第四十四話
ウィルの身体を借りたコワルスキーの父は、周囲をアーティファクトを手にした龍司達によって囲まれ完全に四面楚歌となっていた。
「わ、わかった!今からこの扉を開けるためのエネルギー出力をいっぱいにする。だから命(仮の身体)だけは助けてくれぇ!!
(―――ゆ、優牙の馬鹿はまだかぁぁぁ!!)」
「無様な姿だな。そうまでして此の世に生き永らえたいとは・・・我が父という事が恥ずかしい」
「よしっ!そうと決まれば、ぐずぐずしてないで早く準備に取り掛かってちょうだい。(一応あいつの身体はウィルなんだし、もし傷つけでもしたら・・・・・・)」
耶江は、ちらりとサマンサの方を見た。
「兄さんがもう死んでいたなんて・・・嘘よ・・・今、目の前にいるのに・・・あれは兄さんよ・・・信じない、絶対信じないわよ・・・・・・ううぅっ」
サマンサは再び崩れ落ちるように地面に座り込んでいた。周囲の者にはかけられる言葉が無かった。しかし、耶江は何の躊躇いもなくサマンサの方へ歩み寄っていき、その痩せ細った身体を優しく包み込むように抱きしめた。
「ごめんなさい・・・サマンサ。あなたの気持ちを考えないで・・・。でも大丈夫。あの扉を開ければウィルを蘇らせる事だって出来るわ。きっと!ウィルはあなたに会える事をいつも心から願っていもの。あなたを独りにして先に逝くわけないわ」
「・・・ありがとう・・・耶江さん」
龍司は、耶江の今まで見せたことのない意外な一面に少し驚きつつも、先程のウィルの行動をもう一度思い返していた。
(本当にウィルは死んだのだろうか。妹のサマンサを目の前に、あの尋常ではない動揺の仕方。コワルスキーの父親に演技出来るとは俺にはとても考えられない。もしかすると、ウィルの意識自体はまだ残っているのかもしれないな。
とにかく、全ての答えはあの扉の向こうにあるはずだ。今はそう信じるしかないんだ・・・・・・)
そして、ウィル、いや、コワルスキーの父は、龍司にアーティファクトを突きつけられたまま、ゆっくり電波発生装置へと歩き出した。と、その時――――
「うわぁぁぁぁあ!!」
突然、龍司達をピンポイントに襲った衝撃波によって、コワルスキーの父は電波発生装置から遠ざけられるように後方へと吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。一方の龍司は、アーティファクトをすぐさま実体化させ槍を地面に突き刺したので、なんとか持ち堪えた。さすがの龍司も突然の不意打ちにこれが精一杯だった。
「おいおい。勝手に事を進めてもらっちゃあ困りますよ、コワルスキー博士?まさか、契約をお忘れではないでしょう」
「優牙!!!」
そこには、大きな剣を右肩に担いだ優牙が不敵な笑みを浮かべ立っていた。
「ふん、随分と手荒いお出ましだな」
龍司はパンパンと手で砂埃をはたきながら立ち上がった。
「悪りぃ悪りぃ。シャオのクソじじいに僕の計画を邪魔されたもんだから、少々気が立っていてな。力の加減を間違えてしまったよ。そして、コワルスキー博士。先程のご無礼、お許し下さい」
優雅は龍司の方を向きながら皮肉たっぷりに言った。
「・・・ふん」
「それでは、始めようじゃないか!人類で最初に異界へ足を踏み入れるたった一人を決めるためのラスト・ステージを!!そして、ここが僕を除く貴様ら全員の墓場だ!!!」