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第26話 挑む理由

 ライナルトは結構しっかりしている人らしい、ということがその話で分かる。

 というか、昔ながらの職人気質の土族(ドワーフ)だということだろう。

 彼らは基本的に武具を打つ時は金銭ではなく人柄や腕に対して打つのだ。

 ライナルトは神殿で、神に武具を奉じるために鍛冶師をしているわけで、必然的にライナルトが武具を打つ相手として選ぶのは、神に仕える者たちだけだ、ということになるのだろう。

 そうなると、私たちの中ではリリアにしか武具を打ってくれない、ということになってしまうが、私たちが頼むのはライナルトではなくヨゼフである。

 彼はもう、奉神鍛冶師はやめているわけだし、私たちの目的もよくわかってくれているわけだから、まさか打つのがダメとは言わないだろう。

 彼がいて、助かったのかもしれない。

 まぁ、そもそも私と萌は別にいいのだが、タタールとモーゼスについても新たに売ってもらわずともいいのだが、彼らの武具についての手入れはやってもらわないといけない。

 ルルリア王国から逃げてくる道中で、かなりの戦いを繰り広げてきたからか、彼らの武具はかなり痛んでいるからだ。

 もしかたら防具はともかく、剣の方は打ってもらわなければならないくらいの痛みようで……。

 こうなると、ヨゼフが神殿から離れたことはすべて天の配剤のようにすら思えてくるほどだ。

 ま、偶然なのだろうが。


「……話は分かったわ。確かに貴方の言う通り、私たちはこれから、ここにいる五人で迷宮(ダンジョン)に潜って、遺物(アーティファクト)を探してくる予定なの。そのための武具が必要で……」


 私がライナルトにそう言うと、彼は頷きつつも、微妙な顔で言う。


「ま、そうだろうよ。そうじゃなきゃここには来ねぇだろうからな。とはいえ……リリア様、本気なのか? 迷宮(ダンジョン)に潜ったところで、皇帝陛下が認めるような遺物(アーティファクト)が得られる可能性なんて万に一つだぞ。それに、そもそもあんたはそういう……皇帝、なんていう地位が欲しいというタイプでもあるまい。わざわざ茨の道を歩み必要なんてねぇと思うんだが……」


 望みさえすれば、神殿で平穏な生活が得られるだろうに、なぜわざわざ好き好んでそんな七面倒くさい道を選ぶのか、とライナルトは聞いているのだ。

 これにリリアは答える。


「色々と、理由はあるんですけど……強いて言うなら、みんなのために、これが一番いい方法だから、でしょうか」


「……どういう意味だ?」

 

 ライナルトが首を傾げて尋ねたので、リリアは答えようと口を開いたが、はっとして、タタールとモーゼスの方を見た。

 色々な事情を話すためには、彼らの許可が必要だからだ。

 二人は、ここでなら、と思ったのか、リリアに向かって頷く。

 リリアはそれを、許可と解釈した。

 リリアはライナルトにいう。


「もともと、私はどこか遠くで、静かに暮らせたらいいと思っていました。だからこそ、この帝都を出て、はるか遠くの地ナードラに逃げるように向かったのです……でもそんなのは夢で……いずれ必ず、私を探して誰かがやってくるのは分かっていました。それに、帝都の遠くで改めて考えてみたのです。私が皇帝にならなかった場合、神殿はどうなるかと。結果は、言うまでもありません……私はあらためて思ったんです。神殿のためにも、おばあちゃんのためにも、肯定にならなければならないのだ、と。だから、私はそのために、ナードラで、信頼できる人を探した……」


 それで、騎士団長シードラに頼んで、結果、私に行きついたわけだ。

 リリアは続ける。


「ナードラの治安騎士団長シードラが引き合わせてくれたのは、ユーリでした。ユーリはとても厳しくて……しばらく一緒に住んでいたのですけど、普通の炊事選択なら神殿でもよくやっていましたが、それに加えて薬師としての修行や、戦闘の訓練まで加わって……。萌は私より小さいのに私より全部うまくできてしまうんです。何だかショックでした……でも、楽しかったです。大変でしたけど、それはまさに私の望んでいた平穏でしたから。そんな生活をくれた彼女が、一緒に迷宮(ダンジョン)を攻略してくれるわけですから、これ以上心強いことはありません」


 一度言葉を切り、リリアは続ける。


「こっちの二人……モーゼスさんとタタールさんには、帝都に来る途中に出会いました。いろいろと複雑な事情を抱えていらっしゃるのですが、ともかく彼らは皇帝陛下に会いたいのだそうです。切羽詰って、どうしようもなくて、でも、あがいている。諦めずに。その姿を見て、私はやっぱり思いました。頑張らなければならないと。自分の姿と被ったんです。私が頑張れているかどうかは分かりませんが、どうしようもない状況の中に置かれているということは同じですから……しかし、手段がないわけではない。私が、迷宮(ダンジョン)に潜って、遺物(アーティファクト)を持って来れれば……お二人のためにもなる。私が皇帝になろうとすることは、神殿のためにも、おばあちゃんのためにも、このお二人のためにもなる……だから、私は頑張りたいんです」


 あまりまとまっていない話ではあったが、リリアの気持ちは理解できた。

 つまり、彼女は、皇帝になることで全てがうまくいく可能性を見たのだ。

 そしてそれは事実だろう。

 神殿は守られ、タタールとモーゼスは救われる。

 そして私はお金をもらえて万々歳……。


 ライナルトは最後まで聞いて、納得がいったらしい。


「なるほどな……リリア様らしいよ。しかし、優しすぎるような気もするがな。神殿のことは、うまく立ち回れなかったシモーヌ様の責任だし、そこの二人のことにしたって、ただ偶然出会っただけの知らない奴だろう? 肩入れする必要は本来ないはずだ」


「ライナルト……そんなことは」


 リリアはあまりの言い方に不安そうにそう言ったが、ライナルトは笑って、


「あるのさ。ただ、だからこそリリア様らしいと言っているんだ。そういう、本来出さなくていい優しさを出して、人に幸せを配るのが、あんただ。昔からそうだった……よし、ヨゼフ。こうなったら、リリア様のために、最高の武具を作るぞ。俺たちも協力する」


 遠い目でリリアの過去を思い出したらしいライナルトは、それからふっと雰囲気を変えて、ヨゼフにそう言った。

 ヨゼフは驚いた顔で、


「いいのか? 俺は、あくまで俺が打つために場所と素材を貸してもらおうと思ってただけなんだが」


 それ以上は迷惑をかけるから、という遠慮なのだろう。

 しかしライナルトは、


「場所を貸すなら腕を貸しても同じことよ。なぁ、みんな?」


 後ろを振り向いて、他の鍛冶師たちにそう尋ねる。

 全員がライナルトの言葉に頷いて、「おう!」と叫んだ。

 それを聞いて、ヨゼフはふっと笑い、


「へっ……ありがたくて涙が出るぜ。ったく……じゃあ、頼む。今回はリリア様のために最高の武具を打ちたいんだ。あと、こっちの二人の剣もついでに、な」


 ヨゼフは彼の家でモーゼスとタタールの剣を見ていた。

 手入れをすれば使える、とはそのとき思っていても、出来ることなら新たなものを打った方がいいと思っていたのだろう。

 ついでにねじ込むように言った。

 それを聞いたタタールは、


「……ついでか」


 とげんなりした顔で言ったが、モーゼスの方は笑って、


「それでも新しく打ってもらえるのならありがたい話だ。謹んで受けておこう」


 そう言ったのだった。


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