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異世界で勇者パーティの保護者やってます!  作者: 丘/丘野 優
第1章 プロローグ、始まりから第一の出会いまで
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第9話 ここはどこ、あなたは誰?

 気づいたときに、だだっ広い平原に一人ぽつねんと立っていた。

 あたりには何も見あたらない。

 ただ青々とした草原と、柔らかに頬を撫でる風が、ここが先ほどまでいた魔王城の存在する荒野とは別の場所なのだと言うことを教えていた。


「……どこよ、ここ」


 ついそんな風に独り言をつぶやいてしまったのも仕方がないことだと言える。

 だって本当に何もないのだ。

 こんな状態でいったい何をどうしろと言うのだろうと思う。


 けれど、"勇者"たちは言ったのだ。

 どんな場所でもいい、ただ生きていてほしい、と。

 そう私に願って、そしてあの勝ち目のありそうもない戦いへと向かったのだ。

 魔力だって、もう尽きたはずだ。

 私に対する転移魔法で、その魔力のほとんどすべてを出し切っただろうから。

 そして、なぜか私の魔力まで空っぽになっている。

 おそらく転移魔法の余波か何かなのだろう。


「ばか……」


 知らず、ぽたりと涙が落ちた。

 悲しいのだろうか。

 いや、それは少し違う気がする。

 そうではなく、悔しいのだ。

 一緒に戦えなかったことが。

 最後までそこにいられなかったことが。

 それが、彼らの望みなのだとわかってはいても、それでも私は悔しかった。

 だから、私は泣いた。

 ただひたすらに、彼らの無事を祈って。


 それからどれくらいの時間が経っただろう。

 私は自分の頬をぱん、と叩いて自らに気合いを入れた。


「生きて、いかなきゃ……」


 そうだ。

 もうこうなってしまった以上、私にできることはそれだけなのだ。

 そのことを、やっと受け入れられた。

 そうしなければ、転移させてくれた彼らに申し訳ないというのもある。


 もはや地球に戻ることは不可能かもしれないが、それでも私は生きていける。

 それだけの経験を、"勇者"たちは私に積ませてくれたのだから。


 その経験を、その技術を、その知識を、存分に使って、私は生きてやる。


 そう、思った。


 ◆◇◆◇◆


 とは言っても、流石に何もない平原で暮らしていけるほど私のお腹の燃費は良くない。

 少なくとも食べ物を何か確保する必要があった。

 当然、水も。


 魔力がほとんど回復していない以上、自前では今のところどうしようもない。それに使って倒れたのでは問題である。こわくて水確保程度のために魔法を使う気にならない。本当にまずくなったら使うしかないのだろうが、今はまだそのときではない。

 体力を回復するためには何か栄養を取らなければならないが……。


 ここがいったいどこなのか、どんな世界なのかすらもわからないが、こうして息ができている以上は、私に食べれるものも存在していると期待することは間違っていないはずだ。


 時空間転移魔法の主要開発者である大賢者だって言っていた。


『たとえば……そうですね、ユーリの故郷、地球へのピンポイントな転移、というのは未だに不可能です。それは、どこの座標に送ったらいいのか、全くわからないからですが……おおざっぱな指定、たとえば、現在の世界とそれほど変わりのない環境を、というのであればある程度指定することはできなくはないのです。細かく言うと、呼吸が可能とか魔力が存在するとか、そういうことですね。まぁ、実際に指定するときはもっと包括的にやってしまうのですが……そういう面倒な話はやめておきましょうか』


 などと。

 つまりその彼の作り上げた転移魔法によって私はここにいるのだから、少なくともここには私の生きていけるのに十分な環境があるはずだ。

 具体的には私の摂取可能な食事と水が存在しているはず、という意味で。


 だから私は探し求めて歩くことにした。

 この平原のどこかに水場が、そして動物性タンパク質なり何かの木の実なりがが生っている場所があることを期待して。


 結果として、私の勘は正しかった、と言えるだろう。


 今現在、私の前に存在するのは何もない平原の景色などではない。

 青々と茂った木の葉を揺らす木々が何本も集まって生えているところーーつまりは森が、私の目の前にはあった。

 くん、と鼻をかいでみれば、水のにおいがする。

 "勇者"たちとの日々は、私の身体能力を平凡な日本人でしかなかった私から、おそらくは原始人並の能力を持たせるまでに至った。

 それはつまり、五感がきわめて鋭くなったという事だ。

 水ににおいがある、なんて日本ではほとんど感じたことはなく、森に行こうがなんだろうが、水のにおいなんてものはあまりわからなかったものだが、"勇者"たちと生活するようになってかなり離れた位置の水場のにおいですら私はかぎ分けられるようになっていた。


