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FIVE MINUTES ~予知夢な五分間~  作者: 也麻田麻也
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第二十話 土曜 死地

 俺は恐ろしさで今にも逃げ出したかったが、女性はハートが強いのか、くるりちゃんはどんどん近づいてきた。


「······」


 ロングスカートにフリルのついた白シャツを合わせた服装はくるりちゃんに似合っていて、いつもなら駆け寄って、『可愛いね』と言う所なんだが、今日は事情が事情なんで、電話を耳に当てたまま固まっていると、くるりちゃんは俺達の前まで来た。通話を終了させ、小さなバックに携帯をしまった。


「貴くんお待たせ。杏奈ちゃんも久しぶり」


「······」

 固まる俺。


「お久し振りね。中学を卒業して以来かしら? お話しするのはもっとずっと久しぶりな気がするね」


「くるりと杏奈ちゃんは一緒のクラスって一度もないもんね。それで今日は······どうしてここにいるの?」


 平然と地雷原を渡って来るくるりちゃん。

 

 これは天然がなせる業なのか? 


 それとも女性のハートの強さがなせる業なのか?


「土日にやっている郵便局はここだけでしょ。親に頼まれて速達だしに来たら、そこで成田君に会ったのよ。成田君も大変ね。単身赴任のお父さんに大荷物送るなんて。あれって着替えでも入っていたの?」


 女って凄い! 


 こんな短時間で完璧な言い訳に、俺への回答への道筋を作り出すなんて。

 勝、お前、嘘のスキルで杏奈に負けているかもしれないぞ。


「夏服と家に溜まった父さんの雑誌をまとめて送ったんだよ。母さんが高速バスに乗った後に持って行くの忘れたの気づいて、郵送しろって言われてさ。そうしたら、そこで佐倉に会ったんだよ」


 俺を成田君と言った杏奈に合わせ、俺は佐倉と呼んだが、ちょっと浮気の工作をしているようで心苦しかった。


 ごめん、くるりちゃん。


「特に話をする必要もなかったんだけど、昨日休んだでしょ。月曜に歴史の授業で小テストやるって成田君知らないから、かわいそうだと思って教えてあげたのよ」


 杏奈は営業スマイルのような笑顔で言った。


 いや、実際にドーナツ屋でバイトしているんだし、本当の営業スマイルなのかもしれない。


「そうだったんだ。くるり貴くんと杏奈ちゃん会っているの見てビックリしちゃった」


「浮気の心配でもしたの? 安心して良いわ。少し話している間にも、のろけ話されて、私は辟易していたくらいですからね」


「のろけ話していたの?」

 くるりちゃんは恥ずかしいような嬉しいような、二つの感情が入り交じった真っ赤な顔で俺を見てきた。


「のろけ話って言うか······今からくるりちゃんと映画館デートだって話をしていたくらいだよ」


「あら、それに大好きなってつけていたでしょ」

 その言葉でくるりちゃんはまた顔を赤く染めた。

 杏奈はそんなくるりちゃんと俺の顔を交互に見る。

「夫婦喧嘩は犬も食わないって言うけれど、のろけ話なら猫も食べそうにないわね。それじゃあ、授業の事も言ったし、私は行くわね」


 杏奈は修羅場になるはずだった場を収めると、背を向け自転車を押した。


「ありがとうな。助かったよ」


 くるりちゃんにはテスト範囲を教えて貰えた事に対する感謝に聴こえるように、杏奈にはこの場を収めてくれたお礼と分かるように感謝の言葉を口にした。


「杏奈ちゃんまたね。今度はもっとお話ししようね」


 くるりちゃんは手を振った。背を向けた杏奈はその事に気づかず歩を進めたが、突然ピタッと足を止めた。


「桃原さんちょっといいかしら?」


「何?」

 背を向けたまま話す杏奈に、くるりちゃんは小首を傾げ聞き返した。


「······成田君はそんなんでも一応私の元恋人だったのよ。喧嘩別れしたとはいえ、今でもそれなりに大事な友人なの。だから······友人なりに幸せになって貰いたいとは思うわ。私の時のような下手な喧嘩別れなんかして彼を傷付けないであげてね。まあ、あなたならきっと大丈夫でしょうけど」


「······杏奈」


「······うん。絶対に傷付けない。くるりは貴くんの事スッゴい大事だから、絶対に絶対に喧嘩なんかせずに、二人で幸せになるね!」


「······その言葉を聞けて安心したわ」


「貴くんともずっとずっと一緒でいるもん。絶対幸せになるね!」


「くるりちゃん······凄い嬉しいよ」

 俺は素直な気持ちを口にした。


 俺にとって一番の女性はくるりちゃんなのか杏奈なのかはまだ決められないけれど、杏奈の中ではもしかしたら答えが出ているのかも知れない。


 きっとくるりちゃんを選ぶと思っているんだ。


 だから、幸せになってもらいたいと言ったんだろう。

 だから、背を向けて言ったんだ。

 顔を見せたくないから。


 泣いた顔は見せたくないから。


「······結局、のろけ話ね。それじゃあ、デートを楽しんできてね」

 さっきまで俺が座っていたサドルに杏奈は腰を下ろし、ペダルを漕ぎ始めた。


 自転車は少し揺れながら進んでいった。


「······杏奈ちゃんって中学の時、静かでクールな印象で、ちょっと恐い子だと思っていたんだけど、ほんとは優しい子なんだね」

 俺の手をそっと握ると、くるりちゃんは見上げながら聞いてきた。

「うん。何て言うんだろうな······中々本音を言えないやつではあるんだよな」


 本音を言えずに俺達は終わった。

 さっき杏奈は俺が成長したと言ったけれど、あいつも成長しているように思えた。


 俺達二人は、絆をより強くしてくれた杏奈の背を見つめた。


 決して離れないように強くてを握りしめながら、その姿が見えなくなるまで。


「さてと、昨日会えなかった分も、今日ははしゃごうか。くるりちゃん、お昼は食べた?」


「ううん。まだ食べてないの。貴くんは食べたかな?」


「俺もまだなんだ。映画まで時間あるし、お昼食べようか」


「うん。食べるー。えへへ、お昼一緒に食べれるだけで、くるりスッゴい嬉しいな」

 くるりちゃんは本当に可愛い子だ。

 たった数秒の会話で俺の心は、春の木漏れ日の下でうたた寝したように、ぽかぽかと暖かくなった。


 子供の手のように小さなくるりちゃんの手を握りながら、俺は駅に向かい歩き出した。


 映画館の入っているビルの中のフードコートで、俺達はパスタを食べた。

 くるりちゃんが明太子パスタかカルボナーラにするかで迷っていたので、俺はカルボナーラを頼み、くるりちゃんに明太子を頼んでもらい、半分こして食べた。


 くるりちゃんは笑顔で何度も『貴くんと一緒に食べると美味しいね』と言ってくれた。


 デザート代わりに、一つのクレープを買い、二人で食べた。

 小さな口いっぱいにクレープを頬張るくるりちゃんは本当に可愛かった。


 少し早めに映画館に向かい、中程の席を選び座った。映画が始まると空調が効いてきて少し肌寒く、くるりちゃんが俺の腕に抱きついてきた。


 他の迷惑にならないように俺の耳元で囁いた。

「貴くんの腕温かいな」


 温かいのは君の方だよ。俺はくるりちゃんの醸し出す心の温かさと、物理的な柔らかく温かい胸の感触を感じながら心の中で呟いた。

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