第二話
龍司と少女の間には、妙に気まずい空気が漂っていた。が、一旦少女は龍司から視線を逸らすと、両腕を勢いよく振ってスタッと立ち上がった。
「あたしの名前は三国 耶江。おかげで助かりました。有難うね!」
そう言って少女は、ニッコリ微笑み、龍司に右手を差し出し握手を求めた。
少女の開き直りのよさに、龍司は少々あっけに取られた様子で手を差し出した。
「俺の名前は奈義原 龍司。・・・・・・一応、宜しく。」
「ヨロシク、龍司。あっ、耶江でいいから!」
(・・・何か、俺の苦手なタイプかも。)
龍司は引きつったような愛想笑いを浮かべた。何となくだが、龍司には耶江が次に言わんとしている事が解っていた。
「そんじゃ、もう会う事は無いかもしれないけど、くれぐれも気を付けてな。お互い。」
そのままポケットに手を入れるとゆっくりと又歩き出した。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ。龍司。」
(う・・・やっぱり、な。)龍司は思わず眉をしかめた。
「か弱い女の子一人を置いて行ってしまうわけ?」
「何が言いたいんだよ。」
「あのさ、頂上付近まで一緒に行動してもいいかな。」
耶江が目をきらきら輝かせながら、しかし、必死に訴えているのが表情からも見て取れる。
「・・・あのなー、ついさっき人を囮に逃げようとした奴を信用して一緒に行動出来ると思うか?第一、俺は最初から一人で行動するって決めてんだよ。女と一緒なんて、もってのほかだ。」
「そんなー、冷たいこと言わずに、ね。お・ね・が・い。」
耶江が目をぱちぱちさせながら、お道化たように言う。
「無理だね。」
龍司は後ろを向き、再び立ち去ろうと歩き出した。
「あの湖はあなた一人じゃ絶対に渡れない。」
後ろから耶江が真剣な声で言う。
「・・・・・・。」
図星だった。龍司自身、これからどうするべきか全く当てが無かったのだ。
「それにあなた、見たところ今回が初めての参加でしょ?あたしは、前回にも参加してる。少なくともあなたよりは、此処の地形に詳しいつもりよ。現にあたしは、向こう岸まで渡ったからね。その後は、此処の原因不明の病気にかかっちゃって断念せざるを得なかったけど・・・・・・。」
(あの湖を渡っただと!?俺とそう歳も変わらないはずなのに?いったい何歳の時に参加してんだよ。信じられねぇ。)
「あ、ついでに言っとくけど敵は変異生物のような見える敵だけじゃないよ。他の参加者が仕掛けたトラップや、あたしの様に此処特有のウィルスに感染する可能性だって大いに考えられるからね。今回あたしは、それに対応するために、道具や解毒薬等の薬も持ってきてるわ。」
「うぅ・・・・・・。」
もはや龍司には、耶江の同行を断る理由など何処にも無かった。
「ふふ、ほぼ決まりねっ!」
「わっ、分かったよ。言っとくけど、まだ信用した訳じゃないからな。」
「やったあーー!」
耶江が龍司の元に、弾むように駆け寄って来た。
こうして、龍司と耶江の奇妙な冒険が始まった。しかし、二人は気付いていなかった。遠くからその様子をじっと見ている影があることを・・・・・・。