田圃の歌
たぶん今頃の田圃が好きだった
緑の稲はまっすぐ前を向き
背筋を伸ばして
ほぼ均等に整列していた
風が吹くと段々に流れ流されて
まるで波のように大きく畝って
緑の飛沫を弾かせながら
さわさわと稲のせせらぎ
空気は涼しげに伸びをしていたから
そこに思いっきり
飛び込んでみたかった
夜になると田圃ごとすっぽり
深すぎる真っ暗闇のなかに溶け込む
うすい月のしずくが稲を濡らす
昼間のせせらぎはやすらぎに
やわらかな匂いを風が注ぎ込んだ
田圃には蛙がたくさん住んでいて
まるで姿は見えないのに
全員が響きを揃えて
鈴なりのハーモニーで歌っていた
指揮者はウシガエルだった
合唱祭はきっと今頃真っ盛りだ