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異世界で勇者パーティの保護者やってます!  作者: 丘/丘野 優
第1章 プロローグ、始まりから第一の出会いまで
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第13話 なぜ家が建ったか

「あぁ、まるで仲間外れみたいにしてしまいましたね……。申し訳有りません……」


 しばらくの間、完全に放置してしまっていた男性戦士ウラノスに謝る。

 この場には彼しか男がいないからか、どうしても女だけで盛り上がってしまい、しかも彼も遠慮したのか話にあまり入ってくる気になれなかったらしい。

 謝られた彼は渋面を作り、けれどため息をはいて首を振りながら言った。


「……いや。別にいいぜ。それに、今までしてた会話の様子からあんたがどうやら普通の人間らしいとわかったからな。特に問題はなさそうだ……」


 その言い方に、私は首を傾げる。

 私が普通の人間だとわかった、とは一体どういうことなのかと。

 この世界に来てそれほど不自然なことをしていたわけではなく、ただ森に小屋を作ってひっそりと生活していただけなのに。

 そんな私の表情を読んだのか、ウラノスは続けた。


「よくわかってねぇみたいだから説明しておくがな。この森……煉獄の森プルガトリオ・ボスキは俺たち冒険者の間でも難所として有名なところだぞ。そこに唐突にこんな小屋が出来上がってみろ。なんかおかしなことになってるんじゃねぇかと勘ぐるのが普通だ」


 それに続けて、エルフの少女ミリーが顎に指を当てて言った。


「まぁ……このおうちの様子を見る限り、意外と住みやすそうなところなんだけどねぇ。これなら僕も住みたいくらいだよ。魔物とかはどうしてるの?」


 そう聞くから、私は自分のとっている対処法を説明する。


「あぁ、それは……さっき家庭菜園があるっていいましたよね。あの中にほとんどの魔物が嫌いな匂いを出している薬草があるんですよ。それを濃縮して作った特製の魔物除けをこの小屋の周りに三日ごとくらいに撒いているので、この森にいる強そうな魔物はたいていが寄ってきません」


 それを聞いた四人の反応は見物だった。

 全員が目を見開き、少し考え込み、その上でおずおずと中年女性神官オリスが四人を代表するかのように私に言った。


「それも……出来れば譲っていただけませんでしょうか? お金は払わせていただくので……」

「構いませんよ。製法も知りたければお教えしますが」

「それは、あくまで私たちだけが使うという条件をつけて、ということですか? それとも誰に教えても構わない、それを使って商売をしたりしても別にいい、という意味で教えると言っているのですか?」

「後者ですね」


 私としては、特に誰に教えても問題のない情報である。

 この森でひっそりと生きていくのが基本的な目的であって、街でどれだけ広められようとなにか私に問題が発生することはないだろう。

 そもそも私は儲けたいわけではないし、この森で材料となる植物を確保するにはそれなりの事前知識と経験が必要だが、それのない人間がいくら一生懸命さがしても簡単に見つけられるものではない。

 したがって、乱獲して絶滅、ということもまずあり得ないと考えていいと思う。

 いざとなったらどうにかする気でもいるから、よけいに何の問題もないのだった。

 けれどその一言で四人はやはり絶句し、それから、オリスが言った。


「……とんでもないですね。これは必需品になるでしょう。特定の魔物に対して効果を発揮する魔物除けはいくつかあるけど、そうではないものは聞いたことがありません。……魔物一般に効くのですよね?」


 それは質問と言うより確認だった。

 私の言い方から、私の魔物除けが何か特定の魔物を対象にしているものではなく、一般的な効果があるものであるということを理解したのだろう。

 事実、それは正しい推論だ。

 この魔物除け、植物類が前の世界とほぼ同じようなものであることがここに住んでいるうちにわかったので、以前、大賢者に教わったものを作ったのである。

 とはいえ、大賢者が教えてくれたのそれには二種類あり、効能の高いものと弱いものがあった。

 効能の弱いものは以前の世界の薬師や錬金術師一般がその製法を知っているもので、数日から一週間程度で効能が切れる。

 効能の高いものは、年単位で効果が持続する優れものだが、製法は大賢者しかしらない、オリジナルの薬である。

 今回私が彼女たちに教えようとしているのは効能の低いもののほうで、こちらは別に教えたとしてもいいかな、と思っているのだ。

 効能の高いものは、使い方によって非常に問題がありそうなので、これは自重して教えるつもりはない。


 そんなことを考えているとは悟らせないように普通の表情を装い、私は言う。


「その通りですね。ただ、さきほど言いましたが数日に一回撒いていないと効果が切れるものですから、そこのところは注意が必要です。それに、いくら魔物一般に効くとは言っても、効かない魔物がいないわけではないので、そこも気をつけないとならないのですが……」


