第四十九話
「耶江ちゃん。やはり僕らは運命の赤い糸ってやつで結ばれているようだね♪」
「―――――!?
あんたかいっ!!! それにしても、うぅぅ・・・さ〜〜むっ!」
耶江とキーファは、氷のフィールド上に飛ばされていた。頭上にはオーロラがカーテンのように舞い、気温はおそらくマイナス20度は超えているだろう。しかし風は無く、その他は落ち着いた環境ともいえる。
「ちょっとホントあのおじいさん、一体どういうつもりなわけ!?あたしたちの格好、完璧に夏仕様よ?こんなの勝ち負け以前に凍え死にしちゃうわよ」
「大丈夫さ、耶江ちゃん。僕らの愛は厚い氷の城壁さえ一瞬にして溶かしてしまうのだから。 なんなら僕が今すぐ君を抱きし」
「さぁーーてと!! さっさと二人とも凍え死ぬ前にケリつけようじゃない」
「・・・相変わらずつれないなぁ。僕としては、やっと君と二人きりになれたこの空間を一分、一秒でも長く味わっていたいというのに・・・・・・。まあ、そのクールなところがまた堪まらなく好きなんだけどネ」
キーファは美しくそしてどこまでも完璧に笑った。その笑顔はまるで道化師そのものだ。
「完璧な笑顔のマスクをとった道化師って、いったいどんな顔してんだろうね」
耶江はキーファを睨みつけるようにじっと見つめながら呟いた。
「きっとまた同じ顔をしているさ。どこまでも、ね」
「・・・・・・」
「んっ?もしかして耶江ちゃん、僕に密かな興味を抱いてくれているのかな?」
「まさか。ただ、あんたのそのあたしの事を好きな“フリ”を黙って聞いてんのが、ものすごく嫌なだけ。あたしがそれに気づいてないとでも思ってたの?」
「君は何でも全てお見通しなんだね」
「あんたを見てると昔の自分を思い出すのよ。ほんと見てられないくらい」
「それはそれは! 光栄なことだね〜♪」
「ふん。そろそろふざけるのもいい加減にした方がいいわよ。これは最終警告」
「・・・了解☆」
キーファは、やはり先程と全く同じ笑顔を浮かべながら答えた。
―――――ただね、耶江ちゃん。君に惹かれていることはどうやら嘘ではないみたいだ。
「あたしは今まで極力無意味な争いは避けてきた。けれど、今回だけはさすがにそうはいかないものね。あたしにだって、他の誰にも譲れない願いはあるから」
耶江は自分自身に言い聞かせるように言った。
「正直、僕の願いは君ほど強いものではないかもしれないな」
「・・・キーファ、願いの大きさを比べることなんて出来ないわ。何に対しても執着を見せなかった筈のあんたでも、自らの手で勝ち取りたい願いがあるからこそ此処まで来たんでしょ!? それだけで十分よ。 だから、ごちゃごちゃ言ってないでお互い全力で闘いましょうよ。こんな悪条件の中よ。とにかく時間が惜しいわ」
「ああ。本気でいこうか」
耶江は結晶を取り出して、白木弓のアーティファクト・重清永に物質化させた。
「多分、私が今考えてる事とあんたの考えてる事、同じよね」
「だろうね」
「一発勝負」
「ああ」
「私の白木弓・重清永の一発とあんたの中国気孔術・遠当ての一発。この一回ポッキリで必ず勝敗を決める。正直、今の時点で既に指先の感覚が失い始めてるんでね」
耶江は苦笑しながら、重清永を構える。
「それは僕も同じさ」
しかし、キーファは構えをとらない。
「耶江ちゃん?」
「なによ」
「合図の方法、決めて無かったね」
「・・・・・・あっ」
「君らしくないミスだね。 では、こうしよう。今僕が手にしているこのコインが地上に落ちた瞬間が合図。これでいいかな」
「ええ、そうしましょう」
耶江の同意を受け、キーファはコインを持った手を前へと突き出した。
「では、準備はいいかな」
「ええ」
耶江は弓をぐぐぐと引いた。
「では――――――」
ピンッ!!
回転するコインは上昇しながら宙を舞う。そして、ひゅるひゅると落ちていく―――――
弓を放つ耶江。
「―――――――――――!!!!!!」
矢が目指す標的、キーファは、ただ、立っていた。そして、今まで見せたことの無いような、穏やかで柔らかな表情で笑っていた。
それは紛れもない、道化師のマスクをとった本当の顔だった。
「ちょっ、キーファ!? 何の真似よ!! 避けろ!!!」
「耶江ちゃん、僕は君を殺せない。僕が君を殺して仮に人間になれたとしても、じゃあ、いったい誰を愛せばいい? ほんと、馬鹿みたいだな。そんな事にも気付かなかったなんて。 僕が今、此処で消えることはやはり運命だったんだ。君に殺されて本望だよ」
―――――ありがとう
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!!!」
耶江○―×キーファ(耶江の勝利)