それがこの学校、日本、しいては帝国のためになる。ナギサ君?去る決心はついいたかな?」
「・・・その前にひとつだけ、君に聞いてもいいかな?」
「あぁなんでも聞いてくれたまえ」
「それじゃぁ・・・・君、誰?」
「・・・・・」
「「「「・・・ぷっ・・っはははははははは!!!!」」」」
ナギサの言葉で静かだった食堂に笑い声が広がった。青年は苦虫を噛み潰したような表情をしながらもすぐに毅然とした表情に戻すと。
「すまない。僕としたことが名乗っていなかったとは・・・僕は君と同じEクラスの柳高次だ。それで答えは決まったのか?」
「柳?・・・中将?・・・どっかで・・・・・・あぁ柳さんの」
「何をぶつぶつとひとり言を言ってるんだい?」
「あぁ・・・答えだったね?分かった、君の言う通り去ろう」
「ちょっとナギサ!?」
「おい、ナギサ何を言ってるんだ!?」
「殊勝な心掛けだな」
「まぁ君も一緒に去るんだけどね」
「はっ!?何を言っている。僕がこの学校から去るわけないじゃないか!?」
「あぁごめん、言葉足らなかったね。正確には、ほぼみんな一緒に去るんだけどね・・・卒業してからね」
「・・・・・・」
「まぁ確かに卒業したらこの学校に残る人は居ないわね・・」
「ヤナギもいつ去れとは言ってないしな・・・ナギサ・・・性格悪いな」
「ち、違うぞ!逢沢渚!い、今すぐ去れと言ってるんだ!!」
「あぁそうだったんだ。だったら答えはNOだね。常識的に考えて、せっかく最難関の試験に合格して魔法高校に入学したのに2日目にして自主退学する人は居ないでしょ?そんな事をする人が居るとしたら・・・いや、まず魔法高校に入学ができていないだろうね。軍にやる気がない者は要らないだろうし・・・冷静に考えればわかると思うんだけど、君は冷静さを欠いていたのなら仕方がない・・・冷静さを欠いた原因が俺にあるのであれば謝罪しよう。申し訳なかった。ただ、僕に対する言動への謝罪はいらないから他の生徒を下に見るような言動への謝罪はした方が良いと思うよ。僕はこの学校を辞めないし他の生徒達も辞めないと思うよ。ここまで言えばわかるだろ?わからないん・・・・」
「おい、ナギサ?ナギサ!?ちょっと落ち着け!ヤナギがついていけてない」
「あぁごめんごめん。まぁ辞めないし去らない」
「・・・・・・・・・・・・くそっ・・・・・・・・去らなかったことを後悔させてやるからな」
ヤナギはそう言うとナギサを睨みつけ一人で食堂を後にする。それと同時に夕食を時間開始となる5時の鐘が食堂に鳴り響く。