第四十五話
出遅れた・・・!!!
「待てぃ!!!!!!!!!!!!!!」
低くしわがれた声がその場を征する。
「ちっ」
せっかくの好調な出だしを只ならぬ殺気とも呼べる気配によって静止させられた優牙が小さく舌打ちをした。
「んだよじじい!どこまでも僕の邪魔をしやがって!
いい加減ぶっ殺されたいか!?」
ふと全員が目線を上に上げると、そこには座禅を組むような格好で、シャオがフワリと宙に浮いていた。
「い・・・いつの間に・・・・。」
早瀬理露、もとい耶江が思わず溢す。
優牙は憎しみの篭った鋭い目をシャオに向けるが、一方、彼の方ではそれを気に留める様子も無く、静かに呼吸を整えるかのように話した。
「いいか、この神聖な場所で醜い闘いをするでない。
確かに、この扉を開くにあたって、ワシの力が必ずや必要となろう。
いや、正直に言うと、龍司、お前にも血を受け継ぐ者として、十分にその力はある。」
「なにっ!!??」
その言葉を聞き、優牙が激しく龍司を睨みつける。
(馬鹿なっ!こいつにこの扉を開く力があるだと!?
笑わせるな、今ここで僕が血筋だの能力だのってのが、僕の強さの前では何の意味も持たないことを証明してやる・・・!!!!)
「しかしだ、この門番としての勤めとして、ここでの醜い争いは見過ごす訳にはいかんのじゃ。よって、ここからはワシの言う通りに戦闘していただこう。」
「じょ、冗談じゃないッスよ!目の前に敵がいるんッスよ!?
こんなところでもたついてられないッス!!」
ナイアがガンレットを目前に構えた。
瞬間、ビリビリと痛い程の殺気が張り詰める。
相変わらず穏やかな表情をしているものの、シャオの身体からは目に見える程の物凄い殺気に満ちたオーラが放たれている。それは、言い換えるならば、まるで青みを帯びた炎のようだ。
「な・・・・!!!」
その場にいた全員が、まるで金縛りにあったように身動きすら取れない。
(ま、まさか、このジジイ・・・・これほどまでだったとは・・・!!!)
「ふぉふぉふぉ、まあそう慌てるでない。
いいか、今のワシの力を持ってするとここにいる全員を永久に異次元に閉じ込めてしまうことすら容易いこと。馬鹿な真似はよすことじゃ。」
そう言い終わると同時に、シャオから放たれた殺気は嘘のように姿を消した。
ただ、先程と変わらず穏やかな表情で宙に浮いているのみ。
「よしわかった、じいさん。話を聞こう。」
最初に口火を切ったのはやはり龍司であった。
ここでどう足掻いても無駄と察したのか、すぐさま自分の槍を元のアーティファクトに戻す。
「ふむ。よいか、よく聞くがよい。」
そう言って、フワリと地に降り立った老人は、どう見ても先程の強大な力を持ち合わせているようには見えない。
「この扉は、さまざまな次元へと繋げる入り口にすぎぬ。
まずはこの狭き場所でこれだけの人数。それも激しい戦闘はこの古くなった建造物、いや島自体に悪影響を及ぼし兼ねん。
よってワシの力を持って、この扉から闘いの場として相応しい空間へと誘おう。
ついてきなさい。」
優牙、ゼロ、キーファを覗いた全員は顔を見合わせる。
シャオが扉の前に両手を添えた。
シャオの手から先程の青いオーラが電流のように伝い、扉に伝導していく。
次第に蒼く発光し始めた扉は、ゆっくりとその口を開き始めた。
「と、扉が・・・!!」
悟とダイアンが目を丸くする。
「さあさ、遠慮することはない。
何も獲って食おうなんざ思っておらんよ。時間が惜しいのならワシの後に続くことじゃ。」
振り返りもせず扉にすいこまれるように消えていったシャオの後を皆が恐る恐る追う。
(眩しい程の光、これが異空間へと通じる道筋なのか・・・・??)
