第三十二話
「コワルスキーよ、お前もしばらく会わん間に随分とワシのことを調べ上げたみたいじゃのぉ。」
シャオ老人はそういうと、静かに地上へと降りてきた。そして、コホンと咳払いしながら続ける。
「確かに。ワシは異界の扉の番人でもあり、そして向こう側の世界の住人でもある。唯一、扉の番人である者だけがこちら側と向こう側の世界を行き来できたというわけなのじゃ。ちなみに“シャオ・リュウ”はこっちの名前であって、本名はまた別にあるんじゃがの。フォっフォっ」
「なるほどね。僕はあなたの情報を収集すべく島中を探し回っていたというのに、今の今まで姿すら見つけ出す事が出来なかった。ただ、なぜか監視カメラには時折あなたが見え隠れして映っていたはいたんだけどね。僕自身それをみて、あなたには只ならぬ雰囲気を感じてはいたが・・・・・・まさか異界の扉の番人だったとはなぁ。僕の情報収集力をもってしても全く歯が立たなかったのも頷けるよ」
ようやく状況を飲み込み始めたキーファは、腰を抜かすという自分らしからぬ失態に、少々気まずそうに左手で眼鏡をくいっと上げながら立ち上がった。
「フォっフォっフォ〜(まあ、龍司と優牙には直ぐに見つかってしまうんじゃがな)」
「で、シャオ。これからボク達をどうするつもりなんだ」
コワルスキーが背の低いシャオ老人を少し見下ろし気味で不審そうに尋ねる。
「ワシの役目は異界の扉を守る、それだけじゃ。よって、場合によっては愛弟子といえど容赦はせんよ。じゃが、今は時間がないんでの。ゼロの奴がお前の恩人でもあるウィルの妹、サマンサを生贄に、異界の扉を無理やり開けようとしておる」
「なにっ、サマンサを生贄にだと!?」
「さよう。優牙が合流すると共にそれも直ちに開かれよう。ワシは何より先に優牙を食い止めねばならぬのじゃ。この命に代えてもな。」
「・・・・・・」
コワルスキーは言葉が見つからなかった。
「総ては優牙にこの扉の存在を知られてしまったワシの責任じゃ。あやつがワシの前から姿を消してから今日に至るまで、利用できるものは何でも利用してきた。それは、TDCやゼロも例外なくのぉ。」
(ゼロ・・・)
「優牙にはどうしても叶えなければならない夢があるということじゃな。・・・・・・悪に魂を売ってまでも」
(!!)
「じゃが、それは龍司や耶江という娘とて同じこと。それぞれが、あの若さにして背負っているものは計り知れん位に重い。ただ、あやつは道を踏み違えたんじゃよ」
シャオ老人は少し表情を曇らせた。
「さあ、話は此処までじゃ。お前たちはこの先を急げ」
「ああ。」
コワルスキーは真っ直ぐ前を向いたまま走り出した。そして、そのまま振り返ることなくシャオに言った。
「どうか、ご無事で!」
キーファも後に続く。
「フォっフォっフォ。なーに、心配は無用じゃ。わしゃ〜〜まだまだ生きてこの世界の行く末を見届けるつもりじゃわぃ」
(うむ。いくらこの地下通路が迷宮と言われど、優牙達が来るのもそう時間も掛からんじゃろう。それまでワシは身を隠して身体を休めておくとしようかのぉ)
シャオ老人は、再び空間の歪みの中へと消えていった。