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異世界で勇者パーティの保護者やってます!  作者: 丘/丘野 優
第1章 プロローグ、始まりから第一の出会いまで
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第14話 暇つぶしの方法

 私の質問に、戦士の男ウラノスが答える。


「あぁ、そりゃあな……さっき言った、煉獄の森プルガトリオ・ボスキに小屋なんて建ってるのが見つかったら怪訝に思うに決まってるってやつだよ。この森は確かにほとんど人は来ないが、それでも来るやつは少数ながらいるからな。たとえば、俺たちみたい冒険者だ。そんな中のいくつかのパーティが言ったんだ。ここに、小屋があったような気がすると」


 男の話に、私は頷く。

 確かに、たまにこの森に人が入っているのは知っていた。

 だから、落ち着いたらそういう人たちの誰かに話しかけて、村や街などに案内してもらおうかと思っていたのだ。

 ただ、今日までの私は正直、この小屋を建てたりインフラを整えたりするのに忙しく、他のことにかかずらわっている時間はなかった。

 別に、人間らしきものが存在していることはわかったのだから、後回しでもいいかと思っていたのだ。

 それに、見た目は人間に似ているとはいえ、本当に同じような生き物なのかどうか、判断することは遠くからは出来なかった。

 だから、しばらくは観察および放置で行こうと、そういうつもりでいたのだ。


 そんな中、訪ねてきたウラノスたち。

 それは私にとっても僥倖だったと言える。

 私がこの森でたまに見かけていた人々、それが真実人間であるという事が証明されたのだから。

 もしかしたら遺伝的にとか、人体の内部構造とかが地球人とは異なっている、とかはあるのかもしれないが、そういうのは些細なことだ。

 重要なのはしっかりと意思疎通ができ、そこに大きな齟齬がないことである。

 それを、ウルスラたちで確認できた。

 それは非常に大きな収穫だった。


 ただ、私が彼らに関心を持っていたことはともかく、その反対については考えが回っていなかった。

 私の家の近くを通りがかっても、特に扉を叩いたりせずに通り過ぎていく。

 だから、ここに小屋があることは至って問題ない、普通のことなのだと、私はそう考えてもいた。


 しかしそれは違ったらしい。

 むしろ彼らは警戒していたのだ。

 私と同様に。


 こんな場所にあるよく分からない小屋に住むからには、中にいる何者かはきっと不可思議な何かに違いないと、そう考えていたのだ。


 だから今回ウラノスたちが派遣された。

 そういうことだろう。


「それで、その人たちの報告を受けて調査に来たウラノスさんたちの印象では、私はどうですか?」


 彼らは街に帰ったらそれを報告する義務がある。

 だから、あんまり悪印象を持たれてないことを願って聞いた。

 割と歓待しているのだから、そんなこともないだろうと思ってはいたのだが。

 実際、ウラノスは至って普通の表情で言った。


「何の問題もないだろう。ここに小屋を建てられた理由もわかったわけだし……つまり、隠居してる薬師か錬金術師なんだろう? あんたは」


 そう解釈されたらしい。

 確かにそういう技能を持っているのは事実だが、厳密には異世界から来た何者かである。

 つまり、得体の知れない何か、という彼らにとっての第一印象が限りなく正解なのだ。

 ただ、それを正直に言って何の得があろうか。

 私は日本人として一般的に保持している技能、事なかれ精神を発揮して、ウラノスの推測にそのまま乗ることにした。

 ただし嘘はつかない。


「まぁそんなところですね」


 まぁ、(そういう技術も持っているのも確かだし、はっきりと間違いとは言えません。ただ、私は異世界人であり、おかしな存在であるのは間違いないですが、ただ、だからと言って私が薬師や錬金術師であると言う事実まで否定する原因にはならないでしょう。だから、あなたの言葉については)そんなところですね。