 すると、オリスは首を振って、


「いいですいいです、それでもまったく。たとえ数日で効果が切れるとしても、それは十分な効果を持った薬ですよ。それに、私たちみたいな魔物と戦うことを生業にしている者にとっては、あまり持続しすぎるのも問題ですし……匂いで魔物が近づいてこなくなってしまったら、商売上がったりですから。ただ、駆け出しとか、護衛依頼とか、そういうときにはとても重宝しそうだから……本当にいいのですか? 製法まで教えてくれても」

「ええ、全く」

「意外な収穫でした……」


 オリスはそう言って額に手を当てた。

 その会話が終わったくらいで、やっとほかの三人も現実に戻ってきたようで、それぞれが驚きを口にする。


「なんでこんなところに小屋なんて建てられたかと思ってたら、なるほどな。魔物が寄ってこないんだったら……納得したぜ」


 ウラノスはうなづく。


「森の植物は僕らエルフの専売特許だと思ってたんだけど、そんな効果をもった植物があるなんて、知らなかったよ……勉強し直さなきゃ」


 エルフの少女、ミリーがそう言った。


「あなたは……ユーリは薬師か錬金術師なのね? だったら魔法薬なんかにも詳しくて?」


 妖艶なる魔術師、イヴォンヌは放心から戻ってきて、思いついたかのようにそう言った。

 名前はさっき女四人で雑談していた時に紹介しあっている。

 私の名前は発音が難しいらしく、ユーリと呼ぶことで落ち着いていた。

 薬については、私が大賢者と吸血姫から学んだ知識は通常の薬ばかりではない。魔法薬についてもかなり深くたたき込まれたので、よく知っている。

 私が黙って頷くと、イヴォンヌは私の手をとって喜んだ。


「同志! ここに同志がいるわ! まさかこんなところに魔法薬を作れる者がいるなんて……」


 それのどこがそんなに喜ぶことなのだろうか。

 不思議に思った私はイヴォンヌに聞いてみる。


「魔法薬を作れる人はあまりいないのですか?」

「そうね……数百年前はたくさんいたと聞くけど、今はあまりいないわ。魔法技術大国メルセル、あの国が滅びたときにその技術の大半は失われたと聞くもの。それに、在野の魔法薬師の技術も徐々に失伝していってしまってね。今では薬師と錬金術師がその手法の一部を伝えているのみ。本来の意味での魔法薬を作れる者はもうほとんどいないのよ」


 つまり、技術を独占していた国か何かが滅びてしまったので何も残らなかったということだろう。

 魔法技術大国メルセル、という国は聞いたことがないがその名の通り魔法関係の技術に特化していたのだとわかる。

 薬は一般に出回ってこそ意味のあるもので、魔法薬を作れる者が少なくなってしまった以上、徐々にその技術は広まらなくなり、学ぶ者も教える者も減り、そして歴史の中で磨耗して消えてしまったのだろう。

 それは悲しいことだ。

 ただ、全くなくなったわけではないと言うこと。

 イヴォンヌがその技術を伝えるらしい一人であるということはわかった。

 そしてそんな風に技術を伝えてきたイヴォンヌだからこそ、同じように魔法薬を作れる私がいるということが嬉しいのだろう。

 歴史を伝えていく、伝統を伝えていく、そういうことを共有できる相手が自分以外にもいたとわかるから。


「そうなんですか……では、また今度、魔法薬についてお話ししましょう。イヴォンヌさん。……ところで、みなさんは今日、どうしてここにおいでになったんですか?」


 改めて私は四人にその目的を尋ねた。

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