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求める先に  作者: 星葡萄
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第三話

「あの坊や達、まだこのサバイバルの本当の狙いには気づいてないみたいね・・・・。」

草陰に身を潜めながら、奇妙な紫の装束に身を包んだ男が呟く。

「ん?あの女、前にも見たことあるわね・・・。

あ・・・・・!!!!!」

男は思い出したように小さく叫んだ。

「あいつは・・・・・・あの時の・・・・あの時の・・・・・弓の女・・・・!

・・・要注意だわ・・・・・・。」

そして次の瞬間、針金のように細い体は、ふっと周囲の風景に溶け込むように姿を消した。









二日目の昼頃、二人は早足で湖に向けて歩いていた。

二日目となると、他の参加者のかなりの数が湖の近くまで来ているに違いない。その為、龍司は少々焦りを感じていた。耶江は前回の参加経験があるせいか、まだ余裕のある表情で、はぐれまいと小走りで龍司を追いかける。日が昇ると同時に出発してからというもの、ずっと歩き通しだった。

「ね、龍司!ちょっと速くない!?」

耶江が怒ったような口調で言う。

「あったりまえだろ!ちんたらしてたら他の奴に先越されちまうだろ。」

右手に持った折り曲げた地図と周囲の風景を見比べながら、ひたすらに早足で歩き続ける龍司。

「大丈夫だってば・・・。湖に早く到着しても、その先が難しいんだから。」

呆れたようにぼそっと言い放った耶江の言葉に反応し、ピタリと龍司は足を止める。


「・・・・は・・・?」


くるりと向き返った龍司の目をじっと見つめて、耶江はぷっと吹き出した。

「だからさ、湖までは誰でも簡単に行けるんだって。

じゃなくてさ、差がついてくるのはその先!

まだ二日目よ?もうちょっと余裕持って行こうよ?。」

腰に手をあてて耶江は幾分偉そうに言う。

「・・・そうなのか??

俺を騙すとかじゃなくて??」

疑わしそうに目を細める龍司に耶江が溜息を漏らす。

「あのねえ・・・、あんたを騙してあたしに何の得がある訳?」

そして心の中で、この男は少々厄介な男かもしれない・・・と密かに思う。


「・・・ま、そういやそうか。」

ニ、三秒考えた後、納得したのか、先程の半分の速さで歩み始めた。


(でも、大変なのは、湖に着いてからよ・・・!

さすがのあたしでも、まだあなたを出し抜く気は無いわ。

それはもう少し先の話になりそうよ、龍司。)



「ズバーーーーーン!!!」



すぐ近くで激しい銃声が鳴り響く。

鳥がバサバサと数十羽木の枝々から飛び立っていく。

「な、何!?」

二人は音のした方角をじっと見つめながら、耳を澄ませた。

「今のは相当近かったぞ。」

恐る恐るその方角に足を進める龍司の腕を、耶江が勢いよく引っ張った。

「他の参加者同士の闘争に巻き込まれるかもしれないのよ?」

出会ってから初めて見せる不安そうな表情に、龍司は少しドキリとしながらも、その手をゆっくりとほどいて小声で囁く。

「ちょこっと覗いて、やばそうだったらずらかるしかねえだろ。」

舌なめずりして、ゆっくりとその場に向かって行く龍司の背中を見て、思わず耶江はまた溜息を漏らす。

(こ、こいつ・・・・・。)


息を潜め、適当な木の幹と草陰に身を隠しながら静かに覗き込む。

一体、参加者同士でどんな激しい争いが巻き起こっているのやら・・・、もしくは、どんな醜い変異生物との戦いが繰り広げられているのやら・・・・。


「うがああああああああああ!!!!!!

くっそ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」


ぎょっとして見ると、黒いスーツ姿にネクタイ、紳士的なハットを被った男が悔しそうに地団太を踏んでいる。

戦いや争いは影も形も全くなく、ただ、男が地団太を踏んでいるだけ・・・・。


「あの人、何してんの・・・・?」

ぽかんと口を開けたまま、耶江が呆気にとられている。

「見ろよ、あの人の右手・・!」

男の右手には、あの奇妙な紋様、そう、龍司の槍に刻まれていたあの紋様と同じものが刻まれた、少し変わった形の銃が握られていた。

「あ・・・・・・!!!」


「誰だ!!!!」

鋭い男の声が向けられ、その手にした銃が確実に二人の隠れている場所に向けられていることに気づき、二人は観念して、両手を挙げて草陰から身を現した。

「お前ら、そこで何してる!」

男はぐっと銃を龍司の頭に向けている。

皮膚は肌色で髪は黒いが、顔は日本人離れしていて堀が深い。ひょっとすると、日本人ではないのかもしれない。いや、両親のうちのどちらかがラテン系の人種なのかも。

顎の下に五センチ程伸ばした髭はきれいに手入れしてあり、見た目はどうみても紳士といった感じだ。年齢は二十七、八歳といったところか。

「近くで銃声が聞こえたんで、見にきたんです。」

つーっと額から冷や汗が流れ落ちる。

こんな最初の辺りで、まだ死にたくはないという気持ちと、なんとかしてこの場を脱出せねばといった考えが頭の中をぐるぐると駆け巡る。

男は、疑わしそうな目つきで龍司と耶江を頭から足の先まで何度も往復させて眺めた。


(だからやめとけって言ったのに・・・・!!龍司の馬鹿っ・・・・。)

