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異世界で勇者パーティの保護者やってます!  作者: 丘/丘野 優
第1章 プロローグ、始まりから第一の出会いまで
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第12話 ティーパーティー

 魔法は便利である。

 だって、だいたいのことが出来るのだから。


 たとえば、あれ、のこぎりがない!


 なんてことになったとしても、魔力を個体化してうまいこと形成してやれば即席ノコギリの出来上がりである。

 ぎーこぎーこと木を切り倒し、それをいくつも重ねてとりあえず置いておく。


 あれ、かんながない!


 なんてことになったとしても大丈夫である。

 完全に平行な面を作ることは魔法には簡単なことだ。

 まるたをいくつもの板に、しかも完全に平らにするために、水魔法を発動!

 生み出されたる大量の水を活用し、高圧水流を作り出し、ウォータージェットにより切断する。

 あら不思議、綺麗な直線を描く板が出来ました。

 つまり力業である。


 そんなわけで順調に進んでいく建築作業は、ものの数日で人が住めそうなそこそこのログハウスを私の目の前に現出させていた。


「ふぅー。がんばったがんばった」


 自分で自分をほめたたえつつ、中に入る。

 がらんどうだが、内装はこれからこつこつ整えていこう。

 人に会えなくてもなんでも、生きては行ける。

 いつかは外の世界に出て、人間を捜しにいきたいものだが、今は自分の生存の確保の方がずっと大事だ。


 そうして私はその森の中で生活をはじめたのだった。


 ◇◆◇◆◇


 数週間が経った。

 今ではもう家の中は殺風景ではない。

 そこそこにものもそろっている。

 床には森の動物たちの毛皮で作った絨毯が敷かれているし、水場も魔導具を作ってガス水道換気扇完備のキッチンまでも完成させた。

 ベッドも日曜大工よろしく作り、その上にはやはり森の動物たちの毛を毟ったりして作った疑似羽毛布団のようなものが乗っかっている。

 食べ物は毎日ではないが、狩りをしたり、また家の前に家庭菜園的なものを作って森の食べれそうな植物をいくつか栽培しそれを収穫して賄っている。

 食べ残しやどうやっても食べれない生ゴミの類は、エコを重視して、入れれば勝手に生ゴミを分解してくれる菌を探し出し、それを容器につっこんでなんとかしている。即席生ゴミ処理機である。そして処理機にはいろいろ魔法をかけて、その効能を高めているため、生ゴミを入れて一時間もすれば完全な土へと変化しているのだ。

 それはそのまま家庭菜園の肥料となり、私の食卓を潤してくれている。

 なんてエコ。すばらしいエコ。


 そんな生活をどのくらい続けていただろう。

 それほど長くはない。

 家が完成してから一月も経っていない。


 そのくらいの時期に、ある日とつぜん、こんこんと扉をたたく音がした。


 たまに森で、人間のような生き物を見かけることは確かにあった。

 しかし調べるのは後回しになっていた。

 少し話しかけるのは怖かったと言うのもある。

 そんなことを思っていたら、向こうの方からやってきたのだ。


 私はその音にびびりつつも、ドアをノックするなどという文化的な行動にでるのは少なくとも知的生命体である何者かだろうという思考に行き当たり、そろそろと扉まで向かった。

 あまり足音を立てると人がいることがばれる。

 小屋がある時点でばれてるだろ、という気もしないでもなかったが、この場合はご在宅であることを知られるのがまずいのである。

 いざというときは居留守だ。

 そう思ってのことだった。


 そうして扉に近づき、これもやはり魔導具として作った、こちら側からしかのぞくことのできないのぞき穴に目をやると、向こう側にはおそらく人間と思われる人物が四人、立っているのが見えた。


