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求める先に  作者: 星葡萄
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第四十一話

「邪魔だッ!」

龍司は槍を横薙ぎに力強く振るい、大気中の水をかき集めるというアーティファクト能力を発動。群がる生物に、圧縮した水圧弾の嵐を浴びせながら耶江に振り返る。

「おい耶江、こんなとこに長居は無用だ!さっさと扉を目指すぞ!」

「俺もそれに賛成だ。何より、コイツら殺しても殺してもキリがない」

パウザは龍司に同調し、音叉を携えた両手を、自分の身体を十字架に見立てる様に真横に上げ、半回転する。右手を縦に一閃、左手を横に一閃する。放たれた衝撃波は秒速八五メートルを越える速度で生物に飛来し、まるで竜巻の様に切り刻んで吹き飛ばした。

「別にそんなに強くはないッスけど、やっぱ人海戦術はキツいッスねぇ」

「俺もこんなとこにゃ居たくねぇって!なぁ耶江、逃げよう!」

ギィィィィィィィン、と甲高い悲鳴を上げ、タービンエンジンの駆動音が響く。ナイアは右手のガントレットに装着されているブースターに流される様に、生物の群に突貫する。ダンプカーにひかれる様に次々に生物が砕けていく。

ウィルは9mmパラベラム弾を無限精製するアーティファクト能力を駆使して弾幕を張り、撃ち続ける。確実に手足を撃ち抜き、戦闘不能にしている辺りがウィルらしい。

「おい、耶江!聞いてんのか!?」

「駄目よ。まだあの量子コンピュータには用がある」

クローン素体の出来損ないが群がるこの部屋の奥を見据え、耶江は淡的に呟く。

「はぁ?馬鹿かお前は!コイツら全滅させろってのか!?いや確かに出来ない事もないだろうけど、面倒だ。そこまでやるメリットを言えメリットを!」

「あれはおそらく管制用のコンピュータよ。あれを使えばここの見取り図くらいは手に入るかも知れない。そうすれば後は直進するだけよ。これだけじゃ説明として不服?」

「うっ……」

「だから、アンタ達に提案がある。聞いてほしい」

「提案?」

龍司とパウザが訝しみながら耶江に振り返る。

「五分。私が量子コンピュータを扱う五分間だけでいい。私に一切の攻撃が来ない様に守ってほしい」

「……そんな短時間で何が出来る?」

「無論、扉までの道案内(ルーチン)。二分でパスワードを打ち破って、二分で見取り図をフォルダを見つける、そして三〇秒で覚えて三〇秒で破壊する。後は私が先頭を、あんた達はついてくるだけでいいわ」

「……龍司」

ポン、とパウザが龍司の肩を叩いた。その行動の意味は、聡い龍司にはすぐに理解できた。

「……分かってるよ。多分、闇雲に行くよりかは安全だろうしな」

「よし、そっちの二人も異論ないわね!?」

ズガガガガガガガガ!

ダダダダダダダダン!

凄まじい音を響かせて戦う二人も耶江に振り返りながら叫ぶ。

「道はウチがこじ開けてやるッスよ!」

「俺は弾幕を張り続けて追撃を防いでやらぁ!」

言うが早いか、ナイアはガントレットのブースター全開で突撃。量子コンピュータまでの道を切り開く。続いてウィルは走りながら、群がるゾンビの様なクローン素体の動きを封じ、パウザが固まっている群に向かって衝撃波を放ち、弾く。

「龍司。期待してる」

「任せろ。お前に攻撃なんかさせない。指一本触れさせない。……期待してるぜ、リーダー」

耶江はきょとんと目を見開いていたが、やがてニヤリと悪役の様な笑みを浮かべた。

「遅れるなよ、龍司!」

「応!」

二人は、駆けだした。





†††††††††





「……接触(アクセス)?」

量子コンピュータの前に立っていた優牙は、アラートメッセージを読み上げながら呟いた。

「場所は……素体廃棄場(ジャンク)?どうしてあんな場所から、ここにクラッキング出来るんだ?確かに管制用の量子コンピュータがあるにはあるが……」

あの量子コンピュータが使われたとして、優牙とゼロだけの空間である『ここ』には侵入(クラック)出来ない。その為の『保険』もかけてある。

「いや……考えられる可能性としては、アイツか」

三国 耶江。ある意味、龍司よりも要注意人物だ。くせ者……と表現するだけでは足りない。あれはあらゆるルールバランスを突き崩す程に危険な存在だ。

「ふん。革命者(バランスブレイカー)、か」

村娘が救世主(メシア)になる。持ち込まれた動物が食物連鎖を壊す。革命者(バランスブレイカー)とは、あらゆる整った世界を常に崩す者だ。

「……面白くないな」

優牙は椅子に座り、量子コンピュータを見据える。

革命者(バランスブレイカー)の名を担うのは、僕の役目なんだよ」





†††††††††





立ち上げた量子コンピュータに辿り着いた耶江は椅子に座り、指が霞む程に超高速でキーボードをタイプしていく。

カシャカシャというキーボードの音は、耶江を守る四人の戦いの音にかき消されていく。

(二分……って言ったけど、ぶっちゃけこりゃ二分じゃ無理かしら。セキュリティが厳しすぎる。あ〜クソ、自分で言い出しといてなんだけど、面倒だわ)

