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異世界で勇者パーティの保護者やってます!  作者: 丘/丘野 優
第1章 プロローグ、始まりから第一の出会いまで
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第8話 そして転移に至る

 彼らと旅していく中で感じたのは、ただひたすらに理不尽、ということだ。

 彼らはあまりにも強く、そしてあまりにも強大だった。


 この世界には魔物、と呼ばれる存在や、通常の人間以外の様々な種族、それに魔法という不思議な力が存在していたが、そう言ったこの世界特有の色々なもののなかで、もっとも希有な存在は間違いなく我がパーティの面々であろうことは間違いなかった。


 彼らはその力一つとっても、街一つ、国一つ、簡単に滅ぼせそうなほどのものを持っており、実際、この世界でも強力な力を持っているらしい冒険者と呼ばれる存在の最高位の存在が、我がパーティを聖地破壊の犯人として討伐すると集団で襲いかかってきたこともあったのだが、全て簡単に返り討ちにしてしまっていた。


 その際、彼らの一人、"勇者"が言うことには、


「俺たちを相手にして勝てる奴なんてのは、世界広しと言えども一人くらいだな」


 と。

 その一人が誰なのかはわからないが、ともかくほぼ世界最強の人物たちが彼ららしいことがその言葉でわかる。

 大言壮語でないことも、冒険者たちを返り討ちにした件でわかってしまう。


 そんな彼らとの旅は楽しく、また非常に安全で快適だった。

 私の仕事はといえば、食事を作ったりすることぐらいで、他は好きに過ごすことが許されていた。


 ご飯はみんな美味しそうに食べてくれたし、天竜姫は、むぐむぐとほっぺたを膨らましながら満面の笑みで、


「おかわり! おかわりですわ!」


 とか言ってくれるので、かわいかった。

 他の三人も、天竜姫ほどではなかったが、控えめにおかわりを求めてきたりするので、みんな私の料理をそれなりに気に入ってくれていることがわかった。


 旅の合間に私がすることはそれほどなかった。

 冒険者たちの相手は四人がしたし、暇つぶしになるようなものも特に持ってはいなかったから。

 だから、四人の提案を受けて、私は戦いの訓練をすることになった。

 四人が言うには、いい暇つぶしになる、ということだったが、私は最初は遠慮していた。

 なんといっても、私は彼らとは違う。

 普通の人間にすぎず、戦う訓練などしてもそれほど強く離れないことが分かり切っているからだ。

 けれど彼らは、それでも覚えておいた方が良いと言った。

 なぜなら、この世界は始めに言ったように戦いに満ちていて危険であり、そういう技術の一端を持っていなければ生きていくのも厳しい部分があるからだと。

 そして、確かに私は人間にすぎないかもしれないが、それでも戦えるようになる方法を自分たちは十分に知っているから、ただ言われたとおりに訓練すれば大丈夫であるとも。


 そこまで言われたら、やらない、とは言えない。

 それに、いつか、彼らとは別れなければならないだろう。

 彼らと私はあまりに違いすぎる。

 強さも、存在も、偉大さもだ。

 私は小さく弱い人間にすぎないのだから。


 戦闘訓練ははじめはものすごく甘い、というか楽なものだった。

 ちょっとした筋トレのようなもの、魔力を感じるための瞑想、そんなものをしばらく繰り返した。

 本当にこれで強くなれるのか、と訝ったが、いい暇つぶしにはなったので特に文句はなく、私は言われたとおりに訓練し続けた。

 それをどれくらいの期間続けただろう。

 少しずつ増えていった筋トレの回数は今や尋常じゃない数に達していたが、それでもそれほど疲れずに出来るようになっていたし、瞑想の結果、魔力の動き、のようなものを明確に感じられるようにもなっていた。

