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FIVE MINUTES ~予知夢な五分間~  作者: 也麻田麻也
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第五話 水曜①

 水曜日


 市内でも大きな本屋に入った俺は、お目当ての本、県の情報誌を探した。


「えっと······今は五月だから、五月号、五月号っと······」

 情報誌コーナーを探すと、直ぐにお目当ての本が見つかった。桜の木が表紙にでかでかと乗っていたので目立っていた。


「おっ、思ったより安いな」

 本を手に取った俺はレジに向かおうとした時に、ある本のタイトルが目に飛び込んだ。


 ESP について書かれた本だった。


 パラパラと目を通すと、予知夢について書かれた項目が見つかった。読んでみると、中身は難しい内容だったが、それでも分かった事があった。


 予知夢とは、天啓や神示と言った、神が人間に出すお告げや、警告でもあると言う事だ。


 もちろん俺の見た夢が、神が送ったものだとは思えないが、警告という文字には目を奪われた。この夢で俺はスクーターに轢かれるや、金を巻き上げられるといった災難から逃げる方法を教えて貰えた。


 これは警告以外の何物でもない。


 この本はためになると思い、買おうかと値段を見てみた。すると、値段は千五百円。財産が一万弱の俺は、この本を買う事を諦め、情報誌だけをレジに持って行き、会計を済ませ、駅に向かった。


 電車の時間までまだありそうだったので立ち読みでもしようと思い、コンビニに立ち寄った。


 するとそこで、買った情報誌が置かれているのが目に留まった。ただ、置いてある情報誌は、表紙にジャンボパフェとそれを食べる女性が乗っていて、六月号と書かれていた。


「······嘘だろ?」

 なぜあの店には先月号が置いてあったんだろう。


 そして······五月に発売は六月号だったのか。この事実が俺に耐えがたいショックを与えた。これって取り替えてとお願いすれば、取り替えてくれそうだが、間違って買ったんだと思われるよな······それは恥ずかしいな。


 まさかの先月号というショックで、目の前は白い靄が掛かったかのように真っ白になり、辺りの音も消え去った。


 そして、遠くから、ジリリリリと、アラームの音が聞こえてきた。


 俺は目を覚まし、携帯に手を伸ばしアラームを止め、時刻を見た。携帯には七時十五分と出ていた。よし、今日は遅刻をしないで済みそうだな。


 予知夢の内容も、くだらない失敗だった事と、早起きする事が出来た安心感が、俺に心地よい眠気をもたらせ······俺は二度寝した。


「······之······貴之!······起きなさい!」


「······うぅん······煩いなぁ······今日は早起きした······って、二度寝してた! ヤバイ! ヤバイ! 三日連続遅刻はヤバイ!」


 俺は布団から飛び起きた。急いで着替えようと、ジャージの上を脱いだ時に、母さんの雷が落ちた。


「三日連続で遅刻って、昨日はともかく、一昨日も遅刻したの!」


「えっ、あの······乗り遅れてしまいまして······」

 母さんのあまりの剣幕の前、親だと言うのに敬語を使ってしまった。

 人間、防衛反応が働くと下手に出るものだ。


「まったく。月曜のために日曜の夜は、母さん好きな深夜のドラマを我慢して寝たと言うのに、遅刻するだなんて、本当にあんたにはがっかりだよ」


「······じゃあさ、一昨日の深夜ドラマは見たんだね······」


「そりゃあ······録り溜めたドラマを見た後に見てから寝たわよ······」

 じゃあ、昨日の寝過ごした理由は深夜ドラマを見たせいじゃないか。その事実に俺もがっかりだよ。


「······って、そんな場合じゃないだろ。遅刻、遅刻!」

 慌ててジャージの下を脱ぎだすと、母さんが口を開いた。


「今日はまだ時間大丈夫よ」


「えっ?」

 俺はまた携帯に手を伸ばし時間を見ると、七時二十分だった。今から髪のセットをしても十分電車には間に合う時間だった。


「なんだよ。慌てて起こしに来たから、何事かと思ったよ」


「何事かって、何事が起きたのよ。ほら、新聞を見なさい」

 俺はその時、母さんが新聞を握っている事に気づいた。


「新聞? 何か面白いテレビやるの? それかもしかして、母さんの好きな深夜の韓国ドラマが終わるとか?」


「それならもっと慌てているわよ。テレビ欄じゃなく、一面を見なさい」

 新聞を受け取り、一面に目を通すと、そこには、『通り魔殺人五件目か。今度は二十二才男子大学生が襲われた』と書かれていた。


「へぇー。また通り魔があったんだ」


「あったんだじゃ無くて、事件が起きた場所見なさいよ。ほら、幸島駅からも近い高校の側で起きたのよ。この学校って、あんたの彼女のくるくるちゃんとか言う子が通っている学校の事でしょ?」


