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求める先に  作者: 星葡萄
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第四十七話

 龍司が飛ばされた空間にいたのは、悟だった。

「いきなりヤバイのに当たっちゃったわねぇ」

 悟が開口一番に放った言葉がそれだ。

「退いてくれるんなら、こっちは有難いけどな」

 アーティファクトの結晶を右手で持ち、龍司は言った。

「どうしようかしら……」

 考える素振りを見せる悟を、龍司はただ見ているだけだ。相手の決断を待つかのように。

「一つ、聞いていいかしら?」

「ん?」

「あなたの願いは、何?」

 悟が問う。

「何でそんな事を聞くんだ?」

「私が、自分の願いとあなたの願いを天秤にかけてみたいのよ」

「天秤にかけてどうするんだ?」

 天秤にかけるとはいえ、それが個人的なものであれば、公平とは言い難い。余程のものでない限り、傾きが大きいのは自分の願いに決まっている。

「勝ち目の無い戦いっていうのはしない主義なのよ。まぁ、始めから負けるなんて思っちゃいないけどね。やっぱり、怪我はしたくないでしょ?」

 呆れたように頭を掻く龍司に構わず、悟は続けた。

「私の願いは、私が完全な人になる事」

「人に?」

「もう、気づいていると思うけれど、私やダイアンは純粋な人間じゃないのよ。だから、生物学的にも人間ではないのよね」

「それで、人間になりたいのか?」

「そういう事よ。れっきとした人間になって生きて、そして死んでいく事が私の望み」

 人工的に生み出された人間の紛い物ではなく、自然に生まれた人間と同等の存在になる。それが悟の望みだった。

「あなたの願いは?」

「俺は……」

 悟の問いに、龍司は返答に迷った。

「俺も、あんたと同じだった」

「同じ?」

 驚いたように聞き返す悟に、龍司は頷いた。

 純粋な人間でないという点で言えば、龍司も悟と変わらない。異界の血を消すという事が、参加した理由だった。そこにシャオが関わっている事も承知の上で。

「それで、天秤にかけて、どうだ?」

 明確な説明を一切せずに、龍司は悟に問う。

 自分の出生について深く語る事ができるほど、悟は龍司と関わっていない。敵でも味方でもないとすら思っている。

 戦わなければならないのなら、それも仕方のない事だ。

「私と同じ、という言葉を信じるのなら、ちょうど公平なところだと思うわ」

「そりゃそうだろ、願いなんて、その人にとっての一番なんだからな」

 苦笑して、龍司は肩を竦めた。

「じゃあ、やりましょうか」

 言い、悟るが地を蹴った。

 悟の靴がアーティファクトの武器へと変化し、刃を形作る。

「最初から全力で行くぞ」

 それだけ告げると、龍司は左手にもアーティファクトを握り、武器へと変化させた。

(俺の力、使ってみるか!)

 今まで龍司の中に存在していた、異界の力。この企画に参加してから、異界の扉に近づくに連れて少しずつ存在感が大きくなっていた。

 浅い部分ではあれど、異界の中でその力は更に大きくなっている。

 この場所であれば、異界の力を扱う事ができるかもしれない。

 アーティファクトの槍を両手に形作ろうとした瞬間、アーティファクトが脈動するかのように光を放った。

「えっ!?」

 悟が足を止め、後方へ跳んだ。

「さすが自称忍者、鋭いな」

 龍司が少しだけ笑う。

 脈動したアーティファクトは、龍司の腕を覆うように物質を構築していった。今までに見た事のあるアーティファクト同様に、機械的というよりは生物的な、神秘的な鎧へと変化していく。右腕と左腕を覆うようにアーティファクトは鎧を構築し、停止した。

 鎧に覆われた両掌に光が収束し、槍を形作る。

 その槍でさえ、第二段階のものとは違っていた。柄は龍司の身長と同等とも言える程に長く、塚尻には二段階状態で形成されていた槍の刃が形作られている。柄の先にある刃は大剣とも言えるレベルの巨大な刃が付いている。それでいて、重さはほとんど感じない。

