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求める先に  作者: 星葡萄
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第五十三話

音も無くシャオが地に降り立った。

表情は先程までとは違って硬い。


「ほう・・・。言うようになったのお、龍司よ」


龍司はいつもと違う只ならぬシャオの気をピリピリと肌で感じ取り、すぐさまいつでも戦闘に対応できるように身構える。


「どれ、この老いぼれを倒してみぃ!」


その瞬間、かっと紅いオーラが凄まじい勢いで燃え盛る炎の如くシャオの肉体から放たれた。

そのオーラが舞い起こした熱風は耶江と龍司の身体を容赦なく襲う。


「きゃああああ!!!!」

「くうっ・・・・!!!!!」


咄嗟に踏ん張るが、圧倒的な強風により、二人は数十メートル吹き飛ばされた。


(こ、このじじい・・・!!

今まではこれ程までの力をずっと抑えていたっていうのか・・・!!)


龍司はゆっくりとその場から立ち上がると、しかとシャオを見据えた。

メラメラと開放されたシャオの力は、常人なら近寄ることすらできまい。


「うう・・・・」

耶江がよろよろと身体を起こしている。

「な、なんてすごい力なの・・・!今、この場所に居る事自体私には耐えられない。

恐ろしすぎてこれ以上近寄れないわ・・・・」


「おい、大丈夫か?

恐らく、あのじいさんに太刀打ちできるのはこの世で俺しか存在しないみたいだ。

お前はなるたけ離れたところに避難してろ。」


ばっと後ろでに手の平を耶江に向けると、静かに下がれの合図をした。

耶江も無言でゆっくりとその場を離れる。







「さあ、どうした、かかってこんのか?」

シャオがここに来て初めて構えた。

足元の埃が気によって宙に浮いている。



「っせえ・・・!!行くぞ・・・・!!!」


龍司が重心を低くすると、弾丸のように突進する。

瞬時にアーティファクトを槍に変化させる。


「遅い」


ふっと風が巻き起こったかと思うと、シャオの気配が龍司のすぐ後ろに移動した。


「な、なに!?」


凄まじい蹴りが龍司の顔面に放たれる。

龍司の身体はぐんと大きく仰け反ると、勢いよく背中側に飛ばされる。

そのまま地面の上を砂埃を上げて回転しながら滑っていく。

龍司は槍を地面に突き立て、なんとかその反動で体勢を立て直すと、口腔内からの出血をぺっと吐き出した。


「アーティファクトを捨てろ。

さもなくば、先程の戦闘で疲労しているお前の身体では、ワシの速さには対抗できんじゃろ」

シャオが冷たく言い放つ。

「ちっ、舐められたもんだぜ。素手だって?そんな馬鹿げた子供遊びなんて

俺は望んじゃいない。あんたは命を賭けるが惜しくなったって訳か?」

龍司は鋭い目つきでシャオを睨みつける。

「ふ・・・、武器に頼るようじゃ、お前もまだまだじゃのぅ」

シャオはふっと口元を緩ませる。

「な、なんだと!」

ギリギリと侮辱されたことでの悔しさで、龍司は唇を噛み締めた。

「本物のツワモノというのは、武器よりも自分の肉体を使いこなすものじゃ。

自らの肉体は、鍛えようによれば、鋼のように強くもなり、時には人をも簡単に殺める程の凶器にもなりうる。武器は、その強靭な肉体を持たぬ者が作り出した、脆くも弱い代品ということじゃ」


ガシャンと音を立て、龍司が手から離した槍が地に落ちる。

そしてすぐにそれはもとの結晶に姿を戻した。


「素手で倒してみせる!」


龍司はがっと前後に足を開くと、再び構えた。

既に疲労は足にきている。

しかし、ここで負ける訳にはいかない。


「うおおおおおおおおお!!!!!!!」


龍司は大きく飛躍した。

拳を固め、シャオの頭上に回り込む。

が、シャオは難なくそれを手の甲で払いのけると、まるで会釈をするような仕草でくるりと反転し、もう一方の手で龍司の脇腹に一撃を加えようとする。

龍司はそれを寸でのところで交わし、その反動で頭突きを喰らわせようとするが、またもやシャオは息でもするかのようにほんの少し屈んで交わし、代わりに肘を龍司の肩に食い込ませた。


「ぐあっ・・・!!!!」


痛みでバランスを崩し、龍司は思わず声を漏らした。

既に息が上がり、止めどなく汗が滴り落ちている。

疲労はピークに達しており、その上シャオの強大な力に対抗する為、知らず知らずのうちに凄まじい程の体力と精神力を消費しているようだ。


「立て、龍司。お前の力はこの程度ではないはずじゃ。

このおいぼれに、真の力を見せてみろ」


「くっそおおおおお!!!!」


がむしゃらに再びシャオに向かって攻撃を仕掛ける龍司。

今度は真正面からではなく、高速でジグザグに走り込み、相手のふいを狙う手段に出る。


「遅い!!」


パシリと龍司の拳がシャオに簡単に押さえられ、龍司の動きはまたしても止められてしまう。


「ちっ」

舌打ちし、掴まれた手を薙ぎ払うと、再び攻撃態勢を立て直し、右足のハイキックを繰り出すが、シャオのたった二本の指だけでそれを押さえられてしまった。

いくら龍司が疲れているとは言え、ここまで勝ち残った者の蹴り、そう簡単に受け止められるものではないだろう。それを、この老人はいとも簡単に受け止めてしまったのだ。

それに、龍司は先程打たれた肩がひどく痛んだ。もしかすると、骨にひびが入っているかもしれず、状況はますます不利となりそうだ。


「・・・んでだ・・・。なんで俺の攻撃がアンタに一発も入らない・・・・?」


膝をつく形でがっくりとうな垂れた龍司がぽつりと溢す。


「ほお、その姿勢はもう勝負を投げ出したと見てよいのかの?