「・・・・ここは・・・・・・?」
師をよく知るコワルスキーでさえ、一体何が起こったのか理解できないでいる。
地は果てしなく石のブロックが敷き詰められ、空は灰色で、正に止まった時間の中にいるようだ。
「ここはワシが創造した空間じゃ。
思う存分に暴れてもらっても構わんぞ。」
それならばとばかりに舌なめずりして武器を構える優牙をまたしてもシャオが遮った。
「こら、人の話は最後まで聞くものじゃ。」
ぐっと優牙の手が止まる。
「いいかね、ここにクジを用意した。
一人一枚引き、トーナメント制で挑んでもらおう。
・・・・・というのは、ワシの寿命もそう長くはない。
やはり跡継ぎとしては何より強さを求めたいと思っておる。
じゃが、ここでむやみやたらと殺し合いをされては、ひょっとすると全員が相打って死する可能性も十分にある。そうすると、ワシとて都合が悪いのでな。」
「すまないがご老人、それは決勝で勝った者が門番としての権利を与えられるという風に受け取れるが?」
パウザが初めて口を開いた。
「まあ、そういうことじゃ。
もちろん、権利を持った時点で、それを使ってどのような望みを叶えるかも自由。
それが例えどのような内容のものであってもじゃ。」
コワルスキーがはっとした顔でシャオを見る。
「どういうことですか!?
それがもしこの世界や扉の向こう側の世界を破滅へと導く結果になってもいいということですか!?」
シャオが間髪入れずに珍しく厳しい口調で言った。
「コワルスキーよ、お前は何か勘違いをしておる。
いいか、もしこの扉の番人としての権利を邪な者が手に入れるとすれば、それは今まで世の人間がそのような者を見て見ぬ振りして過ごしてきたつけじゃ。
そんな世界はいっそ潰れてしまえばよいとは思わぬか?」
「う・・・・。」
ゆっくりとそこに佇む全員の顔を見渡しながらシャオは続けた。
「ここ数年、このような世界を前にし、ワシは大きな疑問を持っておった。
なぜこのように荒んだ世と世を懸命に見守る必要がある・・・・?と。
これはちょうどそのいい機会かもしれん。」
(ただし、誠の信念を持ち、真の魂を持つものが、きっと勝ち残ることを信じたいというのも本心じゃがのう・・・。龍司よ、一度ワシの元を去ったとは言え、お前には十分にその素質はある。ここでその力をこの老いぼれに見せてみよ。)
シャオはの眼差しは一瞬龍司を捕らえたが、すぐさまそれは何事も無かったかのように離れた。
(じ・・・じいさん・・・・?)
「はてさて、これ以上の長話は無用じゃ。
くじを引くがよい。」
シャオがどこからともなく紙の箱を取り出す。
一番近くにいた優牙を先に、それぞれ紙箱の小さな穴に手を入れ、折り畳まれた紙を取り出していく。
「あのさ、ちょっと疑問に思ったんだけど、扉を開く力って、あんたの血を受け継いでないと無いんじゃなかったかしら?」
悟が紙を開きながら言った。
「心配には及ばん。勝者には、ワシが最後に一度だけ好きな次元、好きな空間に扉を繋げてやろう。そのときに、過去に少々細工すれば、誰でもこの力を持つことは容易いこと。
さて、クジは皆の手に渡ったみたいじゃの?」
そういうと、シャオは再びどこからともなく大きな紙を取り出し、トーナメントの表をさらさらと書き上げていく。
「はてさて、困ったことじゃ。ここにおる者は残念ながら奇数。
一人一戦多く闘ってもらうことになりそうじゃ。」
「ま、待ってください。私、闘えます・・・!闘わせてください!」
そう懇願したのは、先程まで抱き抱えられていたサマンサであった。
「ふむ・・・、しかしその身体では無理ではなかろうか?」
シャオは髭に手をやると考え込む。
「お願いします・・・!どうしても、兄貴をこの手で助けてあげたいんです・・!!
兄貴が死ぬなら、私も一緒に死ぬだけ・・・・!!」
無言のままシャオは筆を持ち、さらさらとトーナメントの表を書き込んでいく。
「シャオ・リュウ!お願いしますっ!!」
キーファvs耶江
ナイアvs優牙
悟vs龍司
パウザvsコワルスキー
ゼロvsダイアン
トーナメントの土台ともなる図にこの組み合わせを書いたところで、シャオはふと手を止めた。
そして続けてこう記した。
ウィルvsサマンサ
「では、初戦を始めるとするかの!
ルールはいたって簡単。どんな手を使ってでもよい。
相手を倒すことじゃ。
ただし、相手が参ったを言った場合、もしくは戦闘不能と見なした場合、ワシはすぐさまその闘いを止めるだろう。そこだけはしかと覚えておいてくれ。」
シャオのいつになく真剣な声で、いよいよ激しい闘いの幕が上がるのだった。