「第三段階があったっていうの……!?」

 悟が目を剥いて呟いた。

「行くぜ……」

 それだけ告げると、龍司は駆け出した。

 悟が距離を取ろうと退いた直後、龍司はその背後に着地していた。身体が空間を跳躍し、一瞬のうちに悟を追い抜いている。

 今までに一度もした事の無い動きに、しかし、龍司は自然に使いこなす事ができていた。

 普通なら距離感覚が狂ってしまうだろうと思ったが、そんな様子はない。身体の平行感覚や距離感は正常で、身体に異常もない。

 力を発揮しているためだ。

 自然と、理解できた。

「なっ!?」

 龍司に気づいた悟が振り向きざまに回し蹴りを放つ。それを龍司は腕で受け止めた。

 刃は腕を覆う装甲とぶつかり合い、火花を散らす。蹴り自体の衝撃もほとんど感じず、龍司は強引に腕を払った。

 いとも簡単に悟が吹き飛ばされる。

「このっ!」

 空中で体勢を整えて着地した悟が再度立ち向かってくる。

 放たれたハイキックに、龍司は槍を振るった。

 悟の足の裏に仕込まれた刃に、龍司の槍が命中する。

 水晶が砕け散るような、甲高く澄んだ音を立てて、悟のアーティファクトが破壊される。

「――そんな!?」

 槍の振るわれるベクトルを受けて悟が吹き飛ばされる。

 悟の背中が地面に着いた時には既に、龍司はそのすぐ脇に移動していた。

「まだ、続けるか?」

 槍の塚尻にある刃を突き付け、龍司は問う。

「私の負けね……」

 諦めたように目を閉じ、悟は言った。

「元々、私は自分の意思で生きれれば良かったのだから、願いは半分叶ってるしね」

「……そうか」

 龍司はアーティファクトを結晶に戻しながら相槌を打った。

「ゼロの組織は、今回の事で崩壊するでしょうし、TDCも終わりだと思うわ。なら、私やダイアンは自由に生きていける」

 仰向けに倒れたまま、悟はどこか清々しい表情で語った。

 黙ってそれを聞きながら、龍司は第二回戦へと移るのを待つ事にした。


 龍司○―×悟(龍司の勝利)


 *


 優牙の目の前に立っていたのは、ナイアだった。

「僕の相手はお前か」

 優牙は右手に剣を作り出し、ナイアを見つめた。

「よろしくッス」

 ガントレットを手に作り出し、ナイアが構える。

 互いに睨み合うように、数秒の間双方動かずにいた。

「何か話す事はないッスか?」

「お前に語る事など無い」

「あ、そうッスか」

 少しだけつまらなさそうに、ナイアはため息をついた。

「じゃあ、やるッスか」

「ああ」

 ガントレットを突き出して加速するナイアへ、優牙が駆け出した。

 優牙が水平に剣を振るい、衝撃波を刃へと化して打ち出す。それを見て取り、ナイアは拳を衝撃波に叩き付けて相殺した。

「少しはできるな」

「当たり前ッスよ。ウチは優勝目指してるんスから」

「なら、僕も全力を出そうか」

 優牙の言葉に、ナイアが眉根を寄せた。

「全力ッスか……?」

「ああ、全力、だ……」

 距離を取り、優牙は右腕に巻かれている赤いバンダナを解いた。

 そこには、奇妙な紋様が刻まれていた。丁度、バンダナで隠し切れる幅で描かれた、リングのような紋様。それが光を帯びる。

「出でよ!」

 優牙が告げた瞬間、頭上の空間に歪みが生じた。水面に広がる波紋のように、波打つ空間の歪みから、異形の存在が現れる。

 獣のようでいて、その全身には奇怪な紋様が刻み込まれ、鼻や目などの、顔に存在するであろう器官の全く無い生物だった。ただ、その腕には鋭利な刃が伸びている。

「な、なんスか……!?」

「異界の生物だよ。龍司と戦う時までとっておきたかったが、お前とまともに戦ったら僕の体力も少し減ってしまいそうなんでね」

 不敵な笑みを浮かべ、優牙は言った。

「それに、この力がどれほどのものなのか、見ておきたい」

 優牙の両親が使ったという、異界の存在を呼び出す能力を、優牙は体得していた。異界の血が混じっている龍司を倒すために、優牙が考えた秘策だ。

 能力を使うために契約を結んだ証が、腕の紋様だった。

「やれ」

 優牙の言葉が放たれるや否や、異形の獣はナイアへと突撃していった。

 ナイアのガントレットの速度と同等か、それ以上の速度で接近する獣へと、拳が振るわれた。横合いから打ち付けるように叩きつけられた拳に、獣が吹き飛ばされる。

 だが、吹き飛ばされた獣に外傷はなく、直ぐにナイアへと向かっていく。

「わっ!?」

 振るわれたつ爪をガントレットで受け止めるも、今度はナイアが吹き飛ばされた。

(流石に、異界の技術を用いているアーティファクトはそう簡単に破壊できないか)

 ナイアと獣の戦いを眺めながら、優牙は獣の戦闘能力を分析していた。

 優牙が望めば、もっと強力な存在も呼び出す事ができる。だが、そのためには体力を大きく消耗してしまう。今呼び出した存在ではそれほどの疲労はない。だが、それでもアーティファクトに対抗し得るだけの力にはなるようだ。

 優牙は獣とナイアが距離を取った瞬間に衝撃波を放った。

「にょわっ!?」

 衝撃波で吹き飛ばされたナイアに、獣が追撃を仕掛ける。ナイアは空中で獣の攻撃をガントレットで受け止めた。だが、地に足が着いていないために踏ん張る事ができず、弾き飛ばされる。

 そこへ、優牙が剣を投げた。

 ガントレットを嵌めた右肩へと、剣は突き刺さった。幅広の大剣はナイアの腕を貫くだけではなく、切り離していた。夥しい量の血が辺りに飛び散り、ナイアの顔すらも半分を塗らしている。

「いっ――!」

 声にならない叫びを上げるナイアへと、獣が飛び掛る。

「ま、参った! 参りましたぁー!」

 半ば絶叫するようにナイアが叫ぶ。

 その瞬間、獣とナイアの間に見えない壁が生じた。獣だけが壁に弾かれて吹き飛ばされる。

「ちっ、シャオか……。余計な事を……」

 優牙は忌々しげに吐き捨てる。

 参った、とナイアが宣言したために、彼女の安全を確保したのだ。

「もういい、戻れ」

 優牙が告げた瞬間、異形の存在は霞み、消失した。

 そうして、そこにはただ立ち尽くす優牙と、腕を押さえて身悶えるナイアだけとなった。


 優牙○―×ナイア(優牙の勝利)

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