いつでもワシの攻撃を受ける覚悟がでいておるとな?」


シャオは背筋をぴんと伸ばし、いつものように髭を何度か擦る。

下を向いた龍司の額からは、ポタポタと汗が滴り地面を濡らす。


(俺は強くなっているはずだ、なのにどうして・・・?俺はじいさんに勝てないのか!?)


これ程までに挫折感を感じたのは何年ぶりだろうか、いや、ひょっとすると、これが初めてなのかもしれない。今まで、自分が世界で最も強くなれることを信じて疑わなかった。

それは体内に濃く流れるこの血からなのか、それとも、日々成長しゆく止めどない才能からなのか。しかし、その自信はたった今捩伏せられようとしている。

こんな逝き損ないの年寄り一人に手も足も出ない様なのだから。


「力を開放するんじゃ、龍司。

お前にも、ワシのように目に見える程の力が奥底に眠っているはず。

しかし、今のお前には迷いがあり、それを上手くコントロールできないでおる。

その迷いを今すぐ断ち切ることじゃ。

そうせねば、ワシには到底勝つことはできんよ。」


「な、なんだって?」


龍司には迷いの意味が理解できない。

自分の信念は強く、そして目指すものは既に決まっている。それなのに、シャオの言う龍司の迷いとは一体何なのか。


スタスタと屈み込んだままの龍司の前まで来ると、シャオは思い切り平手で龍司の頬を叩いた。

空間中に響き渡るような弾ける音。

龍司が驚くよりも先に、シャオは同じように両の頬を交互に何度も殴り始めた。

龍司の頬が赤く腫上がり、口内はあちこちが切れて血が飛沫する。


「今度はワシが攻撃する番じゃ。今のはほんの数パーセントの力に加減している。徐々に攻撃の手を強めていくぞ。」

シャオはそう言いながら、今度は拳を構え、龍司の背にそれを振り落とす。

しかし、それをなんとか腕で受け止めることに成功し、シャオと視線を合わせた。


「龍司よ、お前、優牙をその手で殺めたときに何を思った。

優牙と別れ、そしてこの地に訪れるまで、一体あやつに対してどのような思いを持っておった。ただの憎しみだけか?ただの軽蔑だけか?他に何も感じてこなかったのか?

血は繋がっておらんとは言え、幼き頃から共に育ったお前達だ。それに何も感じなかったというのか?」


シャオの攻撃の手は休まらず、次々と龍司に重い一撃を加えていく。龍司はそれを懸命に受け止め、なんとか急所を避ける形にはなっているが、段々と速く、そして強くなる攻撃に、もう限界さえ感じていた。

と、龍司は驚くべき光景を目にした。

シャオが止めどなく涙を流しているではないか。

その表情は本当に哀しそうで、そんな元師匠の姿を見るのはもちろん初めてのことであった。


「ワシは密かにお前達二人が以前のように元に戻ってくれることを期待し、見守ってきた。

じゃが、それは最悪の事態になり、優牙が死ぬこととなってしまった。

何もかもワシの力不足のせいじゃが、優牙はワシにとってお前と同じで孫同然じゃった・・・ワシがあやつを見込み、育て、確かに家族愛に似た感情を持っておった・・・」


シャオの拳に更に力が加わる。

攻撃を防ぎきれなくなった龍司の腹に大きくその一撃が入る。

その衝撃で龍司は飛ばされそうになるが、それをシャオが引っ掴み、そして続けざまに何度も攻撃を繰り出す。


「これが最後のワシの定めじゃ。お前が非情な人間で、優牙の死をなんとも感じていないようなクズなら、今ここでワシが責任を持ってお前を殺らねばならない・・・!!

お前が非情でなく、純粋な精神を持っておれば、自然と力は開放され、お前はワシに対することができるじゃろう」


シャオのオーラは怒りと悲しみで大きく渦巻いている。

龍司はダメージを受けつつも、心の中で何かを湧き上がらせていた。


「・・・・んな訳ないだろ・・・・!!

優牙を憎む・・・!?あったりまえだ、憎くて憎くて堪らなかったよ!

軽蔑・・・!?そんなもの日々感じていた!!

だがな、それはあいつがただ一人俺のライバルで、唯一俺を本気にさせる力を持ち合わせた男で、こんなめんどくせえ血なんてものに振り回されることなく、自由に生きてやがるのが羨ましかっただけで、一度も心から嫌いだなんて思ったことはねえよ!

あいつはただ一人の兄弟で、幼馴染みで、親友で、家族だった。

いてえよ・・・・、心が痛ぇんだよ・・・・・!」


半ば発狂したように腫上がった顔で叫んだ龍司の目は真っ赤に充血していた。


「・・・んでこんなことになっちまったんだ!

一体何が俺達をこんなにした?一体何が世界をこうしちまったんだ。

なんでこんなに皆が苦しんでもがいて、死ななきゃならない?

何もかも、この扉から始まったことじゃないか!俺がこんな扉ぶっ壊してやる!

こんな扉ができないように過去を変えてやる!

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


地鳴りのように龍司が吠えると、カタカタと地が揺れ始めた。

すると、龍司の身体から青白い煙のようなものが出始め、それはみるみるうちに全身を取り巻いて、青く燃えるような巨大なオーラと化した。その出現時に巻き起こった爆風で、シャオでさえも地に足をつけているのが必死であった。


(!!??)


「俺が世界を変えてやるーーーーーーーーーー!」


とうとう力を開放することに成功した龍司。たった今、シャオへの凄まじい反撃が今開始されようとしていた。そして、シャオだけは、自分の寿命が刻々と近付いていることに気付いているのだった。



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