第六話 水曜②
放課後になり、予想外だった三日連続のチョコドーナツの誘いを断り、一人駅に向かった。
こうも連日、ドーナツの誘いがあるのもおかしいなと思った俺は、もしや、俺が一緒じゃないから、みんな行っていないのかと思い聞いてみると、そうではなく、三月末頃に開店したばかりの新しいドーナツ屋で、ドーナツもドリンクも美味しく、値段も安いので入り浸っているようだった。
ちなみに次の日曜まで百円セール中らしい。
最寄の駅に着いた俺は、いつもとは逆方向の電車に乗り、市の中心の駅を目指した。学校から自転車で十分程の距離にあるその駅は、駅ビル内に、映画館やレストラン街、フードコートに服屋も入っていて、学生のデートの定番スポットの一つだ。もちろん本屋も入っている。ちなみに本屋は二店舗入っていて、一つは大型店舗、もう一つは中型店舗になっている。
市内でも大きな本屋に入った俺は、お目当ての本、県の情報誌を探した。
「えっと······今は五月だから、五月号、五月号っと······って、違う違う。買うのは六月号だな」
情報誌コーナーを探すと、直ぐにお目当ての本が見つかった。二段に山積みになっているが、右側の段の一番上の本だけが桜の絵が書かれた先月号だった。
俺はその横のパフェとそれを食べる女性の映し出された今月号を手に取りレジに向かった。
「あの、すいません」
レジの女性に話しかける。
「はい?」
「これの先月号の本が置かれていたんですけど、あれって取り忘れですか?」
「まだ残っていましたか? 申し訳ございません、直ぐに下げますね」
店員は焦った感じで謝った。
「あっ、はい」
会計を済ませた俺は店を出る事なく、バックに買った本をしまい、店内を歩いた。
「確か······情報誌コーナーの近くの棚······に······あった、あった」
勝は予知夢の可能性が一割と言ったが、本当にそうなんだろうか?
今日発売の情報誌の表紙を俺は知っていたし、先月号が残っている事も知っていた。店員と話してみたところ、それは不手際らしく、普通ではあり得ないと言った感じだった。
やっぱり夢で未来を見ているとしか考えられなかった。
そこで俺は、夢の中ではパラパラと捲る事しかしなかった、ESP の本をじっくりと読むことにした。ちなみに立ち読みでだ。裏を見てみると、やはり値段は税別千五百円。九千円強しか持っていない俺には買いにくい値段だった。
ESP とは超感覚的知覚と言う超能力のようだ。
日本では千里眼の山村千鶴子と言う人が有名らしい。海外では専門の研究機関もあり、存在が認められつつあるものらしい。
目次に戻り予知夢に関連するものは何かないかと探してみると、予知夢の項目があった。予知夢とは解釈次第で当たったと感じるものではなく、細部まで一致したものを言うらしい。
予知夢の記事を見ていく中で、気になった話があった。
それは友人数人とテーブルを囲んだ時に、とある人物が顔を蒼白にさせ、この集まりを昨夜夢で見たと語り、詳しく話を聞いてみると、その夢の中の出席人物も服装も場所も夢と一致していたらしい。
俺のケースと似ていた。同様のケースがあるとなると、俺に起きている非日常的異常も予知夢なんだろうと思ったが、予知夢に対して否定的な意見も書かれていた。
予知夢はただの記憶の保管であり、夢で見た内容をアバウトに覚えていて、後で思い起こした時、事実に合わせて、夢を変換させているといいものだ。
人間は夢を見た際に細部まで覚えている事は不可能らしい。特に服の色や、会話の細部まで夢で見て、起きた後も覚えている事は不可能のようだ。
「······つまり······予知夢はないのか?」
どっちなんだろうと思い、次のページを捲ると、予知夢の面白い仮説が書いてあった。
それは多次元世界型予知夢。
この文字を読むだけでは意味は分かりにくいが、簡単に言うと、タイムマシーンがあれば過去に戻り現実に起きた事を夢で見るから、予知夢が当たると言うものだ。
確かにこれなら予知夢が外れる事はないと思ったが、タイムマシーンなど、予知夢以上の空想の産物だから、この仮説はあり得ないな。
その次の項目を見て、俺は息を飲んだ。そこには、予知夢とは、天啓や神示と言った、神が人間に出すお告げや、警告ではないかと言うものだ。
もちろん俺の見た夢が、神が送ったものだとは思えないが、警告と言う文字には目を奪われた。夢で俺はスクーターに轢かれるや金を巻き上げられるといった災難から逃れる方法を教えて貰えた。これは警告以外の何物でもない。何かに気を付けろと言っているのだろうか?
そう考えると今日の予知夢は何だったんだろう?
先月号に注意しろか?
誰が何のためにそんな警告を送るんだろうか?
その後も予知夢について調べていると、ポケットの中で携帯が鳴った。くるりちゃんは部活中だから誰からだろうかと思い開いてみると、母さんからのメールだった。
『危ない事件があったんだから、暗くなる前に帰ってきなさい。あと、途中で醤油を買ってきて』
心配しているのか、買い物をする人が欲しいのか······。
俺は、『了解。今買って帰る』と、返信し、本を棚に戻し店を出た。