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FIVE MINUTES ~予知夢な五分間~  作者: 也麻田麻也
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第四話 火曜②

「······くるぞ」

 そう言うと、割れた人混みの中から、金髪のロン毛を後ろで結んだヤンキーの先輩、高崎先輩が出てきた。


 やはり右耳にはゴツい骸骨のピアスを付けていた。高崎先輩は金魚の糞を数人引き連れて、購買部から出てこようとする、俺の肩に肩をぶつけてきた。


 その時俺はしまったと思った。ここで肩をぶつけるのが分かっているんなら、入り口から離れていれば良かったんだと。しかし時すでに遅く、高崎先輩は肩を押さえると、俺にガンを飛ばしてきた。


「痛ってえなコラ! 誰だぶつかったのは!」


 ドスの効いた声で言ってきたので、俺は素直に、「すいません」と、謝った。


「すいませんって、お前、謝って済むと思ってんのか? こっちは肩が折れてっかも知れねえんだぞ。とりあえず裏来いや」


 俺の耳元に顔を近づけて言うと、折れたと言った腕で肩を組み、裏に連れていこうとぐいぐい引っ張り出した。

 そんな俺と先輩を他から隠すように取り巻きが囲み出すと、勝がその取り巻きを押し退け、先輩の腕を掴んだ。


「······なんだコラ? てめえも一緒に肩の治療費を払ってくれるって言うのか?」

 先輩はガンを飛ばし、ドスの効いた声で言ってきた。


「治療費って、先輩、腕折れたんですよね? それなら治療費は保険適応の値段で考えますか? それとも、保険なしで、更に完治するまでの入院通院費込みで考えた方が良いですかね? あっ、もしかして後遺症も出るかもしれないですし、更にわざと怪我和させた可能性もありますよね。どうしますか? ここは一、二万では話にならないかもしれないですよね。やっぱり後遺症の恐怖もあるので、心的外傷も同時に請求して、大体······四百万くらい請求しますか? あっ、それだと安いですか? 貴之、お前のやった事は五百万以上の大事だぞ。それを謝って済まそうなんて、図々しすぎて先輩も困ってんだろ。さっさと救急車呼ぶ位しろよ。ねっ先輩?」


 勝は一息で言うと、先輩に目配せした。

 俺はこの展開になる事を予測していたが、先輩達は圧倒されたようで、頭の上に、三点リーダーを四つは出していた。御愁傷様です。


「おい、貴之。お前まだ携帯出していないのか? ああ、そうか、怪我をさせた事で気が動転しているんだな。じゃあ代わりに俺が電話するよ。ああ、そうだ、救急車呼んだら、先輩の親御さんも呼ばないといけないですよね。入院ってなったら先輩の親御さんの許可も必要ですし、折れているなら麻酔も必要かもしれないですよね。麻酔なら同意書に印鑑を押す事になりますけど、先輩は印鑑なんて持ち歩いてないですよね? あっ、同意書は先輩が書く事も可能でしたね。その時はサインだけで良いんでしたっけ? あっ、でも先輩は右肩を折ったようなので、ペンでサインする事が出来ないかも知れないですね。あっ、すいません。日本人の九割が右利きなんで、勝手に先輩も右利きと考えていましたけれど、左利きだったら申し訳ないですゆに。先輩の利き手はどちらですか?」


 質問をする事によって、勝のマシンガンのようなトークが止まった。


「······あっ······右だけど······」


「右利きですか。ああ、だから、先輩右耳にピアスを開けているんですね。もし先輩が耳鼻科等でピアスの穴を開けたんじゃなく、自分で開けたとしたら、もしかしてビビっていたんですかね? 利き腕の近くの耳に穴を開けた場合、恐怖心を持って開ける人が多いようなんですよ。利き腕から離れた耳に穴を開けるのは、恐怖心が大きいみたいなんですよ。やっぱり、穴を開けるのはビビったんですか?」

 また質問をすると、今度は返事を待つ事無く、またマシンガンの引き金を引いた。

「ああ、そうか、勝手に先輩がビビったなんて言ってしまいまして申し訳ないですね。右耳に一つのピアス穴を開けるのは、ゲイの証拠ですもんね」


 朗らかな笑みを浮かべたまま、勝は言った。先輩はその事を知らなかったのか、「嘘?」と言い、右手でピアスを隠した。


「あれ? 先輩? 右肩折れているはずなのに、良く腕上がりましたね。いやー。僕今から救急車呼んで症状の説明するつもりだったんですけど、これは折れたかどうか判断が難しくなりましたね。さすがに救急隊員に誤った報告をするのはマズイですから、先輩の右肩の症状を教えて貰っても良いですか? 左肩と比べて痛いですか? 痛くないんですか?」


「······痛いに決まってんだろうが! てめえふざけてんのか!」

 勝のマシンガントークに先輩はついに怒りを露にした。


 あぁあ、怒ったら勝の掌の上だな。


「やっぱり痛いですか。左肩よりも右肩が······あれっ? ああ、先輩すいません、貴之とぶつかったのは左肩でしたね。いやー。僕も友達が怪我をさせたと思って、焦って右と左を間違ってしまいましたね。あれ? じゃあなんでぶつかった肩よりも、ぶつかってない肩の方が痛いなんて不思議な事が起きたんですかね? ああ、僕は救急隊員になんて言ったら良いんですね? 悩みますね」