耶江が全責任を求めるような視線を龍司に飛ばす。

龍司はそのことに気が付きながらも、あえて気付いていないふりをした。耶江のことだ、申し訳ない素振りなど一瞬でも見せたら、それを弱みにどんな無理難題を押し付けてくるか分かったものじゃない。


「じゃあ、なんでそんな草陰で身を潜めていたんだ?何か狙いでもあるんじゃないのか?」

まあ、普通に考えてみれば、同年代の二人が共に行動するなど(特にこの状況で)、協力して敵を確実に潰していくという作戦以外に考えられない。つまり、もともと二人共同ででこの企画に参加してきたと予想できる。この男も、一般的にそう推測したのだ。

「そ、それは、その・・・。」

「ばっかじゃないの!

あ〜んな大きな銃声が聞こえたら、誰だってこっそり様子を見に来るに決まってるじゃない!

身を潜めてたのは、もしかすると参加者同士の争いに巻き込まれるかもしれないと思ったからよ。」

と、龍司の途方にくれた言葉を掻き消すように耶江が正当でかつ適切な返事をした。それは、確かに納得のいくもので、言葉振りからは偽りが感じ取られなかった。

「それに、私、この人とは昨日会ったばかりよ?

本当のこと言うと、この人のこと何も知らないし、なんかちょっと当てになんないし。」

危険な目に遭わされたことへの、耶江の密かな言葉の仕返しに、まだ冷や汗の浮かぶ表情を歪めながら、龍司は苦笑した。


男はゆっくりと構えていた銃を下ろすと、それはすぐさま元の正二十面体の結晶に姿を戻した。

「そうか・・・。どうやら敵ではないらしいな。」

その瞬間、龍司はふうとその場にへたり込んだ。


「ところでお前ら、ひょっとして、ひょっとすると、湖に向かってる途中だろうな?」

男はへたり込んだ龍司にその手を差し伸べ、立ち上がる手伝いをしてやる。

「は、はあ・・・・。」

男は、ポリポリと頬をニ、三度掻くと、コホンと咳払いをしてから、少し恥ずかしそうにもごもごと話し始めた。

「そ、そのだな・・・、恥ずかしいことに、昨日の晩変異生命体に荷物を全部持って行かれちまってだな〜〜・・・、この結晶体以外何も持って無い訳よ・・・。だから・・・そのだな・・・・、道に迷ったと言うか・・・その・・・・。」

はっきりと言おうとしない男に耶江はイライラとする。

「もうっ!はっきり言って!」

男の体がびくんと跳ねると、意を決したように深呼吸した。

「だから、そのだな、湖まで同行させてくれ!。」

少なからず予想してはいたものの、これはまずい展開になった。

ここは、一人でもライバルが少ない方がいいというのが二人の本音だろう。

「ま、ただって訳じゃねえ。

自慢じゃねえが、俺はちっとばかし銃の腕には自信がある。

どうだ、俺が同行する間、俺はお前らを決して裏切らないし、命を張って護衛してやる。」

立ち上がって服に付着した土埃をパンパンと払い落としながら、龍司は頷いた。

「ま、いいんじゃないの。」

「ちょっ、ちょっと、龍司!?」

耶江は突然の予想外な龍司の言葉に動揺を隠せない。

「湖までっつってんだし、俺はいいぜ。それに、護衛してくれるらしいし。」


(そ、そっか。湖に着いてからが勝負なのよね、考えてみればそうだわ。

腕はどうか知らないけど、確かに護衛って美味しいわね・・・。いざとなったら、囮にでもして逃げちゃうって手もあるし・・・。)

こんな思考をを瞬時にして駆け巡らせ、耶江も結論を出した。

「あたしも別にいいわよ。」


それを聞いたと同時に、男はガッツポーズで「ひゅうっ」と口笛を鳴らした。


先程から妙にひっかかるこの男の言動。

紳士的な見た目とは似合わないこの言葉遣い、動き・・・、


「おっ、名前を言ってなかったな。

俺はウィリアム・J・マキハラ。ウィルっでいいぜ。あんたらは?」

帽子を取って軽く頭を下げる。

「俺は奈義原 龍司。」

「あたしは三国 耶江よ。」

ウィルの馴れ馴れしい態度に嫌悪感を抱いているのが、耶江の表情からあからさまに見てとれる。

「よろしくなっ、龍司、耶江。」

そのことを知ってか知らずか、ウィルは二人の肩をぽんぽんっと軽く叩くと軽い足取りで先頭を切って歩き始めた。これが荷物を持たない男のすることか・・・。

「さあさ、ちゃっちゃと行こうぜ!日が暮れちまわねえうちによ!。」


呆れ返った二人はぼそりと呟く。

「銃の腕がいいって怪しいものね・・・。さっきの発砲、あたしの予想だけど鳥を狙って外したんだと思うわ。」

「ま、まじかよ・・・!?」



しかし、このとき龍司と耶江は、ウィルの力を、この先身を持って感じることになろうとは、まだ思いもしなかったのである。
























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