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求める先に  作者: 星葡萄
32/55

第三十一話

「ねぇ、教えて欲しいんだけどさ」

とキーファが前を行くコワルスキー博士に、馴れ馴れしく言い掛けた。

「なんだよ」

 コワルスキーは振り返りもせず、ぞんざいに尋ねる。

「なんであんた、ゼロを殺すつもりなんだい?」

「だって、ゼロはわたしだからじゃないか」

 当たり前のような口調で、コワルスキー博士は答えた。

「自分自身を殺す? 確かにな〜、あいつはあんたの第二のあんた、つまりクローンだけどさ。でも自分のクローンを殺すって事は、自分自身を殺すかもしれないってことじゃない?」

「当たりさ」とコワルスキーは不気味に言った。


「あんた、大当たりだね。つまりこういうこと。ゼロは第二のわたしであるということは、変わりないのさ。遺伝子的に、思考能力、体力、知力、そして考えること全てが同じもの。弱点も、強い箇所も同じもの。ゼロはやがて、“第二の私”になってしまうってこと。それは分かるね?」

「一応、俺だってIQは148あるし〜〜」

 キーファはむくれてみせる。

「でもゼロはクローンだけど、わたし自身じゃない。将来のわたしだけど、未来のわたしじゃない。だって、未来なんか分からないんだものね」

「つまり?」

「だから、ゼロを殺す。今のわたしのようにさせたくないためさ」

「ん?」

「いい? わたしは科学の為に大勢の子供たちを殺してきた。いわばわたしの研究していた“永遠の命”は、罪のない子供たちの死骸の上に成り立っているということ。ゼロとわたしが根本的に違うのは、ただ一点。わたしは罪を犯した。けれどもそれを悔やんでいる。だけど、ゼロは決して悔やまないし、後悔しない。あんな危険な存在はないのさ。わたしとゼロはやっぱり違うんだ。物理的には同じでも、でも精神的には全くの別人。だから、意識が一緒にならなないんだ。だけど、わたしには、ゼロが何を考えているか判る。だって、わたしが作り出した、最高傑作だもの!」

 ほんの一瞬、コワルスキー博士の顔には、忘れ去った女性的な輝かしい微笑みが浮かんだ。けれどもそれも儚い幻のようだった。次の瞬間、博士の顔にはこの上ない苦悩が表れていた。


「あんたみたいな、低級な存在には分からないんだよ、天才の苦悩なんてのは」

「ああ、そうですよ。どーせ、どーせ、俺なんかは低級動物ですって」

 キーファは、この博士が苦手だが、けれどもどこかで賛同しているところがあった。

「だから、ゼロを殺す! だけどわたしは知っている。ゼロをプログラムしたとき、ゼロが死ねばわたしも死ぬって……」

「へ!?」

 さすがにキーファは驚きの声をあげた。

「自分が死ぬと分かっていても、あんたは、ゼロのところに行くわけ?」

「そう。だから、あんたに道案内してもらっているんだ!」


 馬鹿にしたようなコワルスキー博士の声がした。

 けれども、風が起こり、妙な空間の歪みの中に、何やら怪しげな陰が見え隠れしていたと思ったら、その陰がはっきりとしてきた。

「!!」

 コワルスキー博士は突然立ち止まった。

「シャオ! 我が恩師よ。どうして? あなたはわたしが殺したはずじゃ……」

「まだまだ修行が足らんのう、コワルスキーや」

 キーファはただ腰を抜かしたまま、ガタガタ震えていた。

「邪魔すんな! 異界の扉に行かなくちゃならない!」


 けれどもシャオ老人は、スーッとキーファの方に移動した。そしてシャオ老人は、老いたりといえども澄んだ瞳で、二人を見下ろしていた。そういえば、老人の足元は宙に浮いているのだ。

「あそこには、前を行く者どもがもうすぐ到達するであろう。扉の前には、ウィルの妹サマンサが息も絶え絶えで横たわっておるぞ! わしは邪魔をしに来たのではない。導くために来たのじゃ。愚かな者どもよ!」

「ちょ、ちょっと! こ、こいつ、一体誰?」

と震え声でキーファがコワルスキーに尋ねると、博士は淡々と言った。


「彼が異界の扉の、真の番人……」

「ば、番人?」

「つまり、真実の旗手ってやつさ」


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