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第10話 鍛冶屋

 次の日、私と萌、それにリリアとタタールとモーゼスの五人はリリアの紹介で彼女の知り合いだという鍛冶屋を尋ねることになった。


「私とタタールはすでに武器を持っている。新たな武具など必要ないのだが……」


 街中での会話はどこに人の耳があるかわからないので、リリア以外全員敬語は使わない方針で納得している。

 そしてそれはモーゼスからタタールに対してもだった。

 そんなモーゼスは鍛冶屋に今更いく必要などないと言ったのだが、しかしリリアは、


「武具を買わないにしても、手入れは必要でしょう? それに、私が必要なので……出来ればみなさんには私が武具を選ぶのを手伝って欲しいのです」


 と言った。

 殊勝なことに、彼女は自分も戦うつもりでいるらしい。

 てっきり、戦いは私たちやモーゼス達に丸投げするのかと思っていたので正直にそう言うと、


「みなさんだけ危険な目に遭わせてのうのうとしてられるほど図太い神経はしておりませんわ!」


 とぷんぷんと叱られた。

 見損なわれていたように感じられたらしい。

 実際、そこまでリリアの性格が悪いと私は思っていなかったのだが、正直言ってリリアには後方に隠れていてもらっていた方が現実問題やりやすいというところもあり、だからこそそれを期待してというのが大きかったのだが、ここでそれを言うとまた叱られるだろう。

 つまり彼女は皇帝を目指すために迷宮ダンジョンを探索するにしても、自分はなにもしないで結果だけ得る、というのはイヤだというわけだ。

 ほかの候補者達がどうするのかは疑問だが、ルールとして問題ない以上、後ろに隠れていた方が成功の可能性が高くなることを考えると、リリアは珍しいタイプなのではないだろうか。


「ま、別にリリアがそれでいいなら私もそれで構わないけど……そもそも、リリアって戦えるの?」


 根本的な疑問である。

 全くなにもできないと言うこともないだろうが、魔物と渡り合っている姿など想像できないのだ。

 リリアはそんな私の疑問に対し、


「……私、神聖魔術を修めておりますの! ですから、ある程度は……」


「へぇ、意外」


 神聖魔術は主に神官がよく使う魔術で、魔物に対して非常に高い効果のあるものだ。

 ただ、直接ダメージを与える、というよりかは力を減衰させるようなものや、武器に魔術を付与する補助的なものが多く、後衛に向いている魔術である。

 であれば、別に武器は買わずともいいような気がするのだが、リリアはさらに付け足す。


「あと、細剣術も使えます」


「それは頼もしいな。リリアは聖騎士としての修行でもしているのか?」


 とタタールが尋ねる。

 それに対し、リリアは、


「いえ、嗜み程度ですが……ただ、全く戦力にならないということはないと思いますので……私も戦わせてください」


 と言って頭を下げる。

 そんなリリアを見たモーゼスが、


「私たちとしてはそれでも構わないが、本来ならリリアは私たちに前衛に立つように強要してもいいのに、物好きなことだ」


 と困ったように微笑んだので、


「まぁ、こんな皇帝も悪くないのかもね」


 と私が話を締めた。


 ◆◇◆◇◆


 本当にリリアが皇帝になれるかどうかは未知数である。

 迷宮ダンジョンから遺物アーティファクトをとってくる、というのが課題である以上、運の要素も大きく絡んでくるからだ。

 どれだけ実力があろうと、運が悪ければしょぼいものしかつかめない。

 それが迷宮ダンジョンというものだからだ。


 しかし、何はともあれその目的を達成するために絶対に必要なものが武器であることは言うまでもない。


「こんにちはー! おじいちゃん! いますかー!?」


 と、リリアが扉を開けて入ったその店は、店と言うよりはただの民家のようで、勝手に入っても怒られないのだろうかと不安になるようなところだった。

 リリアの知り合いの鍛冶屋というのがここらしいのだが、看板など一切出ておらず本当に鍛冶屋なのかどうか怪しくなってくるくらいだ。

 しかし、リリアに続いて入ったその部屋の中を覗くと、奥の方にはしっかりと金属を溶かすための炉や、鍛冶に必要な工具類がそろっている空間があり、しっかりと火が絶やされていないことからも現役の鍛冶師がここにいるだろうことは確かだと確認できた。

 よく観察してみれば、壁にはたくさんの武具が立てかけられていて、出来もいいものが多い。

 その中でも部屋の中心に飾られている片手剣には惹かれるものがあった私は、ついそれに近づいて手を伸ばした。

 すると、


「それに触るんじゃねぇ!」


 と割れ鐘のような声で後ろからどなられて、私以外の四人がびくりと体を振るわせた。

 私はと言えば、後ろから近づいてくるその人に気づいていたので、特に驚きはしなかった。

 リリアは振り返って、その人物の顔を確認し、笑顔を浮かべる。


「おじいちゃんっ!」


 そう言って駆け寄り、抱きついたリリア。

 抱きつかれた方は、私よりも背の低い、けれど体中が筋肉に覆われた屈強な老人であり、容姿からその老人の種族は土族ドワーフとわかる。

 老人は飛びついてきたリリアに驚きつつも、


「……リリアじゃねぇか!? なんでこんなところに……って、あぁ、そういやお前は皇帝の……だが、出る気はないって話をしてただろう?」


 と、事情をいろいろと知っていることを伺わせるような発言をする。

 リリアは、


「うん、そのつもりだったんだけど……聞いて、おじいちゃん。私ね、この人たちと一緒にやってみることにしたの。迷宮ダンジョン探索」


 と言ったので、老人は目を見開いて私たちを見てから、


「こいつらとぉ!? ……おいおい、本気か……いや、いや……こいつぁ……リリア、お前、なんだかやばいの見つけてきたんだな」


 なにを冗談を言っている、という口調で話し始めた老人だったが、私と萌をしげしげと観察した瞬間、目の色を変えて、ふるえるようにそう言った。

 リリアは、


「……わかるの?」


「ぱっと見は、普通に見えるが……特にこの姉ちゃんは……おい、さっきは悪かったな。その剣はあぶねぇから止めたが、あんたなら触ってもいいだろう」


 と改めて言ったので驚く。

 老人は私を見て、何かを感じたらしいからだ。


「危ないって、その剣に何かあるの?」


「これは呪われた魔剣だ。知り合いの武器屋に回ってきたもんだが、買い手がついても次の日には死んで帰ってくるからどうにかしてくれって言われててな」


 と、とんでもないことをいう。

 リリアはそれを聞いた後、私を見て、


「……大丈夫なのですか?」


 と尋ねてきたので、

 私は答え代わりにその魔剣とやらをひっつかみ、


「ほら、大丈夫」


 と、朗らかに笑った。

 剣を持った瞬間、老人の顔があからさまにひきつったが、問題なさそうなのを見て安心したらしい。


「大丈夫だと分かっていても、肝が冷えるぜ……とりあえずそいつは置いておいてくれ。欲しいなら後でやるからよ」


 そう言って、全員を部屋の奥へと招いたので、みんなで彼の後ろについていったのだった。

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