第七話
黒い霧は瞬く間に辺りを覆い尽くしていった。
「おい、第一の関門ってどういうことだよ。このかび臭せえ霧の後に何が起こる?」
そう言って龍司は、傍らにうっすら見える悟に尋ねた。
「大丈夫。最初の霧は、まあ言わば“威嚇”みたいなもんだから、じきに晴れるわよ。」
悟の言う通り、あれだけ真っ暗に立ち込めていたはずの黒い霧は、みるみるうちに晴れていく。
「ふーー。問題はこれからなのよねぇ。最初の霧の後、更に先へ足を進めようとする者。これは容赦なく黒い霧の魔力にかかってしまうのよ。」
「ホワッツ!?」
「何だって!?」(って、俺は通訳かよ。てか、こいつ今の日本語解ってんのか?)
龍司はダイアンを不審そうに見下ろした。そして気を取り直して、
「その霧ってのは、それ自体に意志みたいなものがあるのか。それとも誰かが操ってるのか。」
「“誰かが操ってる”のよ。その誰かは私達より身体は小さいわ。そうねー、丁度ダイアンちゃん位じゃないかしら。・・・変異生物だけどね。その変異生物自体には強い攻撃力や守備力はほとんど無いの。ただ、特殊能力がちょっと厄介。常に大きな壷を持ち歩いててね。そこからあの黒い霧を出すってわけ。」
「ふーん。で、その厄介な霧にはどんな力があんだよ。」
「敵を島のどっかに飛ばしちゃうの。もちろん、スタート地点から湖辺りになるだろうけどね。要は、奴は接近戦が苦手だから何が何でもこっちに近付けたくないってわけよ。そして、この辺一体は全て奴の領域だから私たちがいるところには必ず奴がいるはずよ。」
「じゃあ、こっちが先に奴を見つけ出して、霧が出る前に壺をぶっ壊せばいいんだよな。いや、待てよ・・・・・・奴の領域内にいる間はこっちが不利だろ。」
「ふふふ、安心して。秘策があんのよ。私に任せておきなさいって!」
「本当かよ!?」
「ええ、ほんとにほんとよ。ほら、時間が無いわ。早くこっちへ。」
そういうと、悟は道から反れた獣道を、背の低い木々を掻き分けながら進み始めた。
「ほォ〜らあ〜。早く来なさいってば!!」
悟が振り返り、ぐずぐずしている二人に向かって大げさに手招きしている。
「解ったよ。・・・お、お前も来るだろ?」(えと、確か英語で・・・・・・)
「イエ〜ス!」ダイアンはにっこり笑って龍司にVサインをした。
(こいつ、なんか引っ掛かるんだよな。そして・・・・・・前歩いてるおかまのおっさんもな。)
こうして龍司たち一行は、道なき道を歩き出した。
――お馬鹿な子猫ちゃんたち。こっちは奴のねぐらに通じる道なのよ。なんてたって、まだ私のアーティファクトを使うわけにはいかないからね。・・・・・・あの女に会うまでは!!