「くるくるじゃなくてくるりちゃんね」

 母さんを見ずに答え、俺は新聞を読み住所を見た。

「うん。ここってくるりちゃんの学校の側だね······しかも七時頃って、ちょうど彼女の下校時間じゃん。俺メールして聞いてみるわ」


「そうね。もし一人で帰るようだったら、親御さんに迎えに来てもらうようにお願いしなさいよ」


「ああ、言っておくよ。もしダメだったら、今日から俺が送り迎えするわ」


「······あんただって危ないんだから、下手な正義感出すんじゃないよ。もし、送り迎えがないんだったら、母さん迎えに行くから、連絡してね」


「その時は頼むよ」

 携帯を開き、くるりちゃんからメールが来る前に、おはようのメールを送った。


『くるりちゃんおはよう。新聞で見たんだけど、学校の近くで通り魔事件があったんでしょ? 今日の下校危なくないかな? もし親を呼べなくて一人で帰るようなら、俺迎えに行くけど、どうする?』


「今送ったよ。とりあえず返信来るまでの間に準備しちゃうから、トースト焼いて貰ってもいい?」


「何枚焼く?」


「時間もなくなりそうだから、一枚で良いよ」


「じゃあ今から焼くから、温かいうちに食べられるように、準備急ぐのよ」


「了解」

 制服に着替え洗面所に行き、ワックスで髪を整え始めると、携帯から軽快な音楽が流れた。セットの途中だが、一度手を水洗いし、携帯を開いた。


『貴くんおはよー。そうそう、昨日くるり達が帰る頃あったみたいなんだ。それで今日は友達のナズナちゃんのママの車でくるりとセリちゃんは送り迎えしてもらうんだ。貴くんに会いたいから迎えに来て欲しいけど、危ないから今日は大丈夫だよ。えへへ。貴くんに心配してもらって嬉しいな』


 その文面を読んでほっとした。とりあえず送り迎えはして貰えるなら安全だろう。

 ちなみにメールにあった友達のセリちゃんとナズナちゃんは同じ吹奏楽部の友人らしい。そして先輩には鈴城すず奈という人がいるようだ。


 春の七草のセリ、ナズナ、スズナ、スズシロが揃っていたので、もしやゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザもいるんじゃないかと聞いた事があったが、さすがにいないらしい。ゴギョウはともかく、ハコベラとホトケノザは名前や名字でもまずいないか。


『送り迎えあるなら安心だね。でも、明日、明後日はどうする?』

 メールを返し、髪のセットを続け、セットが完了した頃に返信があった。


『うーん。明日、明後日は遅くなる前に帰れれば大丈夫だよ。ほら、事件は全部暗い時に起きているしね』


 俺は通り魔のニュースをちゃんと見ていなかったので知らなかったが、事件は全て日が落ちてから起きているようだ。


『じゃあ、明るいうちにくるりちゃんを家の側まで送るね』

 洗面所の椅子に座りながらメールを打っていると、母さんの怒号が飛んできた。


「もう三十五分過ぎたよ! さっさとパン食べなさい!」


「今行くよ!」

 返事をし、パンをかじると、ちょうど通り魔のニュースがやっていた。


「通り魔事件が五件も起きるって、今までなかったよね」


「そうね。母さんもこの街に来てながいけれど、こんな事件は初めてね」


「父さんも心配しているかな?」


「今朝も早くに電話はあったわよ。単身赴任先の部屋から慌てて貴之は大丈夫かって電話がね」

 俺の父さんは隣県に単身赴任している。ちなみに父さんは俺と違い朝に強いらしく、起きたら毎朝母さんにモーニングコールをしている。


 その電話で母さんが起きだし、俺を起こすという流れになっている。成田家ではこれを目覚ましと呼んでいる。


 多分昨日は、モーニングコールを受けた母さんが寝ぼけて受けて、二度寝したために、この目覚ましのラインが途切れたんだろう。父さんがモーニングコールしないはずないので、目覚ましが鳴らなかったと言うのは、母さんが電話を寝ぼけて受けたため覚えていなかったせいだな。

