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求める先に  作者: 星葡萄
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第四十三話 

 龍司の言葉に、皆押し黙ったままだった。苛々した龍司は更に怒鳴る。

「おいっ! みんな、この扉の先に行きたくないのか! だまってちゃ、困るんだよ! もっと情報が欲しいんだ!」

 このままでは、優牙に先を越される……。龍司は焦った。


「んじゃ、言ってもいいわよ、わたしの正体を」

 腕組みし、不敵な様子の耶江が口を開いた。

「おぅ! 耶江か、聞こうじゃないか、お前の正体。どうせお前は、ただ者じゃないと思ってたんだぜ」

「ふん! なにさ、龍司! わたしに負けたことがあるくせに」

 耶江は腕を解いた。

「その代わり、この扉の向こうには、全員連れて行くと約束するんだよ!」

「全員!? ま、いいか。その内に同士打ちするだろうからな」

「うっせぇ! じゃ言うわよ、本当のこと」

 耶江は一息飲み込んだ。


「わたしは……TDC会長早瀬の一人娘、早瀬理露。三国耶江というのは、母方の苗字を取っただけさ」

「ぅええええええええええ〜〜〜〜〜っ!!」

 全員が唖然として叫んだだけだった。


「うう。だからあんなにも量子コンピューターに詳しいんだ」とパウザ。

「やっぱり……。だからこんなところに来たってわけか」とウィル。

「へん! 目的は何なのさ、お嬢様?」とダイアン。

「あれぇ〜、あんたの目的は? それって、お父様に対する復讐とか?」と悟。

「だからあんなにおっかないッスか。やっぱ、血は争えないっスね」とナイア。

「あらかた、そんなことだろうと思ったが、ボクとしたことが、うかつだったな」とコワルスキー。

「なんか、ガックリ……」とキーファ。


 全員が口をあんぐりと開けている中で、龍司だけが不気味な笑みを浮かべていた。

「それで三国耶江、もとい、早瀬理露。お前の真の目的は?」

「父はまだ少女だったわたしを、アフリカの某国の軍隊に入れたのよ。その後大学に行っているその間、母は父の秘密を知ったから、殺された。だから、わたしはあの扉の先に行って、死んだはずの母を捜し、そして父を滅ぼしてやる! 誓ったんだ!」

「うぐっ。だから、あんなに軍隊や武器のこと知ってるはずだよな〜」とナイアがぼやいた。


「わたしは父の弱点を知っているから。だからここに志願した。ま、三年前はわたしが未熟だったから失敗したけどね。今度こそ、あいつとそしてあのコンピューターを滅ぼしてやる! そしてやっとここまで辿り着いた。ご満足、お馬鹿な龍司?」

 コワルスキーとサマンサは、ちらっと耶江を盗み見た。意気がってはいるものの、耶江の言葉には、龍司に対する特別な思いが微妙に感じられたからだ。と同時に、コワルスキーはパウザの方にも一瞥を与えた。


 パウザは見えない目でコワルスキーの方を見ていた。微かに殺気が感じられる。パウザ=ジョシュアはこの扉の秘密が明かされたら、自分を殺すに違いない。それでもいいか。そうなれば、ゼロも共に死んでしまう。第二のコワルスキーにはならない内に、ゼロを抹殺できる。

 けれどもコワルスキーは、ゼロが優牙を愛していることには思い至らなかった。


「早瀬の弱点って?」と悟が聞く。「一体なにさ〜、それって?」

「父はね、不治の病に掛かっているの。だから、一刻も早く“永遠の命”を欲しがっているのよ。それともう一つ。父の息の掛かっているスパイがここに居るわ。だけどそいつはネット配信をして、父を騙そうとしているのよ。父の秘密をばらすことで、自分に利益があるから」

「誰だ! そいつは」

「みんな、分かっていると思ったのに。全員アホ面だけど、やっぱり本物のアホだったのかぁ」


 そこに居る全員が互いに疑心暗疑になって、目を見交わしていた。

「さぁ! そのスパイ、名乗り出なさいよ! わたしだって、ちゃんと名乗り出たじゃないのっ! 嫌なら、わたしがばらす!」

 長い沈黙があった。


 そして一つの影が動いた。

「ばれちゃったか。ま、仕方ないなぁ〜」

 それはウィルだった。

「さっすが、耶江。俺がサマンサの実の兄ではないってことを、よく見抜いたな」

「だって……本物のウィルはわたしの腕の中で死んだんだもの。そのとき、ウィルは知っていることを全部話してくれた。この扉のことも、そしてネット配信のことも! 本物のワルはあんたよ! そしてね、コワルスキー、よく聞いて。

 あんたの父親は、TDCの地下のマスター・コンピューターの中に脳波だけで存在しているけど、その脳波とこいつとは繋がっているんだ! お分かり? 間抜けな科学者さん。天才科学者なんて、笑わせるじゃない!」


「それくらい知ってたさ」とコワルスキーは奇妙な笑いを見せた。

「ただ、誰と繋がっているかは分からなかったが、君のおかげで何もかも分かったよ。ありがとう!」

「そうか、指示をしていたのはお前か、ウィル」

 龍司も朗らかに笑い出した。ウィルだけが引きつった顔をぴくぴくさせている。誰もがアーティファクトを握り締めて、ウィルにじりっじりっと近寄った。


「さあ、言って、あいつに! ここの扉を開ける為のエネルギーを全開するようにと!」

と耶江、いや早瀬理露が叫んだ。




 


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