第二十一話 土曜 捌
映画は呼んだ漫画本の通りの内容だった。
人気若手俳優とアイドルの見た目は、漫画の登場人物によく似ていて、感情移入ができて面白い作品と言えた。
中盤になると、主人公アサヒが風前を追い掛け助け道路に出た子を助け車に轢かれ、半身麻痺になった。
それでもミクは必死にアサヒの看病を続ける。
卒業式の日、クラスメイトと手作りの結婚式を開き、二人は誓いのキスをした。
これが二人のファーストキスだ。
そこで隣のくるりちゃんが涙を流した。
俺はその涙をそっと指先で拭う。
「くるりここ凄い好き」
「俺もだよ」
顔を近づけ囁くと、くるりちゃんがゆっくりと唇を近づけてきた。
今日、公開初日の映画で、場内は満員に近かったが、俺達は周りの目も気にせずキスをした。
映画のようにファーストキスではないけれど、それでも俺は信じられないほど胸が高鳴った。
ああ、やっぱり俺にはこの子しかいない。
そう、思えた。
隣で自然体でいれる杏奈。
俺の心に温かさを与えてくれるくるりちゃん。
どちらがいいかなんて、甲乙つけられないけれど、俺はこの子を離したくない。
唇の温かさを感じながらそう思った。
映画は佳境に近づき、アサヒの外出許可が降り、車椅子でミクとデートをする事になった。
テラスで一緒にお茶を飲み、昔に戻ったようだとアサヒは言い、そこで二人はまたキスをする。
ミクが嬉しくて涙を流し、化粧が崩れたから直してくると席を外す。
アサヒがミクを待っていると、向かいの道路から風船を追って走る子供に気づいた。
アサヒは自分が事故にあった時のデジャヴのような光景に戦慄するが、子供を助けるために、必死に車椅子を走らせ······轢かれる。
シーンは移り集中治療室に。
自分が外に連れ出したからこうなったと泣き叫ぶミクに、アサヒは弱々しいが、優しい笑みを向ける。
アサヒは最後に『本当の結婚式を挙げてやれなくてゴメン』と言い息を引き取る。
それからミクは毎日早起きし、朝日が昇るのを見て涙を流しながらも、懸命に笑みを作り、『おはよう······アサヒ』と言う。
本当に最後死んだよ。
これはバットエンドなんではないかと思ったが、劇場中から涙をすする声が聞こえた。
俺の隣でもくるりちゃんが号泣だった。
「スッゴい良い。だってアサヒ死んでもミクの中でずっと生き続けているんだよ。くるりこれ凄い好きなの」
なるほど、毎朝朝日におはようと言うのは自分の中でアサヒが生きているから言っているのか。
俺はやっと納得した。
「俺も好きだよ」
と、答えたえると、くるりちゃんはバックからハンカチを取り出し、目を押さえながら泣き続けた。
劇場が明るくなると、くるりちゃんの目が真っ赤に充血しているのが分かった。
「面白かったね。えへへ。くるりの目、パンダになっていないかな?」
「うーん、ちょっとだけマスカラが落ちているかな」
しっかり動物園の人気者、パンダになっていたが、俺は控えめに言ってみる。
これがデリカシーと言うものだろう。
「うー。貴くんに変な顔見せちゃったー。うー。化粧直してくるね」
くるりちゃんは恥ずかしいようで、ハンカチで顔を隠した。確かにマスカラが落ち、目の回りが黒くなってはいるが、それでもくるりちゃんは可愛かった。
目もくりくりで大きく、マスカラなんか必要ないように思えた。
「じゃあ、俺はパンフレットでも買って待っているよ」
「うん。ちょっと行ってくるね」
くるりちゃんを見送り、パンフレットを買う行列に並んだ。俺と同じようにカップルの女の方がメイク直しに行っているようで、列には男ばかりだった。
俺の番が来る頃にはくるりちゃんが戻って来ていた。
パンフレットを買い、一緒にどこかで見ようかと俺は話しかけた。
「どこで見る?」
「うーん。カフェとかも良いけど、くるり、貴くんとくっついて見たいな。えへへ」
ああ、マジ天使。
俺はどこが良いか考え、少し歩くが近くの公園はどうか聞いた。
「うん。公園行こう。夕方だったら空いているかもだし、いっぱいくっつけるね」
「じゃあ、行こうか」
俺はくるりちゃんの手を取った。
向かう間はくるりちゃんと映画の話をした。原作では映画よりも波乱が多かったようで、出来れば前後編にして欲しかったや、あのキスシーンはドキドキしたねと言う会話をしていると、くるりちゃんは、「あっ」っと言って、バックから携帯を取り出した。
「映画館でずっと電源消していたから、お母さんに帰り遅くなるって連絡し忘れてた」
「そういえば俺も電源つけ忘れてたな」
くるりちゃんは映画のパンフを左手に持ち替え、右手だけで電源をつけると、また、「あっ」っと驚いた声をあげた。
俺は携帯の電源をいれようとした手を止め、くるりちゃんを見る。
「どうしたの?」
「これ! 通り魔捕まったんだって! 良かったー。わっ、顔写真も出てるよ」
この展開は予知夢······らしきもので見た内容と一緒だった。俺が画面を覗き込むと、目つきの鋭いキツい顔つきの女······ドーナツ屋で捕まった女が写し出されていた。
「美人さんだけど恐い顔だね。でも、ちょっと杏奈ちゃんに似ているかな?」
勝と同じ感想をくるりちゃんも言った。
二人が言うんだから似ているのかも知れないな。杏奈は笑わない印象が強いから、怖く見えるのかな?
「確かにそうだね。でも、通り魔が捕まって良かったよ。帰りもこれで安心して帰れるね」
「うん。これで今日遅くなっても安心だね。えへへ。お母さんに遅くなるって言わないとだ」
「じゃあ、どうする? 公園で少し話したら、その後夕飯でも食べに行く?」
「うーん。じゃあ、お母さんがまだ夕飯の準備していなかったら、貴くんと食べようかな」
「了解。っと、公園見えてきたね。まず入っちゃおうか」
「うん」
駅近くのこの公園は、近所にあるようなジャングルジムやブランコがあるだけの小さな公園ではなく、敷地面積が広く、木製の少しコジャレたベンチが幾つも並び、その前には噴水が設置され、園内を囲むように植えられた花壇が人気のデートスポットだ。
しかし、五時半過ぎの今は人気もなく、二人でくっつきながら映画の話をするには持ってこいの場所になっていた。
「ベンチもあるし、あそこに座ろうか」
「あっ、じゃあくるりちょっとお母さんに電話するね。あっ······あと、お手洗いに行ってきても良いかな?」
「大丈夫だよ。じゃあ、俺座って待ってるね」
「うん。待っていてね。戻ったら貴くんといっぱいぎゅーする」
そう語ったくるりちゃんの笑みは、天使の笑みとしか表現できないほど輝き、純真無垢といって良いほど澄んだ瞳と合間って、心の底から癒しを与えてくれた。
トイレに向かい歩いていくくるりちゃんの背中に俺は手を振った。
さてと、今朝の顔色の事で心配しているかもしれないし、俺も親に連絡しておこうかな。
携帯をまた取り出し、電源を入れた。
起動の画面が表示され、暫くすると見慣れた待受画面が表示されたが、その中の見慣れぬ表記が目に留まった。
「······なんだよこれ?」