今回、計画してハッキング用のソフトを自作して持ってきた耶江だが、なかなかセキュリティが強固で破壊できない。アメリカのホワイトハウスくらいなら余裕でブチ破るソフトを使っているにも関わらず、だ。

(というか、このセキュリティは何かがおかしい。クラック出来ない程のセキュリティではない筈なのに、どうして壊せない?)

まるで、リレーをしていてゴールが目の前にあるのに、ゴールテープが逃げている様な気分だ。耶江はガリッ、と歯を噛みしめる。

(……ん?)

違和感がある。意識が加速し、冴えていく。

「いや、違う!これはセキュリティが強固なんじゃない、リアルタイムで書き換えられている!?」

ガタッ、と。耶江はこめかみを爪でガリガリと強く掻きながら立ち上がった。

一体誰が……と思い、考え直す。

「耶江!何があった!?」

振り返る事なく、龍司が叫ぶ。

「多分、これは優牙かその仲間の仕業!セキュリティを崩す度に書き換えられてるの!」

「なっ……、それじゃデータを引き出すなんて無理じゃねぇか!」

「クッソ……、ムカつく真似ェしてくれやがるわね、アンタの友達!」

ため息を一つ吐き、耶江はリュックの中を探り始めた。

取り出したのは、禁煙パイポの様な物だ。プラスティックのあれだ。

「こんな時に何やってんだテメェ!ってかタバコなんて吸ってんのかお前は!」

「うっさい!私はタバコなんか吸わないしこれも禁煙パイポなんかじゃないわよ!」

「だったらそりゃ何だよ!どう見たってパイポじゃねぇかよ!」

「違うっつってんだろ!聞けよこの猿!」

耶江はパイポをくわえ、吸いながら龍司に向き直る。

「これはスマートドラッグ、通称スマドラ。ハーブ系のエフェドラとも言う」

「……ってそりゃ合法麻薬じゃねぇか!うわぁ余計にタチ悪ィよお前!」

「ほっとけ!これキメてると頭がスッキリするの!依存性のあるクスリである事に間違いはないから、一日にそう多用は出来ないケドね」

それだけ告げ、耶江は量子コンピュータのキーボードに手を添える。言及しようと龍司は耶江に向かって駆け出そうとしたが、クローン素体の群が次々に襲いかかって来るせいでどうにも動けない。

パイポをピコピコと上下に動かしながら、耶江はキーボードに手を添える。

(さて……どこの誰だか知らないけど、私に勝てるとでも、本気で思ってんのかしら?)

カシャシャシャシャ!と。

耶江は書き換えられ続けるセキュリティよりも早く、キーボードを叩き続ける。ポンポンポンと軽快なリズムを刻む様に、通り雨が道路を濡らしていく様に、ウィンドウが表示されその上にさらに新たなウィンドウが表示されていく。あっという間にモニターが埋め尽くされる。

(一〇……九……八……七……六……五……四……三……二……一……)

タン、と軽やかにエンターキーを弾く。ポン、と最後のウィンドウが開き、そこにはこう書かれていた。

『アクセスしました』

「いよっしゃあ!」

叫びながら、耶江はガッツポーズを取る。小柄で少女らしい身体つきなのに、何故か男らしいという形容がピッタリと当てはまる。

「見っ取り図見っ取り図〜、っと♪」

テキトーに片っ端からフォルダを開いていこうと、耶江はとりあえずアイコンが一番近くにあったフォルダをダブルクリックする。

『MAP』

中にはそんなフォルダ名のアイコンがあった。

「……わぁお。いきなりビンゴじゃん?」

バカにされてんのか?と耶江は眉間を指で摘みながら、マップを表示する。モニターには3Dマップとその位置座標が浮かび上がり、耶江は様々な角度からマップを見て記憶に刻んでいく。

(随分入り組んだ造りなのね。ちょっと意外。ここによくこれだけの道を掘れたもんだわ)

座標があるから覚えやすい。ほんの三〇秒足らずで、トウキョウドーム三個分はありそうな入り組んだマップを覚え――、

ふと気付いた。

(……座標?)

何の為に?座標をつける意味がない。

そもそも、どうして量子コンピュータが設置されている?このくらいの設備でも家庭用のパソコン数台で済む。果たして、一台ン十億もする究極のマシンスペックを誇る量子コンピュータを何台も持つ必要がある?