 目の前の森だって、平原から歩いて、水場のにおいがする方へ進んだところで見つけたものである。


 だからここには間違いなく水場があるはずで、おそらく木の実とかも生えているはずで、さらに言うなら裁いて火を起こして焼けばおいしくいただけるはずの動物たちも沢山いるはずであった。


 考えるだけで涎が出てくる。

 年頃の乙女として全く誉められた行動ではないが、これについては許容してほしいものだ。

 なにせ、ここ何日か、私は全く何も口にしていないのだから。


 そうだ。

 平原を歩いてほんの数時間でここを、この森を見つけたわけではないのだ。


 数日かかった。

 数日歩いて、やっとここまでたどり着いたのだ。


 よくそんな状態で生きているなと思わないでもないのだが、意外と体は疲労していない。

 むしろ、日本にいるときに行ったマラソン大会なんかのあとの方がよっぽどきつかったような気がする。

 おそらくお腹が空きすぎて感覚がおかしくなっているのだろう、と思った。


 ということはだ。

 とにかく腹を満たすことが先決だろう。

 腹が空きすぎて体が快調ということはあれだ。

 アドレナリンがいっぱい出まくって疲労なり苦痛なりを無理矢理ごまかしているということだ。

 そしてそれは生命の危機に私の体が達しているからこそ起こることで、つまり早めに食わないとやばい。


 私は急いで森に入り、とりあえず水場を探すことにした。

 そこまで行けば、なんらかの動物ぐらいいるだろう。

 見つけたら狩ればいい。そう思ってのことだった。


 しばらく森を歩いて、実際、水場についてみれば、そこには確かに食料になりそうな動物たちがいっぱいいた。

 見たことのないようなものが多いが、見覚えのあるもののいて、あぁ、大丈夫だ、食べれるなと思った私はひどいと思う。

 年頃の女子が動物を見て「カワイイ!」ではなく「食える!」である。

 私の女子力はもはやゼロを通り越してマイナスへと進み出している気がした。


 とはいえ、まずは水だ。

 水を飲まなければ。

 そう思った私は見つけた水場ーー森の奥にあった、大きな湖に口を寄せて、手で水を汲んで呑んだ。

 毒がどうとか飲める水かどうかとか、そんなのはあんまり考えなかった。

 なんとなく大丈夫そう。

 それでいいのだと大ざっぱに考えていた。

 実際、問題はなかったのでよかったのだろう。


 ごくごくのんで、お腹が満たされた。

 満足だった。


 それから、数日間歩き詰めで、きっと汚れているだろう自分の顔が気になった。

 一応、乙女として洗顔くらいはしておこうかと思い、水をすくって顔をばしゃばしゃとやった。

 きれいになったかどうか……。


 まぁ、別にもともと綺麗な顔をしているわけではないから、そういう意味で綺麗、というわけではなく、ただ単純に汚れが落ちたかどうかということである。


 湖は風もなく、さざ波も立っていなかったので穏やかだった。

 鏡にするにはちょうどよく、私は自らの顔を見ようと湖に顔を晒した。


 すると、そこには驚くべきものがあった。


 まず目に入ったのは鮮やかな銀色の髪だ。

 太陽の光を受けて、きらきらと輝いているその髪は、まるで美容院にいったあとのようにキューティクルつるつるのさらさらだった。

 次に、恐ろしいほどに整った顔が見えた。肌は一片の染みもなく、白雪のように美しく。精巧なビスクドールでもここまでではないだろうと思われるほどの美しさ。顔立ちも非の打ち所がなく、美しさ、というものを集約すればこのような顔になるだろうと思われるような、そんな顔だった。

 最後に、瞳が見えた。

 不思議な瞳だった。魅惑的な、人を魅きつけて止まない輝きを放っていた。魔的で、とても深い海のような蒼。それは今までみたどんな宝石よりも美しく、私は一瞬見とれた。


 しかし、私ははっと我に返る。


 だっておかしいだろう。

 湖を見て、なぜこんなものが見える。

 いや。


 これは誰の顔だ・・・・・・・


 そうして、ひたひたとした思考は、一つの事実にたどり着く。


「……もしかして、これ、私……?」


 誰も否定してくれる人はいなかった。

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