 という果てしなく様々な意味を含意した私の一言をどう解釈したのかはわからないが、ウラノスは頷いて、それから伸びをした。


「ま、それなら何の問題もないんだ。別にここは誰の土地ってわけでもないしな。まぁ、一応領主がいるわけだが、ナードラの領主は他の土地からの移民も割と簡単に受け入れてしまう人だから……年内に申請を出せば大丈夫だろ。ちなみにお前さん、どこから来た?」

「……それって、言わないとだめですか?」


 そんな私の質問を一体どのように解釈したのかウラノスは言う。


「あぁ、いや。言いたくないならいいんだ。むしろ言われると厄介ごとになるかもしれないからな……そこのところは隠しておいても構わない。そうだな、お前の薬がちょうどいいだろう」

「……? 何がですか」

「お前の出自を偽るのにだ。あの薬を交換条件に、ナードラの市民としての登録を確保するというわけだな。まぁ、あれだけ有用な薬だ。間違いなく許されるだろう。お前もあれで儲けようとかいうつもりは無かったって言うし、他に何か見返りも求める気はなかったんだろう? だったらちょうどいいじゃねぇか」

「いいんですか?」

「厳密に、法や倫理に則るのなら、よくはないが……このご時世だ。多少のずるや誤魔化しってのはやっても許される。まぁ……そういうのがどうしてもいやだっていうなら話は別だが……」


 ウラノスは言葉を切り、首を傾げて、私に答えを問うた。

 法や倫理か。

 守る必要性は感じる。

 ただ、ここは地球ではない。

 あの世界で必要とされた厳密なルール遵守の精神は、この世界においては必要ないと私は考えている。

 前の世界でもそうだったが、地球のそれよりも、もっとアバウトで、合理性に欠け、説得力も希薄なのが、この世界のルールなのだろう。

 倫理も大幅に異なるだろうから、私の基準に照らし合わせるとこれはおかしいというものがたくさんあるだろう。

 そんな世界でルールを守っていけるのか。

 否である。

 したがって、多少のルール破りは私が気持ちよく生きていくための大前提となるだろう。


 そうである以上は、別にここで多少ルールを破ったところで、何か気分的に問題があるわけではない。

 私の感覚で言うなら、領主が何もしていない私から税を取る事すらおかしなことに思えるのだ。

 その領主が、薬の利権で満足して市民権なりなんなりをくれるのなら、別にかまわないだろう。


 そこまで考えた私はウラノスに頷いて答える。


「別にかまいませんよ。特にルールは絶対に守らなければならないとまで考えているわけではありませんし。臨機応変に行きましょう、臨機応変に、ね」


 そんなことをふてぶてしくいう私に、ウラノスは笑って、


「はっ。言うじゃねぇか、ま、それなら問題ないだろう。手続きは俺が申請する。薬の製法については……イヴォンヌが学んでおけ。いいか?」

「ええ、私としても知っておきたいところだから」


 イヴォンヌがそう言って頷く。


「じゃあ、僕とオリスは暇人だね」

「そうですね……何をしていましょうか」


 ミリーとオリスがそんなことを言った。

 なので私は一人遊び用に作ったリバーシと将棋をだし、ルールの説明をしてこれで時間でも潰していたらどうか、と提案する。

 二人ははじめ、なんだこの木の板と破片は、みたいな顔をしていたが、ルールを聞き、何回かやっていくにつれてその面白さが分かったようだ。

 いつの間にかドハマりして熱中していた。

 いつまで続くかはわからないが、しばらくは飽きないだろう。

 もし飽きたら、次はトランプでも出そうかと考えている。


「じゃあ、イヴォンヌ。魔物除けの製法を教えるわね」

「ええ、よろしく。あのリバーシ、とショーギ? 後で私にもやり方を教えてね」

「えぇ、もちろん。ウラノスも知りたい?」

「おう、あれは面白そうだ。ただ、俺も魔物除けの製法をイヴォンヌが教わってる間は暇だからな。その間に二人にルールを聞くぜ」


 そう言って、ウラノスはリバーシに熱中する二人のところに行ってしまう。

 私とイヴォンヌはそんな三人を見て笑いあい、それからとりあえず、ということで家庭菜園まで向かった。

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