第五十二話
「龍司・・・・・・とうとう終わったんじゃな」
「おじいさん?」
耶江が隣でぷかぷかと宙に浮いているシャオに目をやる。シャオのその年老いた眼差しは、更に暗い影を落しているようだった。
やがて二人の前に空間の歪みが生じ、中から龍司が飛び出してきた。
―――ドサッ
「いってぇ〜〜」
「龍司っ!」
耶江が静かに歩み寄る。
「待たせたな」
尻餅をついたままの龍司は、いつもと何処か様子の違う耶江を不思議そうに見上げた。
「あんたが勝ったのね」
「まぁ、な」
「・・・・・・」
「・・・・・・んだよ!?俺が勝っちゃ悪かったのかよ」
「ううん。ただ、いつかはこうやって敵として戦う事は解っていたつもりだったけど、まさかそれがラスト・カードにまで持ち込むなんて思ってもいなかったから。それに、100人・・・正確には101人だけど、その中で自分が残っているなんて何だか信じられないの。ふふ、なんか笑けてくるわ」
「は?」
「人を殺してまで叶えたいほどの夢なんて、あたしにはいらない・・・いらなかったのに・・・・・・なんで、あたしがここに居るのか解らない。いいえ、居ちゃいけないのかもしれない!!」
普段の冷静さを失って突然取り乱す耶江に、龍司は少々困惑している。
「おい。言ってる事が訳解んねえよ」
「・・・それに・・・・・・」
「?」
「あたしには何となくこれから先がどうなるのか解るのよ。だからこそ、自分のしてしまった事がいっそう馬鹿らしく無意味に思えてくる」
「これから先、だと?」
「ええ」
「これこれ、そこのお二人さんよ。話はとりあえずそこまでにしておいてくれんかの。まだ、お前さん達の闘いは終わっちゃおらんじゃろ。やるのか、やらんのか、どうするのかね?」
シャオが二人の話を遮る様に言った。
「あたしは棄権するわ」
「へっ!?お前・・・本当にそれでいいのかよ」
「もうこれ以上、過ちは犯したくないの。まぁ、あたし自身の戦闘意欲が全く欠如してしまった事もあるんだけど。おじいさん、それでも構わないかしら」
「ああ。構わんよ」
そう言って、シャオは頭をぽりぽりと掻いた。
―――龍司。これから先は、あんたに任せたわ・・・どうか・・・お願いよ!!
龍司は、さっき耶江が“この先が解る”と言っていた事をもう一度思い返していた。
(耶江、お前も・・・・・・)
「では龍司よ。お前の願いを言ってみなさい」
「俺の願いは・・・・・・俺の願いは、じいさん。あんたをぶっ倒してこの異界へ繋がる扉もぶっ潰す。んでもって、こっちの世界と異界との繋がりのすべてを断ち切ることだ!!」
―――俺が望むのは、扉の向こうじゃない。むしろ、扉の出来る前だ。 そう、何からの干渉も受けない俺たちの‘本当の現在’を取り戻すために。