 それを確認した四人は、次の段階に移ると言って、実際に戦いの方法を教えてくれ始めた。


 四人それぞれが、異なる戦い方をしていた。


 "勇者"はこの世界の基本的な剣術を基礎としたものを遣いつつ、魔法も放つ魔法剣士型。

 "天竜姫"はその体を竜に変じることによって得られる強大な力を振るい、暴力的に戦う本能的なタイプ。

 "吸血姫"は魔法によって自らの体を流動的な、実体の薄いものにして、それによって得られた耐久力を存分に扱いながら、防御を無視して魔法や物理的攻撃を放ち続ける超攻撃型。

 "大賢者"はその持つ強大な魔力を余すところ無く活用し、いくつもの大規模魔術を複数展開しながら物量で飽和させて一切の反撃の機会を与えずに殲滅する大規模殲滅型。


 どれもこれも物騒であり、私にはとてもではないが修められるような技術ではないのだが、全員が自分の持っている技術を嬉々として私に教え込んだ。

 全員が実戦形式で教えるという正直きついやり方を選択してくれたので、私は毎日疲労困憊だったが、魔法が使える、というのも剣をふるえる、というのも意外と楽しく向いているらしいことがわかったので、悪くはない生活だった。


 とは言え、だからといって私のような凡人がすぐにものすごく強くなれるというわけでは当然ない。

 魔法は使えるようになったし、剣も振れるようにはなった。

 しかし四人に勝てるようになるわけではない。

 手加減を毎回してくれるので、それなりの時間は持ちこたえられるのだが、最終的に私が負けて終わるのだ。

 勝ったことは一度もなく、これからも勝てないのだろうと思う。

 訓練を重ねていくに連れ、彼らもまた徐々に手加減をやめていくのだから、そりゃあ勝てるわけなどない。

 いくら手加減をやめている、とは言っても、その手加減がありを殺さないようにする、からネズミを殺さないようにする、に変わった象のごとくでしかなく、そしていくらがんばろうともネズミが象になることなどできないのだから。


 そんな日々がどれくらい続いたことだろう。


 私たちは着いてしまった。


 どこに?


 それは簡単。


 最終目的地である、つまりは魔王の城へ。


 そもそも私はこんなところまで着いてくる羽目になるとは思わなかったが、何の因果か最終目的地まで着いてきてしまったのだった。

 これは言うなればRPGにおいて最初の村で出会った村娘Aが勇者の最初の冒険で、ちょろっとついてくるくらいのはずだったのに、何かのバグで気づいたらラスボスのところまで着いてきてしまっているというくらいにおかしい話だった。

 村娘Aが魔王と対峙するとか意味不明だろう。

 きっと装備は変更できないから布の服とこんぼうとかしか持ってないのだ。

 なのに目の前に魔王がいる。

 どうやって戦えと?


 私はそんな村娘の気分だった。

 けれど、我がパーティの四人は当然かもしれないが私を戦わせる気などなかったらしい。


 魔王との戦いが劣勢になると、彼らは私の方を見つめていったのだ。


 私を、どこかに、飛ばすと。


 どこかってどこだ、とか、そんなつっこみをする前に、私はまず飛ばされたくはなかった。


 世界のどこにいようと、魔王が存在する限り、安全な場所などない。


 ならば、今ここで、彼らと共に果てるのがいい。


 そう感じるほど、私は彼らに親愛を感じていたのだ。


 けれど、それは彼らの方も同じだったらしい。


 どこでもいい、生きていてくれるならそれで。


 そう言って、彼らは時空間転移魔法というのを四人で放ったのだ。


 それは、彼らが私のために研究してくれていた魔法だった。


 いつか、私を故郷に帰すために。


 残念ながら未だに未完成であるため、地球に帰すというわけにはかないが、どこかに飛ばすというのは可能であると前に語っていた。


 そしてそのためには、一人の魔力では足りず、四人で唱えなければならないとも。


 四人の魔力が私の元へと殺到し、そして、私の体を包んだ。


 それから、私はどこかへと飛ばされていく。


 そのあと、四人がどうなったかは私は知らない。


 ただ、生きていてくれればいい。


 そう、思った。

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