 勝に論破された先輩は口を大きく開けて固まった。そんな先輩に金魚の糞が耳打ちする。


「高崎君、あいつ二年の笹井っすよ。こないだ絡んだ他校のヤンキーを口だけで再起不能にした男っす」


「······笹井って、マジかよ。どうすんだよ。引くか?」


 先輩は金魚の糞とこそこそ話すが馬鹿なのか、その声は俺達の耳まで届いていた。勝は畳み込むタイミングだと感じたのか、また口を開いた。


「いやー。それにしても骸骨のピアスはカッコいいですね。でも骸骨って元は亡くなった部族の魂を沈めるために身に付けたやつですよね? 先輩も誰か亡くしたんですか? しかも耳に付けるって事は、死者との交信をするために付ける場所ですよね。先輩も誰かと交信しているんですか? そういえばフーディーニも死者との交信のために耳に霊体と交信するための装置を付けましたもんね。でも先輩みたいに、スカルモチーフを付ければ、フーディーニもきっと死者との交信が出来たのに残念ですね。先輩ここは煩いと思うんですけど、耳を澄ませて貰っても良いですか? ほら······何か聴こえないですか?」


「······うわあああああああぁぁぁぁぁっ!」

 最後はしっかり溜めて言うと、先輩は顔面蒼白になり、叫び声をあげて走り去って行った。金魚の糞もその後を追い走り去る。


「······お疲れ。高崎先輩に何があったの?」


「ああ、耳を押さえた状態で、耳を澄ましたから血流の音が聞こえたんだろ。その前にフーディーニの名前も出し、骸骨のピアスの嘘を話したから、幽霊の囁きにでも聴こえたんじゃないか?」


「嘘だったのかよ」


「右耳にピアスを付けるのがゲイだってやつ以外は、嘘八百だな······って、おい、早く飯買わないと、彩ちゃん待たせる事になるじゃん! 急いで買おうぜ!」


「おっ······おお······じゃあパン買っちゃうわ」


 あそこまで言い切って、真実が右耳のピアスはゲイだけって、やっぱこいつは怖いなと俺は心底思った。


 笑顔で嘘をつける人間は怖い。俺はそう思いつつも言われた通り、購買部での買い物を進めた。


 飲み物を買ってきた勝と合流して、俺達は教室に戻ることにした。階段を昇りながら、俺はふと疑問を口にした。


「そういやさ、今日高崎先輩に絡まれる夢を見たけどさ、勝があしらってくれなかったら、多分金を取られていたと思うんだよな。やっぱり、俺の見た夢は予知夢なのかな?」


「今日さ、高崎先輩骸骨のピアスを付けていたじゃん。貴之はその事も夢で見たか?」


「······ああ。夢の中でも骸骨のピアス付けていたな」


「······あれさ、多分付けたばかりだと思うぞ。今までは赤いピアスだったじゃん。昨日購買部で見た時も赤いピアスだったから、お前の夢が予知夢の可能性は高いかもななあ、昨日はスクーターで事故ったって言ったけどさ、もしそれより酷い予知夢を見たら教えろよ。お前が巻き込んでくれたら俺がなんとかしてやるからよ」


「おう。そん時今日の先輩の時みたいに頼むわ」

 俺は少し照れ臭くて笑った。

 青臭い友情だけど、こんな非常識的な事態に見舞われていると言うのに、力になってくれると言った勝の言葉が嬉しかった。


 だから俺はその時に、スクーターに轢かれるより酷い事という言葉を特に気にせずに流せた。いや、気にせずに流してしまったのかもしれない。


 俺達が教室に戻ると、彩ちゃんが気だるそうな感じでこっちを見てきた。

「勝ちゃん遅いよー。どこまで買いに行っていたんだよ」


「彩ちゃんごめん。だって貴之が高崎先輩に絡まれたから、話し合っていたら時間くっちゃったんだよ。はい。これ、檸檬ティだよ」

 彩ちゃんは紅茶を受け取ると、俺の方をちらりと見た。


「······友達助けるのは良い事だけど、あんまり無茶しないでね。貴之君も勝ちゃんを巻き込まないようにね」


「······うん。今日は俺の不注意で巻き込んじゃって、本当に悪かったと思うよ。ゴメン」


「分かれば良いよ。勝ちゃんを巻き込んで、私まで巻き込まれるのは面倒だしね」


 巻き込んで貰いたくない理由が、時分まで巻き込まれたら面倒だから。彩ちゃんらしいなと俺は思った。


「ねえ、別にどうでも良いけど、貴之は怪我とかしてないの?」

 杏奈が聞いてきた。


「俺? こいつがいつものマシンガントークで追い払ったから、無傷で済んだよ。傷ついたのは高崎先輩の心じゃないか?」

 致命傷かもな。


「そう」

 杏奈はそう答えると、もう俺との話は無いと言った感じで、背を向けてきた。俺もこれ以上喋る事はないと思い、杏奈に背を向けて、パンにかじり付いた。


 購買部のパンは、俺が毎朝食べているジャムを付けただけの冷めたトーストよりずっと美味しかった。


 放課後、二日連続のチョコレートドーナツの誘いを断り、俺は家路に就いた。

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