 まあ、それに腹を立ててもしょうがないか。だって、自力で起きろと言われたらそれまでだしな。


 ニュースを見ながら麦茶を啜っていると、テレビの右端の時刻表示を見て血の気が引いた!七時四十五分。ゆっくり眺めている時間など、どこにもなかった。俺は慌ててお気に入りのフェイクレザーのバックを背負い、家を飛び出した。


 そして、いつも通りの遅刻になる電車に乗り、学校に向かった。さすがに三日連続遅刻だと、片岡ちゃんも怒り半分、諦め半分な眼差しで俺を見てきた。

「どうすれば成田君は遅刻しないで済むのかしら?」


「······早寝早起きを心がけるとかですかね」


「それが分かっているのに遅刻するって······本当に留年しちゃうよ」

 友達からではなく、教師から言われる留年という言葉は妙にリアリティが感じられた。


 あれ? 俺、来年も二年生なのか? 三年生になった自分が想像できないぞ?


 一時間目の休み時間に職員室で遅刻届けを出し、やっと自由にできる二時間目の休み時間に勝に今朝見た夢の話をした。


「なあ、予知夢の話なんだけどさ」

 高校二年生がするような話じゃなかったので、声を潜め言った。


「また見たのか?」

 勝は椅子に反対に座り、俺の机に肘を着き、頬杖をあて聞き返した。


「ああ。ただ、なんか今日見た内容が異質なんだよ」


「どんな内容だったんだ?」


「それがさ、駅の本屋に入って情報誌を買って隣のコンビニに入ったら、買った情報誌が先月号だったって夢なんだよ。なんか、今までと経路が違うから、これは予知夢なのか、ただの夢か分からなくてさ」

 説明が悪かったのか、内容がくだらないせいか、勝は口をポカーンと半開きに開けた。


「······それだけか?」


「ああ。それだけだな」


「······予知夢かどうかは分からんが、お前はそれで困るか? そもそも今日、情報誌を買いに行く予定はあるのか?」


「それは困るな。ほら、土曜にくるりちゃんとデートだから、映画なり、飯食う所探すなりしようと思ってたから、先月号だと困る。あと、明日その本持って映画何見ようか話そうと思っていたから、今日辺り買いに行こうとは考えていたな」


「そうか。じゃあ取り合えず······買い間違えないように気を付けろよ」


「······だな」

 今回の事故と言うか、ハプニングの対処法は買い間違えないようにするしかなかった。


「やっぱりこれって予知夢じゃないのかな? 昨日の高崎先輩の件だって、もしかしたらどこかで骸骨のピアスを付けているのを見ていたかも知れないし、今、夢の映像を思い出してみるとさ、スクーターの女の顔をさ、どこかで見た事があるような気がするんだよな」


「······それは、一昨日の朝以外でって事か?」


「ああ。どこか思い出せないんだけどさ。その女、化粧が濃いんだけど、あの化粧の濃い顔を見た気がするんだよ······」


「······なるほどな。例えば貴之は通学路って変えたりするか?」


 通学路を変えると言う事は、遅刻ギリギリに電車に乗り込む俺としては、命取りになる愚作だ。今は最短のルートを疾走している。


「変えた事ないな」


「そのスクーター女はスーツ姿だったんだろ? それなら仕事に向かう道なんだよ。通学路同様、職場までの道もそうは変えないだろうな。きっとこれ迄にもその道で会っていたんだよ。人間なんて興味のない物事は脳に刻まれないものだし、お前がただ覚えていないだけなのかもな」


「じゃあ、やっぱり予知夢じゃないのかな?」


「今の話を聞くと、予知夢一割、偶然九割って感じじゃないか?」

 その言葉にほっとしたような気持ち半分、残念なような気持ち半分で、俺は、「そっか」と呟いた。


 すると、その言葉を合図にするかのように予鈴が鳴った。


 三時間目は化学だったな。机の中の教科書の山の中から化学の教科書を引っ張りだし、授業を受ける準備を進めた。

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