それに、優牙やキーファやシャオは、まるで空間に溶ける様に姿を消していた。どうやって?

(待って。量子コンピュータだって?)

強大なマシンスペックで力任せに膨大な演算式を展開する量子コンピュータ。

それは例え『概念的な空間ですらも』予測演算できるのだ。風の動き、水の動きですらも。

(まさか、まさかまさか、物理転移(イマジレイト・マタリスク)!?)

SF映画ではお馴染みの、機械から機械へと瞬間移動するあれを思い浮かべれば分かりやすいだろう。

(ソフトが中に入ってる訳か。だとすれば、)

とんでもない落とし物だ、と思いながら、耶江はちゃっかり自作ハッキングソフトを忘れずに回収しながら、ソフトを起動させる。キーボードを叩き、パイポを強く吸い、ローディングに入ると同時に耶江は立ち上がり、クローンと戦い続けていた龍司達に向かって走り出す。

「こっち!」

「何?」

群がるクローンをかいくぐり、時に弓で射抜きながら、耶江は走り続ける。

やがて部屋の隅で立ち止まり、耶江は叫ぶ。

「早くっつうか速く!あと三〇秒しかない!」

ふむ、と龍司は呻き、皆に呼びかける。

「今はとにかくアイツを信じよう。アイツがリーダーだ」

「さっきタバコがどうとか口論してなかったか?」

パウザの鋭い指摘に、龍司は怯まずに答えた。

「タバコを吸う女、嫌いなんだ」

「合法麻薬吸ってるぞ?」

「…………(汗)」

「いいから速く来いっつってんだろうが!」

ふと二人が耶江に目を向けてみれば、すでにウィルとナイアは近くにいた。いつの間に……、と思いつつも二人は走り出した。

「あと五秒!」

5……。前方に立ち塞がるクローン素体の数は一〇と確認。五体の列が二列を作っている。

4……。龍司は槍を前方に投げて床に突き刺し、柄に跳び乗り、反動を利用して手前のクローンを避ける様に大きくジャンプ。パウザは音叉を龍司が飛んだ方向へ投げ飛ばしながら槍を掴む。

3……。龍司は空中で音叉を掴み、槍に変質させてからもう一つのアーティファクトを槍に変え、クローンの真上から突く。ザザンッ、とクローン二体が真っ赤な血を噴き上げて死んだ。一方のパウザは掴んだ槍を音叉に変え、横薙ぎに振るう。衝撃波で立ち塞がるクローン全てを吹き飛ばした。

2……。龍司は槍をすばやくアーティファクトに変え、着地した瞬間に槍に戻し軸足を中心に反転し、横薙ぎに槍を振るう。残る三体を払うと同時に、パウザが駆けてくるのが見えた。

1……。龍司はアーティファクトを縦に構え、パウザは慣性の法則のまま跳び、槍の柄を蹴った。

0……。雪崩の様に、二人はウィルに体当たりを見舞った。「げふぉあ!」とアクション映画のやられ役みたいな派手な演出でウィルは仰け反り、《ズゴン》と壁に後頭部を打ちつける。

その瞬間、五人の身体が空気に溶ける様に、消失した。





†††††††††





「五番キーファより八番キーファへ通達。三国耶江一味は物理転移で五秒後に扉前に転送される」

唐突に、キーファは語りだした。コワルスキーは怪訝に、ゼロは驚愕にキーファを睨み付けた。

「なっ……あれはボクか優牙以外の人間には扱えない筈だ!まさか優牙がここに招いたとでも言うのか!?」

「違う。操作したのは三国耶江本人さ。彼女はIQ的には君達より劣るが、あらゆる意味で君達より厄介な奴さ」

キーファがそう告げた瞬間、《ブン》と羽虫の羽ばたきにも似た音が響き、次の瞬間にはバタバタという音がした。

「う〜……ちゃんと成功してよかったぁ(耶江)」

「ちょっと待て。失敗してたらどうなってたんだ俺ら?(龍司)」

「原子レベルに分解されたまま空気と結合するか、良くて壁にめり込むかな(耶江)」

「そんな危険な賭だったのかよ!(パウザ)」

「まぁ結果往来ッスよ(ナイア)」

「……字が違ってるぞ(龍司)」

「おいお前ら!談笑してないでさっさとどけ!出る出る内臓(なかみ)が出る!ヤバいっつの!(ウィル)」

『……あ(一同)』

四人は視線を下げ、伏せたウィルに腰を下ろしている事に気付き、そそくさと立ち上がった。

「……ねぇキーファ。聞きたいんだけど、」

「あれがボク達より厄介な奴だって?冗談キツいね」

「いやぁ、まぁ……その、多分ね。うん……自信なくなってきた」

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