 ただ、その格好は地球の物ではなく、どちらかと言えば、"勇者”たちのいた世界のものに近い。

 文明的にそっちのレベルに近いのだろう。

 まぁ、大賢者が指定して転移した世界だ。そうなるのも理解できる。


 ともかく、どうやら訪ねてきたのは人間らしい、ということがわかったので、私は扉を開けることにした。


 わざわざ扉をノックするような連中である。

 いきなり切りかかられたりはしないだろうと思っての行動だった。


「……おい、本当に人間が住んでるよ……」


 扉を開けると同時に、そこにたたずんでいた四人組の一人、非常に堅牢そうな鎧を身に纏った男が心底驚いたかのような顔で、そんなことを言った。

 それから気を取り直したのか、まじめな顔になり、言った。


「あー……初めまして。突然のことに驚いておられると思う。俺たちは帝国辺境都市ナードラ冒険者組合ギルド所属の冒険者であり、このたび煉獄の森プルガトリオ・ボスキに小屋が建築されたらしいとの報告により、その調査に来たものだ。少し、話を聞かせてもらえないだろうか」


 一息にそう言った男。

 男の話から、私はいくつか情報を得た。

 まず、人間がこの世界に存在し、ある程度の文明を築いているらしいこと。

 それは帝国、と言うような国を作るほどのもので、かつ辺境都市、というものを抱えていることからその規模は地球の国家に近いものであるだろうということ。

 さらに、この世界には帝国という国があり、また辺境都市ナードラという街があるということ。

 冒険者組合、という組織が存在し、それは都市一つに限ったものではなく、都市、もしくは国を跨ぐようなものであるということ。

 そして、この森、私の住んでいる森が、おそらくは煉獄の森プルガトリオ・ボスキと呼ばれているという事だ。


 そのどれもにどことなく危険性を感じるのは私の気のせいだろうか?

 そうだといいなと思いつつ、私は彼らを小屋の中に招いた。


「わかりました。とりあえず、どうぞ」


 言葉が通じるのは無理矢理そうしているからだ。

 思念を魔術的方法で変換し、受け取り、かつ相手にも送っている。

 つまり客観的に見れば、私と彼らは別の言語で会話していることになる。

 街に出ることを考えるなら、これは早いところ改善しなければならないだろう。

 彼らと話す中で、彼らの言語を読みとり、記憶に焼き付けようと考える。

 魔法を使えばそんなことも容易にできるのである。

 魔法は万能だ。

 すべては、大賢者と吸血姫の技術の賜だけども。


 ◆◇◆◇◆


 森に生育していた中でも比較的大きな木だっただろう切り株から削りだして作った部屋の中心に位置する丸テーブルの上に、ことりとカップを四つ置いた。

 どれも木製で、私手製の品だがそれなりに使えるものである。

 カップの中には私が家庭菜園で育て、実験し、飲んでも害がなく、また美味であると確認したハーブティーが入っている。

 すっと鼻に抜けるようなさわやかな香りがし、飲むと実際気分が良くなるから私は毎日飲んでいる。

 彼らもそれがおいしそうなものに見えたのか、それともただの社交辞令だったのか、カップにすぐに口をつけた。


「……おいしい!」


 彼等四人のうちの一人、妖艶な美貌をもつ魔術師風の女性――イヴォンヌと名乗られた――がそんな風に感嘆の声を上げた。

 ほかの三人も同じ感想の用で、口々においしいと言ってくれたので、私は満足する。


「これは一体どこで……?」


 輝く目でそう聞かれたので、素直に森の奥でとってきたものだと言った。

 するとイヴォンヌは驚いた顔で、


「森の奥にまで行ったの? ……それはまた。私じゃたぶんいけないから、自分でとってくるってわけにもいかないわ……」


 などと残念そうに言うものだから、森の奥に生育していたのは事実だが、今は家庭菜園をここでやっているので、すぐそこでとれるというと、


「それなら、少し譲ってもらえないかしら……? もちろんただとは言わないわ。あと、育て方なんかも教えていただけると……」


 と控えめに言うので、私は特にお金は必要なく、ただで譲ると言うともの凄く感謝された。

 その隣で会話を聞いていた耳の長い、おそらくはエルフと思われる少女と中年の神官風の女性も、同じく譲ってほしいとおずおずと言ってきたので、快諾する。

 それからはなんとなく打ち解けた雰囲気になり、つい話し込んでしまった。


 そのため、必然的に一人取り残されたような格好になった男が、しばらくして、


「そろそろいいか……?」


 とげんなりした顔で言い始めた頃には、もう外は黄昏時になっていた。

 

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